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06 神様と聖女





「異世界から人を召喚することは滅多にできるもんじゃない。」

「それは何故ですか?」


ダレンが立ち上がりパチンと指を鳴らすと、私とダレンの間にあったデスクが消え、その場所に黒板が現れた。ダレンは黒板の前に立ち、聖女召喚についての講義を始めた。


「いいか、この世界で聖女召喚を行う際には、まず、神に聖女召喚の儀を行う許可を取らなくちゃいけない。」

「許可取りが必要なんですか?」

「当たり前だ。人間だけの力で異世界から人間が呼べると思うな。」


そうは思っていなかったが、ギロッと睨まれてしまった。

私は苦笑いで返すと、フンっと鼻を鳴らして続きを話し始めた。


「許可どりの後、召喚させる場所に魔法陣を書く。ココは人間側の最初の難関だ。」

「そんなに大変な作業なんですか?」

「召喚用の魔法陣は難しいんだよ。一字一句間違えず、完璧に書かなくてはいけないのと、魔力を込めて書くから魔力の消費が激しい。だから書ける人間も限られてくるんだ。その他にも色々と条件があるがどうでもいい。」


黒板にこんな感じと書いてくれたが、丸の中にごちゃごちゃミミズのようなものを何匹か書いただけの簡単なものだった。

しかも、文字もこっちの言語で書かれているので全く読めない。この黒板は必要なの?

そんな私に目もくれず、ダレンの話は先へ進んでいく。


「その他にも人間側はやることがあるが、それは省略して、人間がわちゃわちゃしている間、神は召喚する聖女の選別を行う。」

「それってどうやって選別するんですか?」

「こいつ、見覚えないか?」

「うわぁ!」


バサッと私の前にあるテーブルに何か落ちてきた。驚いて後ろにっくり返りそうになったが、見覚えのあるそれにあれ?っと思い、直ぐに元の体勢に戻る。改めて落ちて来たものを見ると、


「あれ!?これって!!」


そこにあったのは、私が幼い頃から飲んでいたお茶が入ったパッケージだった。

パッケージとダレンを交互に見る。


(これがこんなところで繋がってくるなんてどういうこと?)


ふと、これを飲み始めた子供の頃を思い出した。これを飲んだ私以外の人は、これは飲み物じゃないと言って誰も飲まなかった。私だけがずっと飲み続けてきた。私だけ・・・。


「これってまさか」

「そう、これは選ばれた人間にしか飲めない魔力入りの飲み物だ。」

「ま、魔力が入ってたんですか!?」

「なんだと思ってたんだよ。」

「こっちの世界の飲み物なのかなって。」


魔力入りだったと聞いて、なんてものを飲み続けていたんだと、あんなに好きだったのに急に恐ろしく見えてきた。というか、こっちの世界の物が向こうで普通に売られてることにも驚きだった。


「これを飲み続ければ、そっちの世界にいても身体が魔力慣れをしてくる。そうやって魔力に慣らしていかないと、いざこっちに連れて来た時に身体が魔法に対して拒絶反応を起こしてしまう。せっかく連れて来たのに壊れたら元も子もないからな。」

「つまりは、私はこっちの世界で聖女になる為に神様に育てられていたと言うことですか?」

「広く考えたらそうだな。だが、お前以外にもコレで選ばれた奴は沢山いる。その候補の中で総合的に1番能力が高い人間が聖女として選ばれるんだ。ちなみにお前は、上から2番目。」


2番目なのはいいけど、それは喜んでいいものなのだろうか、私はなんとも言えない顔になった。

これで正式に呼ばれていたら、それはもう受け入れるしかないんだけれど、今の私にはこの現状が受け入れられなかった。


「言いたいことは色々ありますけど、それは一旦横に置いていきましょう。それで、3年後に聖女として呼ばれる予定だった私が、どうしてココにいるんですか?」

「それなんだが・・・。」


そう言うとダレンは黒板にまた何か書き始めた。

カッカッとチョークが黒板に当たる音がしばらく続いた。その様子を黙って見ていると、クルリと振り返り、書けたらしいものを「こう言うことだ」と言って見せてくれた。

本人は大作を書けて満足なんだろうが、私には幼稚園児の描いたお絵かきにしか見えなかった。


「さっきも言ったと思うが、誰かがお前を召喚したのはほぼ間違いないだろう。そしてその方法が、タブーとされている聖域外での一般の人間による召喚でやって来た可能性が高い。」

「えっと、それはつまり、密入国とか密輸入とか、そういう類ですか?」

「そう、これは大変な罪だぞ。」


不可抗力ではあるが、正規の手続きを踏まずに私はこの世界に入って来てしまったということで、と言うことはつまり、犯罪だ。


「私って、この世界にいたらまずいんじゃないですか?」

「そうだな、だから俺は儀式が成功したにも関わらずずっと忙しいままなんだ。」


聞かされる前までは、そこまで深刻な状況だとは思っていなかった。真相を知って私は頭を抱える。

今まで平々凡々に生きてきた自分が、犯罪に巻き込まれるなんて昨日まで思ってもみなかった。しかも異世界で。

今後の展開を想像すると憂鬱でしかない。

基本的に私は、異世界でタブーを犯せば殺されると思っているため、処刑を逃れたとしても不衛生な場所で一生幽閉などなど、とにかく自分に降りかかるであろう最悪な事態が次から次へと頭をよぎっていた。


「お前も災難だな。本来ならこの世界に来ることはなかったんだ。3年後に聖女になる予定とは言ったが、それもあくまで予定で、余程のことがない限り2番目の聖女は呼ばれることはないんだからな。」


