08 いざ、教会へ
夢で神様ダレンと会った。
神様の夢だからさぞかしいい夢かと思いきや、目が覚めた時には多額の請求書を突きつけられていた。夢のはずなのに手元にはその請求書が握られていて、自称神様だと思っていたダレンは本物の神様で、今自分に起きている事も現実なんだと思い知らされた。
夢の中で、私は聖女の予定だったと教えられた。けれどそれは3年後の予定で、私はどっかの誰かのせいで無理矢理連れてこられて、その影響で向こうの世界と異世界をつなぐルートを壊してしまったのだという。
それを初めて聞いた時には、自分が犯罪の片棒を担いでしまったような不安と恐怖でいっぱいになったが、夢から覚めて冷静に考えてみると
(私って被害者何じゃ?なのになんでタブーを犯した人の為に私が汗水垂らして働かなきゃならないんだ?)
と改めて思った。本当に自分の弱さと染み付いた習性に腹が立って仕方がない。
誰もいない部屋の中で1人で暴れていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「はい。」
「どう、着れたかしら?」
ガチャッ
やって来たのはカティアさんだった。
今日は、昨日行っていた通りカティアさんが私を村の教会へ連れていってくれるらしい。
けれど、向こうの世界から着の身着のままでやって来た私の服装は、コチラの世界では変な目で見られてしまうらしい。
特にスカートの丈に問題があって、女性が人前で足を晒すのは非常に下品な事だと言われている。なので、私の膝下丈のこのスカートもアウトなのだ。
その事を知らなかったので、レヴィ君が起しに来てくれた時に既にベッドから降りていた私を見て、顔を赤くしたと思ったら目を手で隠して走り去って行った時には驚いた。
そして、カティアさんの所へ行ったであろうレヴィ君がカティアさんに「アイツ、露出狂だ!」と報告していた声が聞こえて来た時には更に驚いた。
慌てて部屋を出て、何とかカティアさんとレヴィ君の誤解を解くと、事情を分かってくれて(レヴィ君は疑いの目を向けてたけど)カティアさんが昔着ていたお下がりを貸してくれる事になった。
「すみません。着れたには着れたんですけど・・・」
「あらあら、少し大きかったみたいね。」
貸してくれた服は、白いハイネックのブラウスと、紺色のスカートの裾部分には小さい花の刺繍がぐるりと一周施されているシンプルなもの。
他にも色々と見せてもらったのだけれど、胸元がざっくり開いている物からフリルがふんだんにあしらわれている物など、身体的にも個人的な趣味的にも合わないものが多く、借りる側なのに選り好みしてしまって申し訳ないとは思いつつも、その中でもシンプルなものを選ばせてもらった。
「ヒロナは小さいのね。」
身長の差もあって私には少しだけ大きくて、手が半分隠れる袖と引きずってしまうスカートは一度折り返して自分に合うように調節した。
「さあ、朝ごはんが出来ているわ。ヒロナは苦手な食べ物とかある?」
「いえ、特に好き嫌いはないです。」
「それなら良かったわ。でも、食べ慣れない物もあると思うからその時は言ってちょうだいね」
「ありがとうございます。」
テーブルには既にレヴィ君がいた。私と目が合うと、プイッとそっぽを向かれた。さっきの事もあるから少し気まずくて苦笑いをした。
「レヴィ、いつまでもそっぽ向いてないで」
「だって・・・」
「今日も素敵な1日になるように、美味しくご飯をいただきましょう?」
カティアさんがそう言うと、口を尖らせながら渋々前を向いた。その姿が可愛くて笑いそうになった。
「じゃあ、いただきましょ!」
「いただきます。」
「いただきまーす。」
朝食で用意されていたのは、薄く切られた少し硬めのパンと豆とトマトを煮込んだようなものが1つのお皿に乗せられていた。
