弔い
「源さん、フード男のことどう思う?」
今日も火事騒ぎがあった。死人こそ出なかったが、全焼だったようだ。火事のあった日には、源さんも来るのが遅い。
「おめえ、あいつ疑ってんのか?」
源さんはいつものようにおでんをほおばっている。
「いや、そうじゃないんだが、何か妙なんだ。いつも決まって火事の夜に来るし、変な匂いもする。」
「はっはっは。」
源さんは周りの客を気にすることなく大笑いした。
「その変な匂いってのは線香だ。」
「でもさ、水を飲んで、ろうそくともして焼酎ながめて笑ってるって変じゃねえか?」
源さんは腹をかかえて笑い転げた。
「そんなに、気になるなら直接確かめなよ。そろそろ来るだろうし。」
「水を一杯。」
フード男だ。相変わらす隅の席でろうそくと焼酎を眺めて肩を時折ゆすっている。
「ちょっといいかな?」
そういうと文雄は男の向かいに座った。
「また、あんたか。」
男は震える声でそういった。いつもはフードせいでよく見えない顔だったが、ほほにはきらきらと炎で光る筋が見えた。男は泣いていた。ゆらめぐ炎のせいで遠目には笑っているように見えただけだった。
「いつも火事の晩に来て、頼んだ焼酎も飲まずに帰るって聞いたけど、何者なんだい?」
文雄は勇気を振り絞って尋ねた。いつなぐりかかってくるかもしれないと内心は気が気じゃない。男はゆっくりとフードを後ろにずらした。青白い坊主頭が見えた。
「拙僧は、こうやって死んだ両親を弔っております。」
坊主は五年前の放火で両親を亡くし、出家したそうだ。それから放火のある度に、父親が好きだった焼酎を一杯お供えしているという。
「拙僧は戒律で酒は飲めませんゆえ、こうして見ているだけです。なので何処へ言っても気味悪がられてしまって。この店だけは何も言わなかった。ありがたいことです。」
照れくさいのか源三はこちらに背中を向けている。寺には酒が無い上、店で買っているところを檀家にでも見られたら何を言われるかわからない。