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第5話 ボクの旅立ち

 それじゃあ、これで準備は出来たのかな?

《そうだね。伝えることは全て伝えたよ》

 ボクの方からも、もう質問はない。

 後は飛び込んでみて覚えるとしよう。

 習うより慣れろ、だ。

 名残惜しいけど、この白一色の世界ともお別れだ。

 ああ、出たくないなぁ。

 もっと居たかったなぁ……。

 やばい、泣けてきた。

《とりあえず、キミの身体は大陸中央都市(ペンタゴン・シティ)からちょっとだけ外れた街道に生成されるよ》

「オーケー。じゃあ、縁があればまた」

 ひらひらと手を振ってやる。

 一瞬、全身の感覚が消失したボクは仰向けになっていた。ぱっと、視界が青空一色に切り替わった。

 転移って、もっと派手にバーっとやるものだと思ったけど。

 本当にシームレスに、景色が変わったものだなぁ。

 季節がどうなのかわからないけど、日本よりだいぶ肌寒いかな?

 背中に柔らかな雑草の感触がする。

 ああ、地球での牧野富太郎いわく“雑草”と言う草は無いんだっけ。

 雑な手入れで長短様々なこれは、メヒシバとかかな。

 上体を起こす。

 草原に、土を踏み固められただけの街道が延びていて、左右にはブナの森が鬱蒼と繁っている。

 程よく原始的、程よく文明的なファンタジー世界のフィールドと言う感じだな。

 ボクの傍らに、やっぱりあった。

 スウェーデン製の高級大型チェーンソーが。

 持ち上げて、少しだけスイッチを入れてみた。

 血に餓えた咆哮を上げて、ノコギリが回転した。

 通行人が見えない事を確認した上でのテスト作動だったけど、悪目立ちするのは得策ではない。

 チェーンソーって骨を切るのにはイイんだけど、肉や脂肪は意外と切りにくいんだよなぁ。

 まあ、ワーキャットあたりの蛮族相手への示威効果はあるのだろうか。

 あつらえたような看板を発見。

【←ペンタゴン・シティ ノーブル・ビレッジ→】

 うわ、ホントに日本語で書いてある。

 違和感凄いな。

 試しに、意識の中で【自動翻訳】のスキルをオフにしてみる。

 途端に、看板に書いてあるものが、わけのわからない図形の羅列に変わった。

 やっぱり、オフにする理由は無さそうだ。

 無知なまま都会に出るのと、どんなムラ社会が形成されているかもわからない集落に流れ込むのと、どちらが危険なのだろう?

 まあ、情報が無さすぎる現状、深読みするだけ徒労なので、都会を選ぶとしよう。

 ボクは、ペンタゴン・シティがあると言う方向に歩きだした。

 目立たないよう、森の中を行こう。

 わざわざ森の中を行く方が目立つ、と言う見方もあるけれど。


 さて。

 木々がいくらか開けた広場がある。

 早速“ヒト”と思われるモノを発見した。

 数は3。

 一人は広場の中央に立つ女。

 長い金髪を腰まで伸ばした、ゆったりとした衣を着た痩せ型だ。灰褐色を基調とした、儀礼的な金細工の入った服からして、身分は高いのだろうなと思う。

 耳はこれ見よがしに尖っている。

 死ぬ前に食べた、トルティーヤチップスを思い出したよ。

 見た感じ、無手。武装はしていない。

 恐らく、エルダー・エルフだろう。

 きもちわる。

 で、残りの2体はと言うと。

 ボクから見て反対側の繁みに潜んでいるつもりらしい。

 どちらも2メートルを超す体躯で、脂肪と筋肉が分厚い。

 黒ずんだ鉛色の肌。粗末な毛皮をアンダーウエアとして着込み、湿っぽくまだらな染みのある革鎧に包み込んでいる。

 恐らく、アレがオークなのだろう。

 エルフのオンナなんて言う心底冒涜的な存在より、ボク的には体つきの揃った彼らの方がよほど強姦するに足る存在だったけれど。

 まー、そんな事は後回しだ。

「オンナ、オンナ! エルフのオンナ! やっとみつけたよ、ダン!」

「けどよぉ、ヴェリス。あんな細っこいカラダつきじゃあ、すぐ壊れるんじゃあないか? よくて10人産めるかどうかじゃね?」

「でも、でも、今日明日で何かしらのオンナつれてかないと、族長に死刑にされるぞ? もう、あいつでいいじゃんよ」

「けど、けどさ、エルフって二種類いるんだろ?」

「あれっ? 三種類じゃなかったっけ?」

「二種類だよ! でさ、ハンターエルフってのならオレらでも大丈夫なんだけど、もしあいつがエルダーエルフってのだったら、とにかく、すごいこわいんだよ!」

 あー。

 真っ白な空間で“神”が言ってたね。

 ボクが授かった【分析(アナライズ)】の魔法、やられた側にちょっと生ぬるい感覚が走るから、

 《《最低限、知的な相手にはバレる》》ってね。

 裏を返せば、こいつらみたいなのなら大丈夫と言う確証が持てたので。

「【分析(アナライズ)】」

 遠慮なく、調べさせてもらうよ。

 

