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10 神父と神殿




「東屋って言ってませんでしたっけ?」



神父様に連れてこられたのは、崖から流れ落ちている滝の下だった。

ここに来る途中か薄々おかしいなとは思っていた。

庭園の方に行くのかと思っっていたら、茶畑の方向へ進み、この先に建物でもあるのかなと思ったらそれらしき物は見当たらない。辺りは芝生があるだけで他は特に何もなく、ただ滝がだんだん近くに見えてきていて、滝の近くにあるんだ、ちょっと楽しみだな。と思っていたら


「こちらです。」


とニッコリ笑う神父様が手の指す方には滝があった。私は無言で滝を見つめこれは何かの間違いだろうと思い「えっと、冗談ですよね?」と聞くと


「いいえ?」

「東屋って言ってませんでしたっけ?」

「少し予定が変わってこちかの方へご案内いたしました。」


と笑顔で返された。


(少し?これは少し変わっただけなのか。東屋と滝はだいぶ違うと思うんだけど。)


そう思ったけれど、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。なんと言ってもここは異世界。私の中の常識は通用しないのかもしれない。

まあいいかと、私は滝の下の川を見る。透き通っていて川底までちゃんと見える綺麗な水なのを確認した。


(綺麗な川だけど、ここに飛び込めってことかな。)


まあいいや、で流そうとしたけど全然良くない。

その時、神父様が言っていた事を思い出した。ここは教会の敷地内で神聖な場所、しかも神父様は悪い事は出来ないと確かに言っていた。と言うことは、私を滝に突き落とすとかではなく、身を清めるっていう事でここに案内されたと考えるのはどうだろうか。

私なりにいい方に考える事に成功して、チラリと神父様を見て目で訴える。


(そう言う事なら早く言ってくださいよ。)


「あ、誤解なさらないでくださいね。今から私がご案内するのはこの滝の裏にある場所です。決してこの滝に突き落とすとか、川に入っていただくなんて事はしませんのでご安心ください。」


どうやら取り越し苦労だったみたいだ。


(そう言う事は早く言ってくださいよ。)


さっきとは違う意味を込めて神父様を見てニッコリ笑う。神父様もそれを見て、笑顔を返してくれた。なぜだか初めて見た時よりも、その笑顔が憎たらしく見えているのはきっと気のせいだろう。


「改めて、こちらです。水飛沫で足元が悪くなっていますのでお気を付け下さい!」


滝の真横まで来ると、確かに狭いが通れそうな道があった。滝の轟音で神父様は声を張り上げている。私は慎重に岩でできたその道を歩く。


(滝の裏を歩いているなんて不思議な気分。)


滝を横目に歩いていくと、前を歩く神父様がクルリと振り返り私に向けて手を伸ばしてきた。

差し出された手を取ると、滝の音で聞こえないが「こちらです。」口が動いているような気がした。グイッと引き寄せられると、暗い横道にたどり着いた。

洞窟なのか、外からの明かりは入り口まで入って来ているけどその先は真っ暗闇だ。

ここを行くのかと心配していると、頭の上がパッと明るくなった。

まるで電気がついたように明るくなったので、電気が通ってるんだと上を見上げると、プカプカと浮きながら白く発光している何かがあった。


「ひ、ひひひとだま!?」


驚いて思わず神父様の後ろに隠れる。

けれど、人魂はプカプカ浮きながら私に近づいてきた。あまりの恐怖に相手が神父様にも関わらず、目一杯力を込めて抱きついた。上から「イタタタ。」と言っている声が聞こえるけど、こればかりは本当に許してほしい。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」

「落ち着いてください、これは貴女が思っている怖いモノではありません。これは私の魔法で作り出した明かりなんですよ。ほら、見てみてください。」


魔法と聞いて、腕の力を緩めた。

埋めていた顔を上げて、改めてその光を見ると、確かに白く浮いてるだけでこれ自体からは恐ろしい感じはしなかった。


「ほら、大丈夫でしょ?」

「は、はい。」


私はホッと胸を撫で下ろすと、頭の上に重さを感じた。今度は何かと思って顔を上げると、目を細めて微笑む神父様がいた。光にに照らされてキラキラ輝くハチミツ色の髪からポタリと水が滴れる。


(これぞ芸術。)


頭を撫でられている状況にもかかわらず、目の前の美し過ぎる光景に顔を赤めれる事すら忘れていた。


「怖い思いをさせていまい申し訳ございません。」

「え!?いえ私の方こそ、明かりを作ってくださったのに怖がりすぎてしまって、しかもしがみついちゃってすみませんでした!」


慌てて神父様から手を離すと、かなりの力で抱きついていたのでその部分が皺だらけになっていた。やってしまったとオロオロしてると、神父様は手をスっと伸ばして私の頭をぽんぽんとした。


