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04 神様と聖女




眠りの中で私は急に不安になった。

自分が本当に異世界へ来たとして、それを知ったこちらの世界の人々は何を思うのか。

偶然にもあの場所が異世界の入り口で、私がそこに、たまたま踏み入れてしまったのか、はたまた何か力を求めて誰かに呼び込まれたのか。


(たまたま来ちゃったとしたら命狙われるとかあるのかな。そうなったら逃げなきゃいけないよね。え、教会に行って速攻牢獄とかだったらどうしよう。足速くないんだけど逃げれるかな。あれ、なんかすごく不安になってきた。)


「怖い。」

「うるさい。」

「え。」


私は勢いよく起き上がった。

そのせいで少しだけ頭がクラっとしたが、そんな事はどうでもよかった。

自分の周りを見渡せば、そこには何もない真っ暗闇が広がっていた。

外で倒れていた時も暗かったが、その時とは違い、頬に当たる風もなければ虫の声も聞こえない。しかもベッドで寝ていたはずなのに今は床に座り込んでいた。

周りは暗いはずなのに、なぜが自分の姿はハッキリと見えている。もう一度、辺りを確認すると暗闇なのだが自分の周りだけ円を書いたように白い床が見えているのに気がついた。この明かりは何なんだろう?と上を見上げると、ライトがあるのか眩しくて長くは見ていられなかった。


「スポットライト浴びてるみたい。」

「だからうるさいっての。」

「え。」


そういえば勢いよく飛び起きる前、私の口から思わず出た言葉に「うるさい」と反応が返ってきたような気がしたけれど、気のせいだと思いスルーをした。

が、どうやら聞こえてきた声は勘違いではなかったようだ。

何も見えない中で聞こえてきた知らない声に恐ろしくなり、私はとっさに耳を塞ぎ、慌てて体を丸める様に小さくした。

どこで見てるのか分からないが、丸く縮こまって震えている私の姿を見て呆れるように声の主は溜息をつく。


「おい、そんなに怯える事ないだろう。ほら、顔を上げろ。」

「やだやだやだやだやだやだ」

「もう怖くない。大丈夫だから見てみろ」

「あーーーーーーーーー!!」

「だから大丈夫だっての!!」

「やだあああああ!!!!」


声の主は痺れを切らしたのか声を上げた。

すると、私の体がフワリと地面から浮き上がり、丸く固まっていた体も無理矢理伸ばされた。私の精一杯の抵抗と叫び声は全くもって無意味だった。

目を力一杯閉じているから、瞼の向こう側で何が起きてるのかなんて知る由もなく、ただ無闇に抵抗すると危ないかもしれないとパニックになりながらも冷静に考えるようにした。


ガタッ


「!!!」


何かが足に当たり体をビクッとさせると、さっきまでフワフワと浮き上がっていた体に少しずつ重力を感じ始めた。

それは徐々に太ももと腰の当たり裏に感じてきたので、もしかして椅子に座らせようとしてるのかもしれないと感じた。

ずっと無重力状態のままなのかと思っていたから少しだけ安心した。

と言っても、本当に少しだけ安心しただけで、私は叫ぶことはしなかったが、震えながら俯いて静かにすすり泣いた。

完全に椅子に座らせると、声の主は気まずそうに話し始めた。


「あー、そんなに怖がるとは思っていなかったんだ。配慮が足りなかったようで悪かったな。」


目を閉じたままの私には、声の主がどんな顔して謝ってくれているのかは分からないけど、申し訳なさそうにしてるのは声色で感じられた。

その声で、私はまともに話が出来る人なのかなと思い、恐る恐る目を開ける。俯いたままなので、自分の足が見えた。

すると、目の上の方でスっと何かが置かれた気配を感じた。少しだけ顔を上げると、私の前に小さな丸いテーブルとティーポットとカップが置かれていた。

ティーポットは当たり前のように浮き上がりカップへとお茶を注ぐ。

何が起きてるんだ?と呆然とその様子を見ていたら、フワッと知った香りを感じた。


(これって、カティアさんの家で飲んだリオーク?)


カップに注がれたリオークの香りが優しく裕奈を包み込む。嗅いだことのある甘い香りは固まった体をほぐしていった。


「落ち着いたか?」


そう聞かれ私は思わず顔を上げた。


「あっ」


目の前には、美しい金の装飾が施されたプレジデントデスクと、それに似つかわしくない山積みになった書類の束。そしてその奥にいるのは、神父が着るような白い服をまとい、癖のあるウェーブのかかった黒髪で、疲れ切った顔に無精髭を生やした男がいた。


「顔ぐちゃぐちゃだぞ。」

「…すみません。」


誰のせいでこんなことになってると思ってるの?とは思ったが、男が優しげに笑いコチラを見るので、叫びまくっていた自分が急に恥ずかしくなってきた。、声の主から顔が見えないように俯く。


「誰も取って食おうなんて思ってないから安心しろ。俺はダレン、この世界の神様だ。」

「神様?」


私はダレンと名乗る男をじっと見つめた。

人を見た目で判断してはいけないと常々思ってきたが、ダレンは私の想像していた神様とはかけ離れていた。

お世辞にも綺麗とは言えない風貌で、どちらかと言えば胡散臭さまで感じる。

少しよれている服とボリュームのある髪が目にかかっていて表情が読み取れないせいもある。


(怪しい…)


私の思ってる事を悟ったみたいで、ダレンは不服そうに口をムッとさせた。


「お前、神様に対して失礼なこと思っただろ。」

「いえ、まさかそんな」

「俺だってな、訳あって今はこんなんだが普段はもう少しまともな姿をしてる!」


そう言ってパチンッと指を鳴らすと、シワのあった服がピシッと綺麗に伸ばされ、生えていた無精髭がツルリとなくなり、胡散臭さを感じさせていた量の多い髪は後ろで1つにまとめられ、隠されていた澄んだ青い瞳が私をとらえていた。

ニヤリと笑うその姿は先程とはまるで別人だった。


「すごい!見違えるほど綺麗になりましたね!」

「だろ?元々顔はいい方なんだ。存分に見るがいい。」

「わー、かっこいー。」


パチパチと軽く拍手をしながら棒読みで褒めているのに、ダレンはそうだろ?と、とても満足そうに笑う。

美青年に進化したのは確かなので、特に何も言わず拍手を贈った。


「で、お前はなぜ、俺があそこまで変わってしまったと思う?」

「なぜ、ですか」


突然の質問に拍手する手が止まり、私は首を傾げた。


「そうですね、初めてお顔を見た時にお疲れのような感じはしました。」

「その通り、俺は疲れ切っていた。なぜだと思う?」

「えぇ、うーん。ずっとお仕事をなさっていた、という事ですか?」

「そうだ!ずっと仕事をしていた。何故かと言うと今日はとても大切な日で、この日のために前々から万全の状態で挑めるよう準備していたのだがっっ」

「失敗したのですか?」


ダレンは手で顔を覆った。

しくしくと声を出して泣くダレンを見て、入社1年目の自分を思い出した。


(右も左もわからなかったあの頃、私も失敗して先輩を困らせてたっけ。)


「分かりますよその気持ち。一所懸命準備してたのに本番で変なミスをしてしまう悲しs」

「いや、失敗はしていない。むしろ大成功だった。」


成功したのになぜ嘆くのか。

神様も失敗するんだと、勝手に親近感を覚え、神様と気持ちを共有できたのかと思ったのに、なんだか裏切られた気持ちになった。


神様、失敗しないってよ。






全体的に文章を変えました。

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