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  作者: ひじきとコロッケ
チェルダム
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コーナーは攻めるもの

 二十日かけて移動するにはどうしたらいいかを考えながらマルクセンへ向かう。幸いなことに後を付けてきたり、襲ってくるような連中もいない。リョータ達を取り込もうとした貴族は単独で動いていたと言うことなんだろうか。それならそれで安心だが、突然行方不明になって騒動になっていないのだろうか?ま、気にしても仕方ないか。

 旅は順調で、予定通り七日目の夕方、マルクセンへ到着。フランツに発行してもらった身分証で問題なく入れた。そして、宿に入っても特に接触してくる貴族はいない。一応ごまかしがうまく行っていると見て良さそうだ。


 翌日から街に出て必要な物の買い出しを始める。保存食の(たぐ)いだけで無く、荷車も購入。馬が引くタイプだが、車輪が四つ有るタイプだ。




「よし、出発」


 買い込む物を買い終えたらこの街に用はない。荷車に荷物を満載して、街を出ると転移魔法陣を設置して工房へ。荷車の改造に取りかかろう。


 まず、馬を繋ぐ部分と車輪を外す。そして、追加で買った木材を加工して車輪取り付け、さらに薬草を焼いた灰をベースにした塗料で魔法陣を描き込んでから元通り車輪をはめる。さらに荷台の板を一部外して、これまた魔法陣を描き込んだ物に入れ替える。


 作業は単純なのだが、塗料を作るのに丸一日、車輪一つ仕上げるのに一日かかる結構な作業になった。


 荷車の準備が出来たら転移魔法陣でマルクセンへ戻り、北へ向けて歩き出す。まず二日かけて二つ先の村まで向かう。

 村では荷物が少ないことを心配されたが、適当にごまかしてさらに北へ半日ほど歩き、少し森に入り、転移魔法陣を設置し、工房から荷車を輸送。


「行くぞ」


 荷車に乗り、先頭に設置した魔法陣へ魔力を流すと、ゆっくりと動き出す。ホーンラビットの血をベースにした塗料が車輪に魔力を伝え、車輪に描いた魔法陣が魔力を回転する動力に変換する。


「おお~」


 ガラガラと走り出したのを荷台から身を乗り出してエリスが楽しそうに見る。

 歩くより、と言うか、馬車よりは速いという程度の速度を出して進み始めるとすぐに森を抜け、見渡す限りの荒野になった。


「見晴らしはいいけど、本当に何もないな」

「そうですね」


 不毛の大地。ここのことを知らずに来ていたら数日で絶望することになっていただろうからいろいろな縁に感謝。そう言う意味ではリョータを取り込もうとした貴族も少しは役に立ったのだと思うと少し不思議な感じがする。


「エリス」

「はい?」

「この荷車、エリスも走らせること出来るから、交代で進もう」

「いいの?!」


 嬉しそうだ。




「あははははっ、リョータ!コレ楽しいね!」

「そ、そうだ……ねっ」


 荒れ地に入って三日目。リョータとエリスが交代で荷車を走らせているが、どうもエリスはスピード狂のようで、荷車を限界ギリギリの速度で走らせていく。


「えいっ」


 荒れ地だけあってきちんと整備された道は無いが、それでも商人が行き交った結果、僅かだが道のような物はあり、大きな岩や枯れ木を避けるように……カーブを果敢に攻めていくエリス。ストムに着いてからもずっと使おうと思っていたが、やめよう。




「あれがストムの最初の街ウォルテか」


 はるか遠くにぼんやりとその姿が見えてきたが、今日はここまでとし、最後の野営。

 食事を終えたところでリョータが改まって姿勢を正したので、エリスも釣られて姿勢を正す。


「さて、ここで残念なお知らせです」

「ん?」

「荷車はここでさようなら」

「ええええ?!」


 涙目になってる……そんなに残念なのか。でもなぁ……


「いや、アレでそのまま突っ走っていくとか目立ちすぎるからね」

「はぁい」


 耳と尻尾がへにょんと垂れる。


「……そのうちまた、な?」

「ホントに?」

「ああ」

「約束、してくれる?」

「う……」


 いつの間にうるうる上目遣いという高等テクニックを身につけたんだ。


「ま、人目につかないところでな」

「うん!」


 パタパタと揺れる尻尾。最近は反応がわかりやすいな。




 街へ一直線のルートを少し外れ、岩陰に荷車を引っ張ってから魔法陣を設置、工房へ片付けてからウォルテへ向かう。


 徒歩で二十日かかる距離を八日間で走破。荷車をもう少し改良して大量生産出来れば、この世界の物流に大革命を起こせそうだが、忙しい生活になるのはゴメンなので今は保留。老後の備えの一つにでも挙げておくか。エピナント商会に売り込めば大変なことになりそうだ。




 翌朝、ウォルテを目指して歩き始め、昼過ぎ頃に街の入り口に到着した。冒険者ギルドが無いとか、冒険者が帰ってこないとか言う話があるので、街に入らないと言うことも考えたのだが、東西どちらの方向にも街壁が伸びており、街に入らないという選択が出来なかった。


「さて、行こうか」

「はい」


 あらかじめエリスとは冒険者であることを隠しながら行くと決め、質問に対する答えも想定して用意しているが、だいたい予想は裏切られるはず。エリスが咄嗟(とっさ)にごまかすのは無理だろうから、リョータが頑張るしか無い。

 念のために冒険者証は荷物の奥にしまってあるので、大丈夫……と思いたい。




「ほう、ベルストの住人か」

「はい」

「……何をしにこんな所まで来たんだ?」

「僕たちはエピナント商会ベルスト支店の店員です。ここ数年のチェルダムの不景気に対し、ストムに何か商機が無いか探しに来ました」

「そっちの女もか」

「エリスは僕の助手です」

「そうか……おい、拘束しろ」


 門の衛兵が後ろに声をかけると五、六人出てきて周りを囲む。


「抵抗するなよ?抵抗すれば即有罪だ」


 どうしてこうなった。




「まあ、冒険者という身分を隠すのは良かったが、変装がダメだったな」

「はあ……」


 拘束されるときに抵抗しなかったことも功を奏したのか、大声で怒鳴り散らして脅すような取り調べは無かったが、変装にダメ出しか。


「あ、そうか……二十日も旅してきている割に、こぎれいな格好は不自然だったのか」

「そう言うことだ。だが……この身分証は本物だな。一体どうやって手に入れた」

「人徳ですかね」

「言うつもりは無い、と」


 本当に人徳なんだけどね。

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