表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

07 神様 ダレン視点





ヒロナが帰った後、顔を見せる為に縛っていた髪を解放させ頭をぐしゃぐしゃにさせ、首元を緩める。


「ダレン様も人が悪いですね。」


ガチガチに固まった身体をボキボキいわせながらストレッチをしていると、気配もなく1人の男が俺の所へやってきた。


「なんの事だ。」

「ヒロナ様の事ですよ。あんな茶番みたいな事までして。」


渋い紫がかった赤い髪をした男、オリバーが手を大きく2回叩く。その音に反応して、真っ暗だった部屋に一気に光が差し込んだ。

ただでさえ頭が痛いのに、急に光を浴びたもんだから目がやられて更に頭が痛くなる。

そんな俺を横目に、オリバーはデスクに置かれた紙の山を片付けながら話を続ける。


「帰れるなんて嘘を言ってしまっていいんですか?しかもあの請求書。いくら留まらせる為だからと言って嘘の借金を背負わせるだなんて、可哀想じゃないですか。それに、もし彼女が本当に集めてきたらどうするおつもりですか?」

「なんにもしないで暮らすよりは、働いていた方がいいだろ。力もつくし、人との交流もできるし、あの国の事を深く知ることになる。金を持ってきたらそん時はそん時だ。」


俺の話を聞きながらオリバーは持っていた書類をトントンとリズムよく整え始めた。おかげでデスクの上はいくらかマシにはなったが、数時間もしたら元に戻るだろ。と、俺は低くなった紙の山を見ながら思った。

ある程度整理できたところで、オリバーは手を止めた。


「では、現状報告を致します。まず、ヒロナ様を召喚した者の行方は未だに分かっていません。7割修繕が終わり魔力探知もしてみたのですが、あまりにも微力なので元を辿る事は出来ませんでした。」

「・・・あの封鎖されたルートをこじ開けられる力があったのにか?」


ヒロナが通ってきたのは100年も前に使用を禁じられ封鎖されたルートだ。

誤って使用されない様に、そのルートへの召喚方法を書かれた魔導書は1冊も残さず全て焼き払われているはず。

だが、ヒロナはやってきてしまった。


「考えられる事はいくつかあります。あくまでも推測なのですが、1、相手はかなり腕のたつ神殿の関係者。2、試しにやってみたら奇跡的に出来てしまった。3、ヒロナ様がこじ開けてしまった。」

「1の神殿関係者ってのは考えられるが。2と3はあり得ないだろ。」

「確かに別々で考えるとあり得ませんが、 全て同じだと考えればあり得なくもありませんよ?」


掻きむしってボサボサになった髪をかきあげた。確かにヒロナの魔力値は他の誰よりも高かった。だが、向こうの世界からコチラの世界には自力で来ることは出来ない。しかし、少しでもコチラへのゲートを開けてやれば、体内に吸収された魔力が反応して吸い寄せられると言うことも確かに考えられる。


「ヒロナ様は、幼い頃から大量の魔力を摂取していました。そのおかげで、あちらにいた頃から既にコチラの標準値は大きく超えています。召喚を行った人間の力が弱かったとしても、存在が魔力タンクのようなお方です。引き寄せられる力は凄まじく、その勢いでこじ開けてしまった。とは考えられないでしょうか。」


ニッコリ笑ってオリバーは俺を見る。

もう俺じゃなくてお前が神をやればいいんじゃないか?そう目で訴える。

オリバーは俺が神としてやって来た頃から側近として使えているが、当時から俺よりも仕事ができて頭も良かった。何度か俺の代わりに神をやらせようとしたが、その度に「アナタみたいな人がいてこその私なんで。」と言われ断られてきた。そして、今回も俺の思っていることを先読みして、


「ダレン様、今はそんな事を考えている場合ではないですよ。」


と言われた。オリバーは微笑みを保ったままだが、言葉には圧が感じられ俺は肩をすくめた。


「割と本気で考えてるんだけどな。まぁそれはおいおい話し合うとしてだ。お前の考えは理解した。犯人探しはお前主導で進めてくれて構わない。」

「かしこましました。それと、神殿の方はどうされますか?」

「そこも探ってみてくれ。もしかしたら、100年前にどこぞの馬鹿が召喚方法の書かれた魔導書をくすんだ可能性もある。当時の関係者とその親族、そしてそいつらと繋がる人間まで徹底的に調べ上げろ。」

