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  作者: ひじきとコロッケ
モンブール
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ランクアップ

 モンブールという国を一言で言い表すと、この大陸では普通の国。突出したなにかがある国では無いし、その歴史も比較的平凡。

 魔の森に面していないストムが隣国にあるというのが特徴と言えなくもないが、それはストムの特徴であって、モンブールの特徴では無い。

 そして、ストムとの関係は良くも無く悪くも無く。国境線となる部分が不毛の荒野であるため、互いに侵略とかそういった考えに至ることも無いため、小競り合いも無い。

 一応、数年に一度程度の頻度で王族に近い貴族が二国間交流の名目で行き来するが、国を挙げて取り組んでいるような交易品も無いため、貴族同士が裏取引をするような余地も無い。

 結局、盗賊や狼などの動物に襲われないように注意する程度で、騎士団が護衛としてついていくだけで冒険者ギルドは蚊帳の外。

 そして、ストムに行った冒険者が帰ってこないことは、問題と言えば問題だが、ストムの冒険者ギルドが閉鎖されてしまっている以上、あまり干渉できないため、「ストムへ向かうことは推奨されない」という程度の勧告をする程度。そうして代々のギルドマスターが、触らぬ神になんとやらで済ませてきたのだが、その平穏を二人の冒険者が破ってきた。

 一応、国家をまたいだ冒険者ギルド間の情報連絡として、ラウアールから「なかなか見所のある冒険者が東へ向かうために旅立ったのでよろしく」という連絡があった。だが、そもそもストムを越えてくる冒険者なんていないと思っていたから、気にも留めていなかった。

 それが、あっさりと越えてきた上、なかなか面倒なことが書かれた手紙まで持ってきた。

 ギルドマスター、レグザはあと二年、波風立てずに務めれば、結構な額の退職金をもらえて、悠々自適の老後を暮らせたはずだったのだがと、目の前の二人をにらみ付けたが、二人ともどこ吹く風。

 ストム東端の街、グクローの衛兵隊長の非公式な正式文書という、それだけでも外交問題の火種になりそうな書面の中身は、扱い方を誤ると大変なことになりそうな内容が書かれていた。

 ストムでの冒険者の扱い。

 強制的にシーサーペント討伐に駆り出され、成功率は二割以下。そして成功しても、祝勝会の名目で拘束されて再び討伐へ。

 そうした体制ができた理由についても書かれていた。

 およそ百年前、王族がギルドを通じて冒険者へ依頼をしたが、難易度も高く、期限も短かったために失敗。どのような依頼だったのか、詳細は不明だが、おそらくSランクの冒険者でも成功は難しい、そんな内容だったと推察されると書かれていた。

 そして、依頼の失敗により、その王族が激怒し……冒険者を使い潰すことを平然と行えるように法律を制定。同時に冒険者ギルドを排除。冒険者ギルドがストムから追い出されたことは、きちんと記録されていたが、その理由は明らかにされていなかった。つまり、この書面の内容が事実だとすると大変なことになる。

 冒険者ギルドは冒険者の互助組織である。社会の一部として、魔の森の素材収集などの依頼斡旋をする一方で、冒険者の身分を保障している。街の出入りの通行料や国境を越えるときの身許確認がその一例だ。そして、ストムに行くこと自体が冒険者のリスクどころか害になるという事実が明らかになったと言うことは、それを公にしなければならない。

 だが、それはいきなり外交問題になる。

「ストムに行くと拘束されますよ」と公言するのだから、遅かれ早かれストムから何らかの抗議が来る可能性が高い。なぜならストムは対外的には冒険者を拘束しているなんて事は言っていない。事実に基づかないデマを流すな、と言われたら、冒険者ギルドも立場が危うい。

 だが、握りつぶすことが難しい。

 少なくともこの二人の冒険者はチェルダムの高位の貴族と交流が有り、ラウアールの王族の覚えもいいという。CランクとDランクという、中堅冒険者でありながら、上級冒険者並みどころかそれ以上の顔の広さ。

