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叔父の死
叔父が亡くなったのを聞かされたのは1990年の8月10日の朝、少年が登山に出掛けようとしている時だった。
「忠おじさんが亡くなったから今日は登山に行くのはおやめ」
昂揚の無い少し青ざめた声色で母が言うのであった。
少年は母の言に気が動転したのか登山用ザックを担ぎ上げ、ハッとして床に下ろし「嘘」と言った。
何故叔父が死んだのかと母親に問うと、母は妙に怯えるとも悲しむともとれる表情になり少年の頭を軽く触りながら「おじさんね、首を吊って死んだの」少年は予想を裏切る母の言葉に色を失いながら頭を垂れ、袖のほつれた糸屑を引っ張り「嘘だ」と母に小さく叫び自室へ通じる狭い階段を駆け上がり布団に潜り込んだ。