ダレンはポンっと出した椅子に座ると自分ティーカップと私の前置かれているティーカップにリオークを注いでくれた。

お互い一旦落ち着こうという事なのか。せっかく入れてもらったので、コクリと1口飲んだ。不安が全て無くなる訳では無いが、それでも少しは落ち着いた。この場所では、リオークだけが私の救いだ。


(持って帰ってお母さんに飲ませてあげたい。)


ティーカップの中にいる自分の情けない顔を見て、しばらく会っていない実家にいる家族の事を思いだした。


(とにかくなんとかしないと・・・。私は殺されたくないし、痛い目にあうのも絶対嫌だ。逃げられるなら逃げないと。)


「神様、1ついいですか。」

「なんだ。」

「他の方々には私がこの世界に召喚されたって、もうバレているんですか?」

「いや、それは無い。俺は神様だから、誰がどんなルートで召喚されようが、この世界に入った時点で気付く。だが、人間にはそれが察知できない。人間は召喚した時に初めて、異世界から来た者の存在を確認する事ができる。それに聖域内ならまだしも、お前がいたのは外だからな。聖女の力を持っていない者の気配なんてのは、そこら辺にいる人間と何ら変わり無いから、誰かか密告でもしない限り分からんだろ。」


なるほど。と、私は頷いた。

誰にも気が付かれないっていうのは悲しいけど、犯罪の片棒を担いでるような私には好都合な状況だ。それなら、と、私にとって1番ベストな答え出した。


「帰ることってできますか?」

「・・・帰りたいのか?」


驚いた顔をするダレンに私は眉間を寄せた。

何言ってんのこの人。と思わず言いたくなった。


「帰りたいです!だって、もし見つかれば私、犯罪者ですよ?聖女なんですって言っても力が無いからニセモノ扱いされるだけだし、それに本物の聖女様も召喚できてるなら、今だろうと3年後だろうと私、必要ないですよね?」

「そうかもしれないが、お前初めの方で聖女様見たいって言ってたじゃないか。まだ見れてないがいいのか?」

「聖女様をただ見る為に自分の命は差し出せません。それに、まだ誰にも知られてないのなら、カティアさんとレヴィ君親子にも迷惑がかかりません。」


見ず知らずのどう見ても怪しい私を、カティアさんは温かく家に迎え入れてくれて、しかも寝るとこをまで提供してくれた。

自分の命も大切だけど、私を助けたせいで、関係のない2人が捕まってしまったらと思うと。

どんな目に合うのかなんて考えたくないけど、そんなことには絶対したくなかった。だから、帰る方法があるなら誰にも知られていない今が1番ベストだと思った。


「・・・帰りたいなら帰ってもいい」

「かえれるんですか?!」

「ああ、ただし条件がある。」


そう言うと、ポンっと私の目の前に一枚の紙が出てきた。そこには見たこともない謎の言葉がズラーっと書かれていた。読めない文章を上から順に見ていくと、最後の方だけ私の世界でも使われている数字が書かれていた。


「いち、じゅう、ひゃくせんまん・・・えっと、3000万、って書いてありますが、なんですかこれ。」

「そこにも書いておる通り、請求書だ。」

「はい?????」


頭の周りにハテナがたくさん飛び交った。

3000万が書かれたこの紙は請求書だと、目の前にいる男は言った。

どんな冗談かと思って読めない文章をもう一度を見返すと、下の方に英語でDarrenと書かれたサインと無駄に豪華な判が押されていた。

どうやら正式な物みたいだ。


「請求書って私まだ何もしてないですけど?!」

「お前は気が付いてないが、やってるんだよ。いいか、お前が召喚されたルートは100年も前に使用が禁止されたルートなんだよ。封鎖されてるのに無理矢理こじ開けたもんだから空間が歪んであちこちがボロボロだ。それを今コチラで必死こいて修繕してる訳なんだが、いかんせん未だその犯人は見つかっていない。なので、代わりにお前に弁償してもらうことにした。もちろん、お前に拒否権はない。何故ならこれは罰だからだ。その金額をきっちり支払えたら、お前の望み通り向こうの世界へ返してやろう。」


ニヤリと口角を上げ、本当に神様なのかと聞きたくなるくらい悪い顔でまくし立ててくるダレン。その勢いに圧倒され、呆然としたが、ただ、私は普段からまくし立てられ慣れをしてるので、特に怯む事無く条件反射で「はい。」と頷いてしまった。


「あっ」

「分かったならいい。」


気付いた時にはもう遅く、私は椅子から崩れ落た。

会社に叩き込まれた社畜の本能がこんな所で無駄に発揮されてしまった事が悔してくて仕方がなかった。


(私はなんて弱い人間なの!!)


床をバシバシ叩いて悔しさと切なさをぶつける。


「そろそろ目覚める時間だ。教会へ行くんだろ?」

「え?あ、はい。」


普通の口調に戻ったダレンが目覚めの時を教えてくれた。最悪な目覚ましに腹立たしさを募らせながら、俯いていた顔を上げると、前にあったお絵描きだらけの黒板は無くなっていて、代わりにそこには初めに合った時の様にデスクが置かれている。そして、その奥にダレンが座り、土下座をしているような体勢の私を見下ろしていた。


「ヒロナ、お前の唯一の幸運はこの村に召喚されたことだ。ここの住人達は必ずお前の力になってくれるであろう。健闘を祈る。」


最後にそれっぽいことを言うだけ言ってダレンは消えていった。

そして、ダレンが消えたと同時に私は夢から現実に引き戻された。


腹立たしい夢を見たな、と起き上がると、自分の右手に握られた紙が目に入った。

まさかと思い広げてみると、今度は私でも読める文字で【請求書】と書かれていた。


「夢じゃなかった・・・。」


朝から長いため息を着いた。

この瞬間から、私のドキドキの異世界ライフ(借金付き)が始まった。






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