第2話 考え得る最高のイケメン=神
気が付けば、ボクは前後左右上下四方八方、真っ白な世界に居た。
ついさっきまで全身を苛んでいた痛みも、熱さも、息苦しさも、瓦礫の圧迫感も、何もかもが夢幻のように消えていた。
この、見渡す限り濃淡すらない純白の世界。
均整が取れ過ぎている。
なんて卑猥なのだろう。
ここに来た瞬間から、ボクはドライオーガズムを感じそうだった。
こ、これは何だろう?
ししし、死後の世界、とか?
も、もも、もしかして、永遠にここに居られるの!?
死んだって事は、そうだよね? 死とは永遠のものであるはず。
何と言う楽園。
生前の善行が、ここに示されたに違いない!《残念だけど、そんな単純な問題じゃないね》
!?
今、ボクの頭に、ボクが思いもしなかった言葉がダイレクトにぶっこまれたような?
《その通り。物分かりがよくて助かるよ》
そして。
無粋な事に、だ。
穢れひとつない純白の世界に、クソ汚らわしい、真水に油を注いだような歪みが生じ、
……。
……。
…………。
前言撤回。
なんて、尊い姿だろうか!
空間を歪めてボクの眼前に現れたのは。
言うなれば、
色のないボク自身だった。
極めてボクと同一の外見をした、何者かだ。
《感想を訊いても?》
「今すぐ犯したい、爆発寸前だ! でもでもっそれは勿体無い気がする! あぁー! どうしよーう!」
ボクは、素直な意見を“彼”にぶつけた。
《同感だ。ボクも寸分違わず、キミにそう思う》
すると彼も、そんな扇情的な台詞を吐いた。
この、微塵も濃淡のない真っ白な世界。
ボクと全く同じ姿をしたオトコ。
エロすぎる。
誘っているとしか思えない。
けど、犯してしまえば、不可逆だ。
もう二度と、こんな千載一遇の存在とは巡り会えないだろう。
無くなるのが勿体無くて食べられない!
そして。
まあ。
何となく、わかる気がする。
ボクが彼を犯すよりも。
彼がボクを殺す結果に終わる可能性の方が圧倒的に高いだろう。
生き物としての格差って言うの? を何となく肌で感じる。
《そうそう。やっぱり、物分かりがよくて助かるよ》
で、アンタ誰?
《ボクは神》
まあ、そうだろうね。
ボクにどうしてほしいの。
《どうしてほしい、と言うのは少しズレてるかな?
ボクは、キミの使命を伝えるメッセンジャーでしかないし》
「ボクに、使命? ボク、もう死んだよね?」
《そうとも言えるし、そうでないとも言える》
「どっちでもいいんだけど? 生きてるなら、世の中の醜い異分子どもをまた均すだけだし。
死んでるなら、この真っ白な世界で永遠に安らぎ続けるだけだし?」
ここに来て初めて“神”の表情が揺れた。
わずかに、だけども。
《残念ながら、問題はそう単純では無いんだよ》
「じゃあ結論から言ってくれる? いかな至高のイケメンと言っても、こちらの我慢にも限度があるよ」
“神”は、両手の平をボクに見せて、宥める素振りをして。
《じゃあ遠慮無く言うけど。
キミには、異世界転移をしてもらう》
「何で?」
《それがキミの使命だから》
「拒否権は?」
《無いよ》
「じゃあ、それで良いよ」
よくわからないけど、考えるのがめんどくさくなってきたのが本音だ。
成り行きに任せて、後は適当にやるだけだよ。
決めた作業をするのに小難しい事を考えるヒトなんて、いないでしょ。
《そうは言っても、キミには過酷な世界だと思うよ?》
「どうして」
《その世界は“ステータス”と“スキル”に支配されている》
あー、最近ネットの広告とかでよく見るアレ?
現実にあったんだー。
でもさ、
《でも、その程度の事、キミにはさほど問題ではないはず》
わかってんじゃん。
《問題は……その世界はエルフやドワーフと言う亜人種のみで形成された世界なんだ》
《人間族は、存在しない世界》
ぞくり、と背筋に怖気が走った。
それは、つまり。
「亜人種の、種類は?」
《エルフ二種とドワーフ、猫族、そしてオーク族》
「ッ……!」
あ、あまりに、
「多種多様、すぎる……」
地球で白色人種だの黒色人種だの黄色人種だの、
まして黄色人種の中にも日本人、中国人、韓国人……それぞれに違う特徴があって、
何なら、同じ日本人の中でも千差万別の顔があるのが、ボクは我慢ならなくて許せなくて気持ち悪くて!
地球のソレすら許せないと言うのに、種族が5つもあって?
《当然、同じエルフやドワーフでも、地球人と同じく肌の色の違い……人種の差異が更にある》
“神”が、無慈悲に告げた。
「ふざけるな……ふざけるな……そんな、そんな世界」
《滅びてしまえ。そうだろう?》
いや。
そんな乱暴な事は思わないさ。
「均さねばならない。全ての人が“同じ”になるように!」
俄然、使命感が燃えてきた。
むしろ、待ち遠しくなった。
あの退屈な地球と違って剣と魔法がある世界なんだろう? 何でもアリなんだろう?
「その世界、確かにあるんだな?」
“神”は、淀み無く首肯した。
「今すぐそこに送ってくれ薄汚いエルフとドワーフとワーキャットとオークを全部同じ挽き肉にしてやる今すぐにだ!」
《落ち着いて。ちゃんと送ってあげるさ。
けど、今のキミが行った所で、開始地点で殺されるのがオチだよ》
「そんなの関係ない! 殺す! 全部殺す!」
《まあまあ、それを効率よく殺るためにも、まずはその世界におけるキミ自身を知ろうよ? ね?》
失礼にも“神”は、ボクを腫れ物と言うか制御困難な何かのように宥めてくるのだ。




