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00 始まり








その日、私、樫野かじの 裕奈ひろな

あまりの忙しさで半泣きになっていた。



自由気ままな後輩に振り回されて、先輩の愚痴を聞いてあげて、上司に自分が受け持ってる仕事でもないのにダメ出しをされる。

理不尽な言いがかりをつけられ、腹が立ちながらも何も言えずに落ち込む私に後輩からの

「そんな日もありますよ」の一言。

そもそもお前がなー。と言えたら少しは気持ちも楽になるのに私にはそれが言えずに乾いた笑いをしながら項垂れた。

項垂れたままの私を心配したのか、差し入れです。と後輩から缶コーヒーを渡された。渡せた事に満足したのか、笑顔でお疲れ様でしたと軽く会釈をして後輩は帰っていく。それを笑顔で手を振って見送り、手に残った暖かい缶コーヒーを見て私はため息をつく。



(こんな日もある、か。なるほどね。)


半ば強引に自分自身を納得させて、グッと不満と一緒にコーヒーを奥へ流し込んだ。



「よし、帰ろう。」


シャキッとした言葉とは反対に足取りはふらついていて、避けたと思っていたデスクの角に太ももをぶつけた。

残っていた何人かの社員に心配されるも、何事も無かったように「お疲れ様でした。」と会社を後にした。



私が上京してきて5年が経とうとしてる。

田舎で育った私が上京したての頃は、見るもの聞くもの全てが輝いて見えて満員電車でさえも初めは感動していた。

しかし、1ヶ月も経てば現実が見えるようになってきて、人間が1つの箱の中に詰め込まれている異常さによく感動できていたなと押しつぶされる度にあの頃を思い出していた。


自分自身はストレスはあまり感じない方だと思っているが、5年という月日の中でそういった小さなストレスが心を少しづつすり減らしていった。



「早くお茶飲みたい。」


そういう時に私は必ず頼るものがある。


それは物心つく頃からほぼ毎日のように飲んでいるお茶のような飲み物なのだが、周りの大人達はそんな私を不思議に思っていた。

その飲み物は緑茶のような鮮やかな色をしているが、味もなければ香りもない、水に近いかと言われるとそれも違う。

人によっては、まるで霧を飲んでるかのような感覚らしいが、結局のところよく分からない、反応に困る飲み物とうのが周りの感想だ。


しかし、私だけは違った。

その反応に困る飲み物を美味しい美味しいと言って飲み続けた。

その事で多少両親に味覚の心配をされていたが、そんな心配なんて気にすることなく毎日それを飲んでいた。

けれど、大人になるにつれて飲む日が限られてくるようになる。それは決まって落ち込んだ日や疲れた日、体調が悪い日など気分が優れない日に飲むようになっていった。


そして今日も、体がそのお茶を欲していた。



「そういえば新しいティーカップ買ったんだった。」


前の休日の時に一目惚れして買った少しばかり高いティーカップ。

私はその事を思い出し、ようやく使える日がきた事に心が弾み、さっきまでの重かった足取りが嘘のように軽くなったような気がした。


お気に入りのカップでお茶を飲みながらリラックスする自分を思い浮かべながら先程よりも軽やかな足取りで歩き出す。

だが、すぐにその足が止まった。

私もなぜ足が止まったのか分からない、けれど自分の意志とは関係なく足が1歩、また1歩と後ろへ下がっていった。

訳が分からないまま、何かに引き寄せられるように身体が元来た道を戻ろうとする。

もしかして誰かいるのかと怯えながら振り返った時だった。




目の前が光で包まれ、真っ白になった。

それはもう一瞬の出来事だった。








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