第七オーク・クランのダン

【力:112(130) 体力:140(200) 知力:25(50) 反応:85(100) 器用:42(50)】


第七オーク・クランのヴェリス

【力:120 体力:133 知力:18 反応:77 器用:26】

 

「おい、なんか今、ヘンな感じしなかったか?」

「オレもオレも!」

「まあ、気のせいか?」

「二人そろって気のせいだな!」

 

 なんと言うか。

 “なるほどね”って感じだ。

 例えば、今回の彼らの知力が25と18だった事とか。

 ダンの方が言動がマシだったのは、コレが原因だろう。

 あとは、力と体力が互角だから、まあ対等にお話出来てるんだろうな、って事とか。

 それぞれの個体名が出るのは嬉しい誤算だったね。

 第七クランと言うのは恐らくオーク族の集落を表していて、同時にこれが苗字の代わりってとこかな?

 集落単位での結束が強いことが推察されるね。

 逆に言えば閉鎖社会のイナカ者根性である可能性も大。集落間の連携は無いと見て良いでしょう。

 で、恐らく彼らの目的は、渉猟(しょうりょう)の末に見つけたあのエルフのメスを苗床に、繁殖する事。

 これは彼ら個人の私欲ではなく、どうやら集落規模での仕事である事。

 この事から、種族間での交配が可能であり、その結果生まれた幼体が、一定数以上、オーク族にとって有益な個体にーーつまりオークの子になるであろう事も予測される。

 で、オークにもメスが居るのかどうかはわからないけど、他種族からそれを調達しなきゃ存続が怪しいであろう事。

 また、少なくとも他種族を逮捕監禁した罪よりも、得られるメリットの方が上に見られていそうな事。 

 この事から、少なくとも種族間で起きたトラブルに対する法整備は極めて未熟である事がわかる。

 まあ、他にも色々言いたいことはあるけれど、今回はこれくらいにしとこうかな?

 で、一番気になる事なんだけどさ。

 

 ボクもオークどもも、こんだけ派手にやらかしてるのに、あのエルフのメスは何で気付かないかなぁ?

 

「もうアイツ、ハンターエルフって事にしようぜ」

「そうだな! エルダーだったらどうしよう、とか、考えても仕方がねえ」

「そうそう。オンナ調達できなきゃ、ジョーダンぬきでオレら、死刑だよ!」

「それじゃ、さっさとあのオンナをーー」

 

 ダラダラしたやり取りから、ようやく彼らがエルフに接近した。

 ボクの眼前が、真っ白な光の濁流に呑まれた。

 オーク二匹の連れ立っていた位置に、法外な光量・熱量を伴うエネルギーの柱が迸った。

 目を閉じても、瞼を突き抜けて光が眼球を突き刺し、焼き尽くすようだ。

 おい、これは失明するんじゃないか!? 一瞬焦ったけど、ボクには回復魔法がある事をすぐに思い出した。

 そこそこ離れた位置に立つボクでさえ、肌を焼かれて軽く火傷した。

 オークどもは、とっくの昔にその存在を骨の髄まで……根幹から蒸発し、消し去られた。

 光が、にわかに去った。

 あとに残るは、すっとぼけた顔をしたエルフが一匹。

「あれっ? “防御魔法”が作動したのかな」

 間延びした声で、そんな事をのたまう。

「ど、どうしよう……今の、ペンタゴンからも集落からも見えたよね?

 大騒ぎになっちゃう……」

 キモい事に、涙ぐみながら、そうほざく。

 今のクソ気持ち悪い独り言から察するに、あのオーク二匹を一方的に葬り去った光魔法は、不随意に発動する代物だったのだろう。

 悪意があって近付いてきた外敵を、とりあえず戦略級の威力で返り討ちにする、迎撃システム。

 まあ、あのオーク二人が“同時”に蒸発した様は、正直、目の保養になった。

「でも“ナニ”が引っかかったんだろ? ナニにしろ、かわいそうな事しちゃった……」

 一つの疑問は氷解した。

 どうして、このオンナほど強大な存在が、あの程度のオーク二匹に気付けなかったのか。

 ハナから眼中にない存在だったからだ。

 ほら。地球の皆だって、家族でもない野良猫であっても、自分が車で轢いちゃったりしたら、それなり以上に心が痛むだろう?

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