パンを一口大にちぎって口の中へ入れる。
「美味しい・・・。」
「本当?良かったわ」
普段食べているものよりも素材の味が感じられ、優しい甘味を感る。
昨日の夜から何も食べていなかったので、口の中が喜んでいるのかペロリと美味しくいただいた。
「そんなに腹減ってたのかよ。」
「美味しそうに食べてくれて嬉しいわ。」
カティアさんはニコニコしていたけれど、レヴィ君から少し引き気味に言われ、がっつきすぎたかなと恥ずかしくなった。
そうして朝食を食べ終わった後、予定通り教会へ行く事になった。レヴィ君は留守番していると言っていたので私とカティアさんだけで行くことに。
「うわぁ。」
外に出ると、夜には見えなかった景色が広がっていた。
家の前には昨日倒れていたと思われる畑と鮮やかな緑が広がる野原、少し離れた所にカティアさんの家と同じような建物がいくつか見えている。久しぶりに見た自然に胸が高まった。
「こんな田舎の村を見てそんなに目を輝かしてくれるなんて。」
「私の住んでいた所じゃこんなに綺麗な景色は見られませんよ。空気は汚れてるし人は多いし。」
「ヒロナが住んでいたところはどんな所なの?」
土の道を歩きながら私は向こうの世界の事をカティアさんに話した。私の住んでいた街並みとか、仕事の事、教育の事、流行っている事、私の知っている限りの事を教えるとカティアさんは驚いたり笑ったり、時には真剣な顔で話を聞いてくれた。
そんな話をしていると、いつの間にか村の中心地に近付いたのか通りすぎる人の数が増えたような気がした。。
「ここがタリアの中心部よ。」
「ここもまた素敵ですね。」
そこには大きな噴水があり、その周りに様々なお店が立ち並んでいた。日本とは違う村の景色に海外旅行に来たかのような気分になった。
キョロキョロと周りを見ながら歩いていると、八百屋さんのおじさんに呼び止められた。
「よぉカティアさん!今日は久しぶりにイチゴが手に入ったんだ買ってかないかい?ってそちらのお嬢さんは?」
おじさんは初めて見る私の顔を食い入る様にじっと見てきたので自然と身体が反ってしまった。その時、カティアさんがスっと私の前に出てきておじさんとの間に入ってくれた。
「この子はちょっとね。今から教会に行くから後で寄らせてもらうわ。」
「なんだ訳ありってやつかい?」
「どうでしょうね。」
「ははぁ、まあいいかココはそんな連中ばっかりだしな!そこの可愛いお嬢さん、教会の後で寄ってくれよ!」
(可愛い!?)
親くらいにしか言われた事ない言葉に固まってしまった。
「待ってるからよ!」とおじさんは大きな声でニカッと晴天のように笑った。その笑顔につられるようにニコッと笑い返して私とカティアさんはその場を後にした。
「ビックリした?」
「え!?そうですね、あんな風に話し掛けられる事なかったから少し」
あはは、と申し訳なくに笑うとカティアさんはフフっと笑う。確かに、久しぶりにあんな風に積極的に話し掛けられたから少し反応に困ってしまった。けれど、訳ありかもしれない私を変な目で見ることなく、笑いかけてくれたのは良かったと思う反面意外だった。
(そんな連中ばっかりって言っていたけど、私みたいな人がいるってこと?)
八百屋さんが言っていた事を考えていると、カティアさんが立ち止まった。
「あそこに見えるのが今から行くティグニス教会よ。」
カティアさんが指を刺す方を見ると、高い崖の前に立派な教会があるのが見えた。神聖な場所だからか、心無しかキラキラ輝いてるように見える。
(あそこに行けばもっと何か分かるかもしれない。あと、仕事も!!!)
聖女の事やこの世界の事ももちろん知りたいけれど、教会に行けば何か良い仕事紹介して貰えるんじゃないかと期待をしながら、私は教会へと続く道を力強く歩き出したのだった。