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トカゲの気持ちがわかるとは

作者: ハル可ナ

続バッドフライデー。


「一緒に帰ろ?」

にっこりと笑顔を向けてくる物騒な男。

こいつに捕まらないために教室の窓(一階ですあしからず)から脱出したのに。

その先にいるとかどういうことなの。

「絶対嫌だからここから帰ろうとしたの知ってる?」

「うん。照れ屋で可愛いなって」

甘く微笑まれる。きっっしょい。

盛大に顔に出ていたと思う。そんなことは気にせずにはい、と差し出された手。繋ぐわけない。

視線だけ落として目の前を通り過ぎた。




「井坂さん、才南って呼んでいい?」

「嫌」

少し後ろを歩く男を警戒しながら足早に進む。

逃げ出したいけど、正直足の速さに自信がない。

無駄に体力を削るのはよくない。不測の事態に対処できない。

「ていうか、井坂さんちってこっちだっけ?」

ちがう。こいつに家を晒したくないから闇雲に歩いてる。

家だけは知られたくない。早く諦めてほしい。


「っ、い!」


ふいに後ろで束ねた髪が強く引っ張られて、痛さで声が出た。

思わず足が止まる。

後ろの男が、私の髪を掴んで足止めしたのだ。

「無視しないでよ、寂しい」

何が寂しいだ、遠慮なく全力で人の髪を掴んでおいて。

強く引かれる痛みで否応なしに近づく。変態と目が合う。

「やっと目が合った、嬉しいな」

「アンタの顔なんか見たくない」

「そんな冷たいこと言わないで、俺はもっと見たいよ。いろんな井坂さんを見たい」

髪を掴んだまま、変態男が歩き出す。逃げられずにずるずるとついて行くしかない。

「よくわかんないけど井坂さんがうろうろしたおかげで、俺の家すぐそこなんだよね。お茶でも出すよ」

「あ!?」

最悪だ。墓穴掘った。

自分のしくじりに後悔しながら必死に考える。

家は絶対ダメだ。何もかも失う。簡単に逃げられなくなる。

物理的な頭皮の痛さとぐるぐるする脳に吐き気を覚えながら、鞄に手を突っ込んで「それ」を掴んだ。

ぐっと押し出して、髪に当て勢いよく刃先を滑らせた。




***


びっくりした。今の俺の素直な感想。


逃げようとした井坂さんを捕まえた。

髪を掴んで強く捻り引くと、痛みに歪む顔。最初に首を締めた時よりは余裕があって、痛みより怒りが多め。

逃げられないだろうと連れ込もうとしたのに。

彼女は鞄からいかついカッターを取り出して、束ねていた自分の髪を俺の手元からばっさりと切り落とした。

あんなに躊躇なく切り落とすとは。女の子って髪大事なんじゃないの。


走って逃げた彼女の代わりに残ったのは、手の中の彼女の残骸。

「はは、すごいことするなあ」

笑いがこみ上げる。彼女の一部だったものに口付けて、そのまま手から落とした。

持ち主のいないそれはバラバラに散らばって、地面に落ちる。

彼女から切り離されたものに興味はない。

「逃げられちゃった、残念」

大人しく帰ることにする。

最後に見た彼女の白い首筋を思い返して、次捕まえるときは切り離せないものにしようと決めた。


憩はきちんと人目がなくなってからやらかしています。きちんととはいかに。

何も知らん通りすがりの人々は落ちてる毛束に恐怖を覚えることでしょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バッドフライデーシリーズも面白かったです! 普通に考えれば余裕で犯罪者まっしぐらな感じですけど、なんかイイ! 相手の子が一切なびいてないとこも、なんかイイ! まぁそりゃ初手首締めで好き…
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