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それが、もう1年も前の事。
人というのは案外強いもので、1年もあればあっという間に馴染んでしまう様だ。
しかもそこに自分好みの男がいたら尚更。
この世界に来た当初は、朝起きてから夜寝るまでずっと泣き続け、目がパンパンに腫れていたというのに、今じゃそんなのは見る影もなく。
毎朝ばっちり化粧をして、元気よく学園へ向かっているらしい。
というのも、スフィレーアは王太子の婚約者がゆえに王宮内で寝起きしている。
だから、リンが己の義妹になったらしいとしてもあまり詳しくは知らない。
学園はスフィレーアと同じで、しかも学年も同じはずだが、教師陣が気を利かせたのか1度も同じクラスになったことは無い。
3月ほど前に隣国へ留学して行った自国の王太子様と、スフィレーアのクラスを永遠に同じにし続けていたとは思えないほどである。
あれもまた、気を使った結果だったのかもしれないが。
何はともあれ、スフィレーアとリンは同じクラスではないし、それに加えてスフィレーアは王妃教育の一環で学園で学ぶ事は一通り終えている。だから、スフィレーアは簡単なテストで学園に通うことを免除されている。
つまり、スフィレーアとリンは殆ど関わる機会が得られなかったのだ。
だというのに、彼女はスフィレーアの目の前でさめざめと悲しげに泣く。
数人の貴族の男に肩を抱かれながら。
スフィレーアにやられたという嫌がらせをひとつひとつ挙げながら。
…馬鹿なのだろうか。
王太子妃の仕事をまだ婚約中だというのに詰められて、一日中執務室で缶詰になっているスフィレーアに、何ができたというのだろう。
そもそも、リンが今どこで何をしているかなんて、微塵も興味が無いし、そんなことに時間を費やすくらいなら、1秒でも長く寝てたい。
そんなスフィレーアの思いとは裏腹に、決して愚かではなかった筈の子息たちの糾弾は続く。
お世話になった先輩の卒業式だからと、エスコートを付けることなく出席したのが災いしたらしい。
スフィレーアの隣に立ってくれるものはなく、身に覚えのない罪が挙げられていくのを、スフィレーアはただ黙って聞いているしか無かった。
冤罪にも程がある濡れ衣を着せられて、小首を傾げながら家路を辿ったスフィレーアは気がつかなかった。
本来、卒業式とはめでたいもので、そのパーティーで糾弾なんて恥知らずな真似をしたら、どんな目で見られるかわかったものでは無い。
にも関わらず、止めるものは1人もおらず、白い目を向けられることも無かった。
それが意味する事にスフィレーアが気づけたのは、スフィレーアの周りから、スフィレーアの味方がただの1人も居なくなってからだった。