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  作者: ひじきとコロッケ
チェルダム
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貴族の世間話

「これで終了ですね」

「申し訳ありません。貴族のいざこざに巻き込んでしまったようで」


 ジョディさんが謝罪してくるが、この人が悪いわけじゃ無いので何ともむずがゆい。

 いつまでもここにいると何かと都合が悪いでしょうし、と出発を促して馬車へ向かう。


「あの!」


 ジョディさんが馬車に乗り込むと、中からケイティが顔をのぞかせた。


「だ、大丈夫ですか?その……あの……」

「大丈夫です。ケイティさんこそお怪我はありませんか?」

「い、いえ……その……私に出来ることがあったら何でも言ってくださいね!」


 いい子だ。

 馬車の準備が出来たので、また前後に乗ろうとしたらエリスがキュッと袖をつかんできた。


「あ、あのね……」

「大丈夫。俺も震えが止まらない」

「あ」


 魔物を狩るのとは次元が違う。出来れば避けたいことだったが、避けられなかった。だが、避けられなかった以上は乗り越えるしか無い。

 ポンポンと頭をなでてから馬車の後ろキャビンに二人で乗る。しばらくは後ろを警戒した方がいいと思いますので、と告げて。




 その後は何ごとも無くベルストに到着した……のだが、そのまま領主の館へ連れ込まれてしまった。


「今回はご苦労だった。たっぷり食べてくれ!」


 ベルストの領主、フランツ・リーベルスは上機嫌でガハハと笑いながら、リョータの背中をバシバシと叩いている。


「十日もすれば、あのクズがどこに行ったかと騒ぎになるだろうが、しっかり片付けてくれたのであれば何の問題も無い。彼奴(きゃつ)が慌てる様を(じか)に見られんのが残念でならんな!」

「そ、そうですか……」

「おお。大したことも出来ない能なしのくせに口だけは達者でな。毎年一度は会わねばならないというのが苦痛だったが、来年は楽しめそうだな」


 うわ、性格悪い……と言うか、そこまで嫌われてるとか、何やらかした貴族なんだ。と思ったが、リョータ達を追い回したり、ケイティたちを襲ったりした息子を放置していたな。重罪だ。


「さて、冷めないうちに食ってくれ!」

「は、はい」


 護衛の報酬は既に受け取っているのだが、フランツは「二人を護ってくれた礼をさせてくれ」と引かなかったので、一晩泊めてもらうことにした。このくらいのことは貴族の護衛をした場合は普通にあること。だが、


「ところで、ウチの今年三歳になる孫娘が「お断りします」

「ムゥ……」


 では、とエリスの方を見る。


「孫が六歳になって「お断りします」


 エリスも即答。


「ただの世間話をしたいだけなんだが」

「その世間話、嫁にどうだとかそう言う話ですよね?」

「まあ、貴族の世間話の四割はそれだな」


 マジか。


 だが、そんなやりとりの間にもケイティが舟を漕ぎ始めた。

 馬車はかなり高級で揺れも少なかったが、それでもずっとガラガラ音がしていてガタガタ揺れていた上に、実際に襲われそうになったという恐怖。心身共に疲れているのだろう。


「そろそろ寝ましょ、ケイティ」

「ふぁい……」


 使用人に抱っこされて退場していった。


「さて、少し難しい話をしようか」


 一言で空気を張り詰めさせるあたりはさすがと言えるだろうか。


「二人はこのまま北へ向かい、そのまま東へ向かうと聞いているが」

「はい」

「そうか……二人を護ってくれた礼にいい情報を教えよう。悪い情報かも知れんが」

「悪い情報?」

「まず、北へ向かうのだろうが……徒歩だと七日程でマルクセンに着く。だが、正直滞在することは勧めん」

「どういうことです?」

あの馬鹿(・・・・)の従兄弟が領主をしている。そこそこ優秀だが、何を吹き込まれているかわからん。注意しておくに越したことは無いだろう」

「なるほど」

「物のついでだ。身分証を発行しておくから使うといい」

「え?」

「この街の住民であるという身分証だ。冒険者証で出入りしたら奴に情報が漏れるだろうが、コレなら大丈夫だろう」

「あ、ありがとうございます」

「ついでに孫娘との婚姻「それは遠慮します」

「つれないのう。だが、その先が本題だ」

「その先?」

「ウム。チェルダムの北の国、ストムだが……まず、行くのが厄介だ」

「行くのが?」

「どうやら知らなかったようだな」


 フランツの話によると、マルクセンからストムまでは徒歩で約二十日。だが、その間には村は二つだけ。しかもマルクセンから二日歩いたらその先は村は無く、ただの荒れ地になるという。


「商人も行き来するのに大がかりな隊商を組む。日数がかかると言うことは途中の飲食の用意も必要になるからな。商人が行くときも馬車が最低五両だ」

「なるほど。準備を入念にしないとマズいって事ですね」

「それが厄介ごとの一つ目だ」


 まだあるのか。


「二つ目。ストムは、冒険者がいない」

「え?」


 そもそもストムは大陸の西海岸最北端から東へと延びている国なのだが、大陸にある国としては珍しく、魔の森に面していない。山脈が一切途切れること無く繋がっているため、魔の森へ入ろうとすると数千メートル級の山を越える必要があり、全く現実的では無いのだ。

 そして、魔の森に接していないために、冒険者の必要性が無い。一応ギルドの支部はあるのだが、「ある」だけで配置されている人員は街の衛兵で、連絡用魔道具が埃を被っているだけである。


「あの国にはワシも行ったことは無いので詳しくは知らんのだが……どうもきな臭くてな」

「きな臭い?」

「領主という立場上、いろいろな情報が入ってくるのだが、あの国に行った冒険者が一人も戻ってこない」

「えー」

「行き来が面倒な距離であることは確かだが、一人も戻ってこない、あるいは新たに向こうから来る者もいないというのはおかしいと思わんか?」

「そうですね」

「二人に渡す身分証は国境を越えるくらいは可能だ。危険を回避する意味でもストムでは冒険者証を見せない方が無難じゃろう」

「わかりました。色々ありがとうございます」


 何だかよくわからないが、面倒くさい国っぽいな。

 事前に知ることが出来たのは運がよかったと思う。


「最悪、ストムは街に立ち寄らないというのも考えます」

「ウム。そして、出来ればでいいんだが」

「はい」

「どういう状況になっているのか、何らかの形で教えて欲しい。全く情報が無いんでな」

「努力します」

「勿論礼は弾むぞ。そう、望むなら孫「それは遠慮しますので」




 翌朝、身分証をもらい館を出ようとしたら、ずらりと見送りに並ばれた。そして、ひどく不機嫌な顔のケイティ。


「……」

「えーと……」

「……」

「いつかまた戻ってきて、色々と面白いお話をお聞かせしますから」

「……約束」

「えーと……」

「約束!」

「はい」


 ちょっとだけ笑顔になった。だが、厄介な言質も取られてしまった。忘れたらマズいな。あと……後ろに立つエリスが放つ冷たい気配も怖い。


「では、色々とありがとうございました」

「気をつけてな」

「はい」


 とりあえずすぐ北の街、マルクセンへ向かい、そこからストムへ向かうための準備をする予定。偽造された身分証があれば街の出入りは問題ないし、今回の護衛の報酬もあるので、懐具合も問題ない。


「えーとね……」

「……」

「アレは言葉の(あや)という奴で」

「……」


 エリスの機嫌を直す方が大変だな。

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