「初めて見るものですから驚くのは無理もありません。服は着ていれば皺になるものですから気になさらないで下さい。」

「あ、ありがとうございます。」


子供に聞かせるように落ち着いた声で優しくそう言ってくれる。失礼な事をしてしまっているのに大人な対応をしてくれたのでホッとしたと同時に恥ずかしくもなった。


「ここから先は石や岩で歩きにくくなってる箇所もありますので、注意しながら進みましょう。」

「分かりました。」


こういう場所を歩くのには適さない靴を履いているので、注意して歩かないと怪我をしてしまう。

流石にこんな所で怪我しておぶってもらう訳にもいかないので、本当に気をつけなければならない。


「よっと。」


いざ足を踏み入れると、言っていた通り石や岩が多く、しかも道も真っ直ぐじゃないので歩きにくくはあった。けれど、神父様の魔法で照らされているので足元は良く見えて想像していたよりも順調に歩けていた。

体感で言うと5分くらい歩いたところで、ふわりと私の髪の毛が浮いた。


「風?」

「ええ、もうすぐそこが出口になります。」


意外と楽しかった洞窟の通り道はそろそろ終わりのようだ。出口だと言われたところから20mくらいしたところで、神父様は足を止めた。


「ここですか?」

「はい。」


立ち止まった先は、神父様の明かりだけでは全体が見えなが、どうやら広い空間に出たみたいで、話し声が反響している。耳をすませば水の音も聞こえてきた。


「少々お待ちください。今、明かりをつけますので。」


神父様は右腕を前へ出すと、浮いていた明かりが引き寄せられるように神父様の手の中に収まった。


「この地に光を。」


そう言うと、手の中に収まっていた光がまたふわふわと浮かんで遠くへ行ってしまった。

ある程度行くと、今度は上に登り、パーンと花火のように弾けた。光が急になくなったので視界は真っ暗になってしまい、慌てて隣にいるであろう神父様の服を掴む。


「え!大丈夫なんですか!?」

「大丈夫ですよ。すぐ明るくなりますから少しだけ我慢してください。」


神父様の言った通り、真っ暗になったのは一瞬だけで、朝日が昇るように徐々に周りが明るくなっていく。


「わぁ、綺麗・・・。」


明るくなるにつれてこの場所の全貌が見えてきた。

正面に見てきたのは、どこかの物語に出てきそうな西洋のお城と、そこへ行くために作られた緩やかなアーチ状の橋、そしてその下を流れる川。その川は城を囲うように流れていた。

洞窟の壁からは所々で水が流れていて、その水が岩を伝って城の周りの川に辿り着く。

この建物はあまり使われていないのか、蔦が巻き付いていたり、苔が生えていた。

華やかさで言えば、教会の裏庭の方が輝かしかったけれど、それでも私は、ここは何よりも綺麗な場所だと思った。


「そう言ってもらえて何よりです。中までご案内しますので、お手を」

「えっ」


エスコートというやつだろうか。さっきも神父様に手を差し伸べられ何も思わず手を取ったが、今回はその手を取るのに少しの躊躇いがあった。

なぜかというと、白いお城をバックにこちらに手を差し出すその姿が、本物の王子様みたいに見えたからだった。


「どうかされましたか?」

「あっいえ何でも、ありません!」


動揺して声が大きくなったせいで自分の声が反響して、とても恥ずかしかった。

一瞬でもお姫様気分になっていた自分も恥ずかしかったが、それを煽るように神父様は表情を変えずに私が手を取るのを待っていた。

いたたまれなくて顔を伏せたまま神父様の手を取ると、優しく握ってくれた。


「ようこそ、タリア神殿へ。」

「神殿?」


神殿と聞いて顔を上げる。神父様と目が合うと変わらず微笑んでいる。

神父様は片手で重そうな扉をギギギと音をさながら開けた。完全に扉が開き切り中へ入ると、そこには椅子やテーブルのような家具は一切置いていなく、壁や床は天井も白一色に統一されていた。


パチン


神父様が指を鳴らすと、どこからともなく椅子とテーブルがやってきて、まるで意思があるかのように自分の定位置を見つけ出しそこで止まった。


(そう言えばダレンもこんな風に指鳴らしてやってたっけ。)


そんな事を思っていると、繋がれた手を引っ張られ私を椅子に座らせ神父様はテーブルを挟んだ向かいに座る。


(こういう状況もダレンの時に体験したな。)


向かい合わせで座った神父様はテーブルの上で手を組み、ニッコリと笑った。


「では、お話ししましょうか。この国の事、そして貴女のこれからの事を。」


今から尋問でも始まるのかというような雰囲気に、何となくだけれど、神父様からダレンの雰囲気を感じ取ってしまう。

気のせいだと言う事にして、私は「よろしくお願いします。」と頭を下げた。

これから真剣な話が始まるんだろうけど、どうか、無事に、何事もなく終わりますように!

今の私の願いはただそれだけだった。







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