01 始まり
(何が起きたの?)
一瞬の出来事だった。
何が起こったのか理解が出来なかった。
覚えているのは目の前が真っ白になるほど眩しかったという事だけで、ほんの数秒目を閉じていただけなのに次に開けてみれば目の前は真っ黒だったからだ。
そして、それと同じくらいによく分からないのは、私が今うつ伏せて倒れているこの場所である。
仮にあの眩しさが車のライトだったとすると、恐らく私は車にひかれたことになる。
しかし、ぶつかった時にあるはずの衝撃や倒れた時に肌に当たるザラザラなコンクリート、引きずられたとしても何かしらの大きなダメージが身体にあるはずなのだが、痛みも何も無いのだ。
痛みに関しては、頭の片隅で事故直後はアドレナリンが出て痛みに気が付かないと、誰かが言っていたの記憶していたため、これはそういう事なのだろうか?と、私は思うことにした。
だが、コンクリートの代わりに感じる、このひんやりと冷たくそして柔らかい土の香りが、自身の子供の頃に手伝った祖母の畑を思い出させた。
ここは畑か、はたまた夢か。
左の頬に感じる冷たさがあまりにもリアルなので頭が混乱してしまう。
私はもう一度さっきの事を思い返してみようと再び目を閉じた。
会社を出てから10分後くらいの事だ。
時間は19時頃で、車の通りも多く周りにも私と同じように歩いている人は何人もいた。
周りには高層ビルが立ち並び、夜でも明るく街は賑わっていて、自然の匂いなんて微塵も感じられなかった。
事故があれば多くの人に見られてるだろうし、現場は騒然としていてもおかしくないのだが、耳を澄ませても人の声も車の騒音すらも聞こえない。
聞こえてくるのは虫の音と風で揺れる木々の音、そして遠くの方で微かに聞こえるどこか不気味な動物の鳴き声だった。
思い返してから私はもう一度だけ恐る恐る目を開けた。
これは月明かりだろうか、小さい変化ではあるが上から薄く照らされて、先程よりは周りが見えるようになった。
だが、暗いことには変わりはなかった。
時間が経つにつれて混乱していた頭も落ち着いてきた。しかしそれは逆に私にとっては都合が悪かった。
私はビビリなのだ。
状況を把握する方に神経を使っていたのだが、その糸が緩くなるにつれて不安という違う糸がはっていった。
意識を取り戻してからずっと同じ体勢なのも
起きてみて自分の足がなかったらどうしよう。
血とか内臓が噴き出したらどうしよう。
という不安があるからで、
実際にそうなっていた場合を想像したら怖くて動けないのだ。
しかし、またしばらくすると、今度は違う問題が出てきた。
それは、同じ体勢のまま微動だにしなかったので、身体の限界がきているということだった。
私もここにきて、こんな勇気を振り絞らなければならないなんて思わなかっただろう。
私は葛藤してた。
(身体は痛いが、起き上がるのは怖い。でも、起き上がらないと身体が痛い。というか腰が痛い。)
つい最近、仕事で重い荷物を持つことがあり、その時に腰を痛めたばかりだった。
ズキズキと腰がそろそろ限界という合図を出てきた。
(恐怖よりも自分の身体。体、大切。うつ伏せはよくないって先生も言ってたし。こういうのは勢いが大切だよね)
大丈夫、大丈夫。
と自分を落ち着かせながら目を閉じた。
どうやら覚悟が決まったようだ。
何度か大きく息を吸って吐いてを繰り返す。
また大きく息を吸って、ココだ!と目をカッと開き、腕に力を込め勢いよく起き上がった。
「誰だ!!!」
「ひっっ!!!!」
見知らぬ声が暗闇に響いた。
どこからともなく飛び出してきた見知らぬ声が私に勢いよくぶつけられる。
立ち上がる為に込めていた力が一気に無くなり、へたりとその場に座りこむ。手をあてないと飛び出してきそうな心臓は外にまで聞こえそうなほど激しく動いていた。