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05 神様と聖女




ダレンは私の方へ指を向けた。

また何かされるのかと思い身構えると、テーブルの上に置いてあったティーポットが宙に浮き、スーッとダレンの方へと引き寄せられた。

書類の山の向こうにあったカップにリアークを注ぐと、ダレンはカップを手に取りグイッと一気に飲み干した。音を立てて置くと大きくため息をついた。その姿はまるで酔っ払いの様だった。


「今日行われた召喚の義は成功だった。」


召喚と聞いて、自然と自分の事かと思い背筋を伸ばした。成功なのだから喜ばしい事のはずだが、ダレンは浮かない顔をしている。


「予想外の事が起きたんだ。」

「予想外ですか?」


(確かに召喚されたにしては放置状態だったな。召喚する時ってだいたい周りに誰かいるものかと思ってたけど…)


ついさっき自分の身に起こった事なので、それはもう鮮明に思い出せる。


樫野裕奈かじのひろな、お前、どうやってこの世界に入ってきたんだ。」

「はい?」


ダレンは目の前に座る私を厳しい目つきで見た。

声のトーンが低くなり、まるで尋問するかのようなダレンに、やましい事がないのに思わずたじろいでしまった。


「どうやってと聞かれても、私も気がついたらこっちに来ていたのでわかりません。カティアさんに違う世界からきたんじゃないかって言われなければ、今も東京にいると思っていたはずです。」


ダレンが私に対して何を疑っているのかは分からないが、鋭い目を向けるダレンをジッと見返し、潔白であることを主張した。

それを聞いてダレンは口を開く


「まぁ、そうだろうな。」


ガクッ。

何を言われるかと緊張していたのに、すんなり受け入れるどころか分かっていたと言わんばかりの言い方に拍子抜けした。


「向こうからはこちらの世界に来れないからな。お前自身がどうこうしたとは思わない。」


(じゃあさっきの質問は何だったのよ!)


私としてはツッコミを入れたい所だが、相手は神様なのだと言うことを言い聞かせ、にこやかに笑ってみせた。


「つまり、誰かがお前を召喚したということだ。」

「はぁ。」


困った事になっていると言うのはダレンの様子からしても分かって、そして、それが自分がこちらの世界へ来た事と関係があるというのは私にも分かった。しかし、それがどこまで深刻な事なのかは理解出来なかった。

このままだと話についていけないと思い、失礼じゃないかと心配しつつも、スッと手を挙げた。


「質問いいですか?」

「許可しよう。」

「ありがとうございます。そもそも召喚の儀って誰を召喚しようとしてたんですか?」

「聖女だ。」

「聖女!?」


思わず大きな声を上げてしまって慌てて口を押える。

聖女とは、異世界モノの話でもよく出てくる奇跡の様な力で人々を助け世界を救う存在。

そういう世界に来たのだと一瞬にして悟った私は興奮が止まらなかった。


「えっ聖女様いるんですか!?っていうかダレン様が召喚したのですか!?すごい、なんだろう、急に神々しく見えてきました!眩しい!!」

「小馬鹿にした顔をしていたやつがよく言えるな。あと召喚は人間がするもので俺がやるわけじゃない。」


急にわざとらしく讃えてくる私を呆れたように見るダレン。そんなダレンの冷たい視線を気にすることなく今の喜びを噛み締める。

ハッとある事に気がつく。


「もしかして、会えますか?どんな子が聖女様なのか同じ世界から来た人間として物凄く気になります。」

「それなら…ほら、この手鏡を覗いてみろ。」


引き出しが開くような音がすると、スっーと手鏡が宙に浮いて私の目の前で止まった。

細かな装飾が施された銀の手鏡がクルリと反転すると、そこには鏡を見る私の顔があった。

覗いてみろと言われたので、見ていると何も起こらない。それでも待ったら何かが起こるのかと思い待つが、やっぱり何も起こらない。


「どうだ、そこには何が映ってる。」

「鏡ですから私の顔が映ってますけど、私、聖女様が見たいんですけど。」

「だからそこに映ってるだろ?」


クククッと意地悪そうに笑った。

聖女様を見たいと言って渡された手鏡、自分の顔以外何も見えないと言う私に、ダレンはそこに映ってるだろと言う。

ダレンの言いたい事に気が付き、まさか!!!と私はバッとダレンを見るとニヤニヤとコチラを見て笑っていた。


「聖女はお前だ。樫野裕奈。」

「嘘でしょ!?」


まさかの事に愕然とした。


(確かに聖女になってみたいなとは思った事あるけど、私は誰かを救ったりできるような立派な人間じゃないし。)


嬉しいやら迷惑やら、私は複雑だった。

来たかった異世界で憧れた聖女という存在に自分がなれると喜んでもいいはずだが、なぜか素直に喜べないでいた。

何故かと言うと、ダレンが意味深に笑っているからだ。

まだダレンとは出会って30分も経っていないが、その笑みは怪しい、絶対何か裏があると私の本能がそう言っている。


「冗談ですよね?」

「俺も冗談だとありがたいんだが、残念な事にコレは事実なんだ。」


残念と言われ、内心ムッとした。

私はビビリだし聖女様と周りから讃えてもらえるような見た目もしていない。

人は見た目じゃないけれど、聖女様は特別な存在だ。他の人よりも何かしら優れているところが必ずあるはずなので、味覚が少し変わってるだけで、他に飛び抜けて良い所が何もない私では聖女なんて務まらない。それは分かっているけど、望んでこちらに来てるわけじゃないのにざんねんといわれるのは心外だ。


「残念と言うのは、お前だからってことじゃないからな。」


私の思っている事を悟ったのか、ダレンは軽くフォローを入れた。


「では、何が残念だと言うんですか?」

「それは、時期の問題だ。」


はい?とまた首を傾げる。

分からなくて質問したのに、その質問の答えもまた分からなくて、エンドレス分からない状態だ。


「お前は確かに聖女なんだが、それは3年後の話だ。お前は3年後、聖女としてこちらの世界に迎え入れる予定だったんだ」

「さ、3年後ってしかも予定って・・・。あの、聖女ってそんな頻繁に召喚されるものなんですか?」


私の知っている聖女は特別な存在として扱われていたので、この世界の召喚頻度が割と高くて驚いてしまった。


(この世界での聖女ってそこまで特別な存在ではないなかな。)


そういう異世界があっても不思議ではない。

私は勝手に納得をした。






今までの話を含め、文章の書き方を変更しました。

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