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14 帰り道




しばらくの間、笑い続けていたカティアさんとレオン様、そして、笑いがおさまるのをじっと待つ私。というおかしな空間がここにあった。


(人が来なかったのは良かった。)


この謎の笑いが教会中に響いてる時に誰か来たら私まで変な目で見られてしまいそうだ。


「はあーごめんなさいね、ヒロナ。面白くてつい笑いすぎちゃったわ。」


そう言いながらカティアさんは笑い過ぎて出てきた涙を拭った。レオン様も笑い疲れたみたいで、大きく息を吸って吐いていた。


「私も久しぶりにこんなに笑いました。おかげでとてもスッキリしました。」

「私もよ。ありがとうヒロナ。」


2人にお礼を言われるけれど、私は何もしていなくて、2人が勝手にツボっていただけなのだが、これを言うとまたぶり返しそうな気がするから言うのはやめておく事にした。


「じゃあ、本題に入っていいですか?」


2人が笑い過ぎて本来のカティアさんに“私の事を教える”と言う目的が流される所だった。

緊張がほぐれるどころか、それを超えて頭の中が冷静になったので説明をするにはちょうど良かった。


私が聖女候補だった事、この世界には誰かに召喚されてやってきた事など、今分かっている事を出来るだけ伝えた。

内容が内容だけに、さっきまでの和やかな雰囲気とは一変してカティアさんの表情は徐々に真剣なものへと変わっていった。


「と、言う事でした。」


一通り説明し終わって、私はふぅと一息つく。

改めて言葉に出してみると、なかなか凄い事になってきてる事を改めて感じる。


「本当ならこんな事に巻き込むべきではないんでしょうが、私がちゃんとした聖女もどきになるまで、どうか力を貸してもらえませんか。もちろん、私もカティアさんの力になれることは何でもします。あっ何でもと言っても出来る事は限られちゃうんですけど・・・。」


あははは、と無力な自分を笑った。

ここまで一言も喋らずに聞いていたカティアさんを見ると、目を潤ませ口を手で押さえながら私を見ていた。

やっぱり迷惑だったのかな、と近くにいるレオン様をチラリと見ると微笑みながらカティアさんを見ていた。私には2人が何を考えているのかが分からなかった。


「・・・やっぱり、私に関わることでレヴィ君も巻き込む事になるし、迷惑がっ」

「迷惑だなんて!!」


突然カティアさんが大きな声で喋り出したので体がビクッとなった。カティアさんを見ると、潤んでいた目から涙が溢れ出てきていた。その涙に何があったのかと戸惑ったが、この後にカティアさんが取った行動にも私は戸惑い驚いた。


「カティアさん!?」


突然カティアさんは私に向かって手を組んでひざまづいたのだ。

そんな急にどうしたのかと思って、近寄ろうとすると、レオン様に呼び止められた。


「私にひざまづくなんて」

「まあいいじゃないですか、彼女の夢だったんですよ。」


私にひざまづく事が?訳が分からず首を傾げるとレオン様はニコリと笑い、私より一歩前に出てカティアさんを見下ろす。


「カティア・シーゲル。覚悟はできていると思いますが、本当によろしいのですか?」

「はい、神に誓ってヒロナ様をお守りすると誓います。」

「この事でレヴィを危険な事に巻き込む事になるかもしれませんよ?」

「あの子には既に私の意思は伝えてあります。それに、あの子は私とあの人の息子ですから。」


レオン様の質問に淡々とした口調で答えていくカティアさん。私にも関係する事を言ってるんだろうけど、その本人である私は蚊帳の外状態で、今はどういう状況なのかも分からず、2人を交互に見ながら終わるのをただ待っていた。


「貴女の覚悟はわかりました。と、言うわけでヒロナ様。」

「は、はい!」

「今日からカティアさんが貴女の身の回りのお世話をしてくださる事になりました。」

「えっ!!」


驚いてカティアさんを見ると、カティアさんはスッと立ち上がり私に向かって頭を下げる。


「カティア・シーゲルです。よろしくお願いします。」

「えっあっ、よろしくお願いします。」


さっきまで気さくに話しかけてくれていたのに、ご丁寧に深々と頭を下げられて戸惑ってしまった。


「えっと、つまり力を貸してくださる。と、言う事ですか?」

「もちろんでございます!聖女様にお使えする事ができるなんてこんな名誉なことありません!」

「候補にあっただけで聖女ではないんですけどね。」

「そんな事、この際どうだっていいです!」

「よくないですよね!?というか熱い!」


そこは割と重要な事だと思うのだけれど、カティアさんに辺なスイッチが入ってしまったみたいで、カティアさんから熱が溢れ出していて、火の近くにいるみたいに熱くなった。

私に言われてハッと我に返ったカティアさんは、「すみません!」と慌てて自分を落ち着かせる。


「カティアさんは火属性の魔力が強くて、今みたいに興奮すると魔力の暴走で熱を発してしまうのです。教会が燃えるまでには至らなかったので良かったです。次は気をつけてくださいね?」

「はい、申し訳ございませんでした。」


何回頭を下げるんだろうと、また深々と頭を下げて謝罪するカティアさんを見て苦笑いをした。


「じゃあ、2人とも。今日はもう遅いのでまた明日の昼頃にここへ来ていただけますか?ヒロナ様に紹介したい方達がいます。」

「明日の昼ですね、わかりました。」

「では、カティアさん、ヒロナ様をよろしくお願いしますね。」

「はい。」


と言うわけで、私はまた明日教会に来る事になり、陽が完全に落ちる前に私とカティアさんは帰路についた。


教会を出てから2人とも無言のまま歩いていた。

今朝はカティアさんと楽しく話しながら横に並んで歩いていたのに、今は私より一歩後ろを歩いていて、どうも居心地が悪かった。

村の中心から出たところで私はピタッと足を止める。カティアさんは不思議に思ったようで、「どうかされましたか?」と尋ねてきた。


「カティアさん、さっきも言いましたけど私は聖女ではないんです。身分も隠さないといけない立場なので、今まで通り接してもらえると嬉しいです。それに私も堅苦しくない方が安心します。」

「そうですね。いえ、そうね。ごめんなさい、少し舞い上がってしまっていたわ。」


少し寂しそうだったけど、カティアさんは納得してくれた。

カティアさんに力を貸してもらいたかっただけで、使用人みたいに従えたかったわけじゃなかったから納得してもらえて良かった。


「ヒロナ様もダメですよ。」

「ふふ、分かったわ。」


釘を刺すように言えば、笑って頷いてくれた。

それに満足して私達は再び歩き出す。今度はカティアさんは朝のように私の隣を歩いてくれた。


「あっそう言えば!」

「どうかした?」

「今朝会ったおじさんの所に寄るの忘れちゃいましたね。」


今朝、私に話しかけてきた第1村人のおじさん。

村の中心からまも離れて、もうすぐ家に着く頃になって思い出した。

カティアさんも忘れてた様で、何のこと?と首を傾げてたけど、「あぁ、そうだったわね。」と、思い出してフフっと笑った。


(こんな風に誰かと笑いながら帰るの久しぶりだな。)


驚いたり怒ったり感動したり笑ったり、短い間にこんなにも沢山の感情が動いたのは久しぶりだった。こっちに来たばかりで混乱する事もあるけど、向こうの世界にいた時よりも満たされた気持ちになった、そんな帰り道だった。






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