 どこでどう情報を流すかわかった物では無い。

 そして、握りつぶしにくいのがもう一つ。

 ストムの街道に出たスモールドラゴン討伐。

 公式の記録では衛兵が討伐したことにしているが、実際にはこの二人が討伐しているのでそこんとこよろしく、と書かれていた。

 何をどうよろしくすればいいのだろうか。

 衛兵隊長というそれなりの地位に就き、責任ある立場の人間が「よろしく」と伝えてきた以上、この二人がスモールドラゴンを討伐したのは事実だろう。

 実際、リョータの方はヘルメスでのドラゴン討伐の記録があるし、他にもいくつかの大きな討伐に関わった記録がある。スモールドラゴン討伐の信憑性は高い。

 だが、ストムの記録とモンブールの記録に齟齬(そご)が生じるとなると……頭痛どころか胃まで痛い。


「コレの扱いについては少し検討する。追って連絡をするから……」


 とりあえず、二人には一旦下がってもらった。

 先代のギルドマスターはモンブールの下位貴族の四男が冒険者として――三男以下はだいたい平民と同等になることも多いため、冒険者になるのは珍しいことでは無い――実績を積み、ギルドマスターとなったので、貴族の伝手を使って国に進言することもあったようだが、レグザは平民出身である。

 一応、Aランク冒険者だったため、貴族と同等の扱いも受けているが、気軽に「こんなことがありました」とは言いづらい。

 そして貴族のやりとりは、常に根回しから。さて、これはどこに持って行けばいいのだろうか。そもそもどこに持っていったらいいのか誰に相談しようかと、悩み始めるのであった。

 呼び出しがあるまでは魔の森にも入らずに、街の観光でもしようと思っていたら、翌朝ギルドマスターからの呼び出しがかかった。


「まず、これを」


 大きめの袋が渡された。中身は見ずともわかるが、金貨がたくさんだ。


「それと、後で受付に行ってくれ。ランクアップする」

「え?」

「リョータ、お前はBランク、エリスはCランクだ」

「ランクアップってもっと大変だと思ってたんですけど」

「普通はな」


 定期馬車の護衛をしていたのはBランク冒険者だった。

 普段七人で行動しているが、一月ほど前に魔の森のダンジョンで負傷者が出たために少し長期の休暇に。そして暇を持て余した三人が小遣い稼ぎを兼ねて定期馬車の護衛をしていたのだが、あっさり全滅。

 そんな実力的には全く問題の無い三人を何のためらいも無く切り捨てた十人を、馬車を無傷で守りつつ無力化した二人。

 そしてそこに、長年謎とされていたストムにおける冒険者の扱いについての情報リークに、非公式ではあるがスモールドラゴン討伐の実績がついた。

 Cランク冒険者は比較的自由がきくため、どこで何をするかわかった物では無いという不安があるが、Bランクになると街の移動も冒険者ギルドへ届け出ることになるので、動向が把握しやすい。

 外交的な火種の持ち主の居場所特定のために取った特例措置であるが、モンブールの東二カ国の冒険者ギルドのギルドマスターも状況を重く見て承認しているし、チェルダムの貴族から「よろしく」と言われているしと、Bランクに上げたところで問題は無い。いや、むしろBランクに上げておくことで、本人たちのメリットを増やしながら行動を把握出来るようにし、この現状を打破するための協力を取り付けたい。

 キリキリと痛む胃を抑えながら出した結論である。


「それと」

「まだ何かあるんですか……」

「色々と問題が大きくなっているので、片付くまでの間は街にいて欲しい」

「えー」

「魔の森に行ってもいいし、少しくらい外に出るのもいいが、泊まりがけでというのはやめてくれ」

「そのくらいなら……どのくらいかかりそうです?」

「そうだな……三日か四日……そこまでかからんな」

「わかりました」

「ああ、それと」

「ハイ?」

「事が事なんでな、君たち二人専属の担当を付ける。マリカというベテランだ」

「はあ……」

「ランクアップ手続きも彼女がしているから、よろしく」


 そのくらいならと快諾した。断ると面倒くさそうだったので。ただ、出掛けるときには周囲に十分注意するように言われたので、少しは警戒しようか。

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