1話:旅立ちの日①
「もう一杯……もう一杯だけ……」
「親父……まだ朝だぞ」
これが俺のいつもの1日だ。
ここはとある田舎町 《ギルメス》、王都 《ミルト》から少し離れた小さな町だ。近くには大草原が広がり、町は草や土の匂いが鼻を抜ける。人口は200人ほど、ほとんどの家屋は小さな2階建てで木造建築が綺麗に並んでいる。この町の中心から離れ、ぽつんと草原の丘の上に1つ家がある。そこで俺達家族はひっそりと暮らしていた。
「もう一杯……もう一杯だけ……」
これが親父、カイルの口癖だった。親父は2日前に王都ミルトから馬車で配送されてきた酒樽を1つ開けてしまった。ジョッキに注げば40杯はくだらないくらいの大きさなのに2日で開けてしまう。毎回酒樽は5つ注文しているのでこの分だと10日もつかどうか……
俺は親父が大っ嫌いだ。何故なら相当な酒飲みだからだ。
朝から晩まで家で酒をちびちびと飲み続けている。
しかも働いていない! 無職だ!
父さんは茶髪で緑色の眼、キリッとした眉、きっと元は俺のようにカッコ良かったかも知れないが、何年も毎日を飲んでいるせいか、ほっぺは熊のようにまるまるとしていて、お腹は子供が産まれそうなくらいぷっくりとしている。
「お父さん、今日はディーンの旅立ちの日なんだからお酒は飲まないって言ってたのに!」
ほら、母さんも流石に怒るよな……
「でもそんな所も……好き」ぽっ
おいミラ母さん。なんでこんな酒飲みに惚れたんだ? 両手を頬に当て恥ずかしげに呟く母さんを俺は「ポカーン」と見ることしか出来なかった。