「はっ。」


オリバーは音もなく消えていった。

1人になった俺は長いため息をついて、誰も見てない事をいい事に、力が抜けたようにだらしなく座る。


「めんどくせぇ。」


脱力状態のまま近くにあった紙を手にして中身を確認する。頭が痛くなりそうだ。


「はぁぁぁ」


大きく息を吸って長く吐き出した。

だれてる暇はない。

椅子に座り直しデスクの上に置かれた書類をパラパラとめくる。ここにあるのはオリバーに持ってこさせた100年前の資料だ。

オリバーも既に勘づいていると思うが、今回の事件は確実に神殿に関わる人物が関与している可能性が高い。なぜなら、聖女召喚の儀を行っているのと同時にヒロナが召喚されたからだ。




数時間前・・・




あの時、俺には召喚の儀が行われている時に、聖女を正しい道へ導き、この地に足を踏み入れることへの許しを与える。という面倒臭い役目があった。

順調にいってると思った矢先、どこかの空間に異変を感じた。感じ取ったはいいが儀式の途中だった為、手が離せず、儀式が終わってから問題の場所へ向かうと、その周りを部下達が働き蟻の様にバタバタと走り回っていた。


「オリバー、状況は・・・ってすげぇなこりゃ」


異変を感じたルートを見に行けば、そこは案の定空間が歪み見るも無惨なゲートがあった。

修繕しようと何人もの部下たちが忙しなく動いている。


「どうやら聖域外での召喚が行われたようです。」

「まあ、これを見りゃ予想はつくが、場所は」

「それがどう言うわけか、召喚の儀が行われた場所と召喚された場所が違うようでして。」

「あぁ?」


本来ならそんな事はあり得ないが、ルートがルートだけに途中で飛ばされてしまったのかもしれない。

もしくは召喚に失敗したか。どっちにしてもややこしい事になっている事には変わりはない。


「チッ。どこの馬鹿素人がやったか早急に調べさせろ。で、召喚されたのは聖女だろうが、誰だか分かっているのか?」

「はい、例の2番目の聖女候補だった者です。タリア村へ召喚されたようです。」

「タリアか」


それを聞いて、俺は自分の顎を撫でる。


「どうされますか。」

「俺が直接彼女に会おう。準備を頼む。あぁ、あと一応レオンにも伝えておいてくれ。」

「かしこまりました。」


そう言うとオリバーは準備に取り掛かるため姿を消した。

俺は部屋に向かう前にゲートへと近付き、被害の状態を見てまわる。

部下達が危険だからと止めようとしたが、俺は制止を振り切ってゲートの中へと頭を突っ込んだ。

中の状態も良くないみたいだ。無理矢理こじ開けられたのだから仕方がないだろうが、酷い有り様だ。


「魔力の痕跡があったら報告しろ。」

「はっ。」


一通り確認し終わったら、俺は部屋へ向かう。


(元に戻るには1日は必要そうだな。にしても二番目の聖女候補か、予定よりだいぶ早いがそれはそれで・・・)


めんどくさい事にはなったが、まあいい。

歩きながら整っていた髪を手でワザとぐしゃぐしゃにし、堅苦しい儀式用の服を簡易的な服へと変えた。

部屋の前に着き扉を開ければ、ちょうどオリバーも準備が出来たようだった。俺の姿をみて一瞬動きが止まる。


「・・・ダレン様、一応あなたも神様なんですからその格好はどうかと」

「親しみやすさ出るだろ?」

「親しみやすさというか、胡散臭く見えますけど。」


疲労感のある顔は自前だが、自分から見ても小汚さがある姿に、オリバーからは冷ややかな目を向けられたが、そんな事は気にしない。


「それで、彼女と話してどうなさるおつもりですか?」

「分かってるくせに聞くな。仮の聖女をこの地に留まらせるんだよ。召喚された場所がタリアなのは実に好都合。あそこの住人たちは割と信頼出来る。姿を隠せて力をつけさせるには最適だろ。」


俺は普段よりも多い、紙が山積みになったデスクを片付けることなく、そのままにして椅子へと座る。

相手がどんな人間で、この事態にどんな反応をするのか楽しみで顔が自然とニヤついた。

横から「可哀想に。」なんて言う声も聞こえてきたが、その声は無視し、今後どうしていくかを考えながら召喚されてきた聖女候補の女が寝りにつくのを待った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