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スフィレーア・ユクリスナと聞いて、悪女を思い浮かべる人間はまず居ない。
真っ白な肌に、赤みの差した頬、パッチリとした瑠璃色の瞳は映えるような金に縁取られ、腰まで伸びる癖のない金の髪は天使の輪をのせている。
弱冠15歳にして、5ヶ国語を操り、智略に長け、その叡智を持って婚約者たる王太子を支える誇り高き少女。
しかも、己が身分を鼻にかけることなく、絶えず努力を続け、ノブレス・オブリージュの精神に基づいた慈善活動を積極的に行う。
身分の低い卑しいものも、身寄りのない貧しい者も分け隔てなく愛し接する姿を、聖女様だと呼んだのは一体誰だったか。
まだ王太子の婚約者という立場でありながら、民に愛され、国母となる日を待ち望まれている。
それは、誰が見ても確かな事だったし、その事実にスフィレーアは気がついていた。
だから、いかに現実味があってただの夢だと一笑する事が出来ない何かを感じたとしても、スフィレーアはそれを未来の自分とイコールで結ぶことが出来なかった。
王太子とは、燃えるような恋はしていないが互いに親愛の情を感じていて、自惚れでなければ戦友のような関係を築けていると思う。
国王の一族とも仲が悪い訳ではなく、寧ろ優良な関係を結べているのでは無いだろうか。
実の両親も実の家族も、特に可もなく不可もない、極めて一般的な関係性を築けていると思う。
民草も、愛され敬われ傅かれる経験はあれど、憎まれ罵詈雑言を吐かれた経験はない。
やはり、あれは夢で、現実には何ら関係の無い事なのだろう。
スフィレーアは、いまだ落ち着かない胸を抑えパチリと瞬きをする。
明日に響くといけないと、妖しく光る星を視界の端に捉え、バルコニーの扉を閉めた。
2022/11/27 表現の修正を入れました。