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レッド・アフリカのプライド  作者: シュリンプ
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平和と、混乱

アフリカの独立戦争が激化していったのは第二次世界大戦後の脱植民地化以後である。東南アジアや中部アフリカ諸国はこれまで欧米各国の植民地としての歴史を歩んできた。だが戦争で自国の国力が疲弊した今、人々は闘争を開始したのだ。主に当時の冷戦の状況を鑑みて資本主義国と敵対していた共産主義国につく国家が多く、ソ連の支援を背景に宗主国と戦闘を行った。その影響で中部アフリカは共産主義政権が多い。だが、現在は民主化の波がアフリカにも押し寄せ、クーデターや内戦が頻発している。反政府軍やそれを支援するアメリカ。この政変に対処するためロシア連邦は特殊部隊を派遣した。旧共産主義国のアフリカ諸国やロシア寄りの政権を保持し維持するためである。


中部アフリカの熱帯雨林は太古の恐竜が潜んでいるかのようの様相を呈している。ぬかるんだ湿地や巨大な滝、絡み合う蔦はまさに恐竜時代だ。その恐竜の大地に足を踏み入れた女がいる。彼女の名はユリア・ボリソヴナ・ドラグノワ。ロシアの特殊部隊スペツナヅのエリート隊員。数々の赤化作戦に貢献してきた歴戦の勇士である。困難な作戦を成功に導き、功績を上げてきた。ドラグノワ少尉に与えられた任務は反政府軍の掃討と指導者の暗殺だ。コンゴの反政府軍はカリスマ指導者を中心に政府軍を押し続けている。この事態を打破するために何としてでも任務を達成しなければならない。

「緯度はあっているな。ということはこの川の向こうが反政府軍の勢力圏か。」

ドラグノワ少尉はここまで難解なジャングルを抜け、猛獣がいる沼を乗り越えてきた。いよいよ敵の勢力下に入るのだ。その川はどんより濁っていた。あまり入りたくない色だ。ドラグノワ少尉は銃を高く掲げるとゆっくり足場を確かめながら川に踏みいった。流れは穏やかだが底が見えない。恐ろしいことにワニがいる。ユリアはワニがこちらにこないように願った。だが、思ったよりも早く川を越えられた。そうなればこっちのものだ。

「いよいよ敵地だ」

ユリアは中腰になり、近くの大岩の影に身を潜めると無線を起動した。情報確認は重要だ。すると無線に男がでた。無線担当のドミトリーだ。

「こちら作戦本部。ドラグノワ少尉、どうした」

「ドミトリーか。今敵の勢力下に潜入した。果てしない荒野が広がっている。確かこの先には案内人がいるんだったな。」

「そうだ。現地の政府軍関係者が君を待っている。彼から情報を得るんだ。」

「了解」

「ああ、それと」

「反政府軍はアメリカの強力な武器を持っている。油断はするな」

「わかった」

ユリアは無線を切った。ここから案内人を探すのは大変そうだ。だが敵地でワザワザ待っているというのは自殺行為だ。どこかに隠れているのだろう。まずは近くの山道を行ってみるか。ユリアは険しい山に作られた細い山道を見てみることにした。アフリカらしい土まみれの作りだ。

「隠れながら進めるな。これはありがたい」

その道は土砂が堆積してあり、ちょうど死角になっている。これなら隠れながら進むことができる。ユリアは土に身を伏せながら山道のてっぺんを目指した。そこなら地形を一望できる。

「遠くの方に簡単な建物が見えるな。あれが敵の一部か」

遠くにうっすらと建築物が小さく見える。回りにはトラックやジープが停車してある。恐らくは反政府軍の部隊だろうがかなり距離がある。もう少し近くで様子を探る必要がありそうだ。周囲には敵はいない。

「あそこに行ってみるか」

ユリアは山道を下りながらブリーフィングを思い出していた。今回の任務は長期戦になる。だが泥沼の戦争になる前に終息させる必要がある。かつてのアフガンでソ連軍は大きな敗北をした。あんな思いは二度としたくはない。それにこれに失敗すればロシアは中部アフリカの傀儡を失う可能性がある。それは阻止したい。ユリアはロシアの命運をかけた作戦に厳しい訓練の日々を胸に刻み付けた。ロシアの軍人家庭に一人娘として生まれたユリアはまだ幼い時期から射撃訓練を叩き込まれた。いつのまにか特殊部隊に入り、死闘を潜り抜けていた。いつしかユリアは戦場にいるのが好きになった。居場所がなかったからかもしれない。戦争に行った者は孤独になるのだ。孤独は慣れているが、一人が寂しいと思ったこともある。独り暮らしをしてやることは過酷な訓練ばかり。私は幸せなのか何度も考えた。戦闘と激しい特訓だけが私の存在意義だと自分に言い聞かせてきた。だが、私は出会ったのだ。愛する男に。その男イワンは私が軍の訓練でシベリアの基地に遠征したときに内勤をしていた。彼は私を気に入り、積極的に話しかけてきた。変わった奴だと思ったが中々面白く話が弾んだ。ふと私は自然に笑っていた。

「嬉しかった…」

ユリアの口から言葉が漏れた。私は嬉しかったんだろう。初めて私の存在を認めてくれた存在に。そしてイワンは私に怒った。その理由は私が恋をしたことがないからだそうだ。詳しく言うと彼は私に怒ったのではなく、ロシア軍指導部に激怒していた。

「こんなに魅力的なユリアを何も知らないようにしたのはあいつらだ!ふざけてる!こんなのはおかしいぞ!」

彼の真剣な表情に私は心を奪われた。今は彼と結婚し任務が終わると彼が家で待っている。彼は私を優しく、激しく抱いた。あの温もりは今でも忘れられない。そう大丈夫だ、自分ならやれる。

「私がやる…」

「私ならできる」

「イワン、私に力をくれ」

ユリアは真っ直ぐに日の沈む地平線を見た。沈む夕日がアフリカの宝石のように輝いていた。

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