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  作者: ひじきとコロッケ
チェルダム
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初めての……

 すぐに使用人の一人にケイティを託し、エリスの元へ。


「すみません。雨の音で足音が聞こえづらくて」

「構わない。人数は?」

「多分十人以上。周囲を囲まれてい「かかれっ!」


 エリスが答え終える前に周囲の茂みから一斉に男たちが現れ、向かってくる。だが、まだケイティを抱えた使用人は馬車に乗り込んでいないし、もう一人も馬のそばにいる。


「エリスはあっち」

「ハイ!」


 馬の方をエリスに任せ、ケイティに斬りかかろうとする男へ向かう。なかなかに装備が立派な男で、右手の剣を今まさにケイティを抱えた使用人に斬りかかろうとしているところにそのまま斬りかかる。しかし、男はリョータを脅威と感じていないようで、チラリと見ただけだった。確かにリョータのいる左側、男の左腕には丸い金属の盾がはめられている。普通に考えれば、剣で斬りかかっても問題なく防げる、そう考えているのだろう。だが、リョータもそんな盾に構わず剣を振るう。手加減無しで魔力を目一杯込めて。


「ぐあっ!」


 スルリと剣が流れ、一瞬男の動きが止まり、両腕がポロリと落ちた。


 今まで、リョータは人を斬ったことは無い。電撃の魔法を使えば大抵の相手は無力化出来たし、距離が開いていれば穴に落とすなど、いろいろな対処法がある。だが、いつかは剣で斬らねばならぬ時が来ることは覚悟していたし、ラビットソードで斬ったらただの切り傷で済まないことも承知していた。

 両腕を切り落としたりなんかしたら、その後どうなるか。




 アレックス・ギルターの魔道書に治癒魔法に関する記述は無かった。

 いろいろな街で冒険者たちから聞いた話でも、ケガや病気を治す魔法は無さそうだった。

 当然と言えば当然だ。魔法は「何を行うか、イメージすることでその通りの事象が引き起こされる」のだから、ケガを治す、病気を治す、という明確なイメージが無いと魔法として発動しない。


 ケガを治すというのはどういうことだろうか?


 ちょっとした切り傷でも、その傷口を塞ぐためにはその周囲の細胞を分裂・成長させ、傷口を塞ぐように結合させる必要がある。だが、細胞を分裂・成長させるのはどうやれば良い?漠然としたイメージでは魔法は発動させられない。細胞内で起こる化学反応を促進させるにはその全てを把握し、適切に「この反応はそのまま」「この反応を二倍に」と言った具合に調整しなければならない。医師免許を持っていようが、ノーベル賞を取れるほどの頭脳を持っていようが、とてもコントロール出来る物ではない。


 だから、決めていた。

 ある程度以上の傷を与えたら、殺すしかない、と。


「くっ」


 歯を食いしばり、剣をもう一度振るう。


 スパッと切り裂く感触と共に、男の首が落ちる。


「中へ!」


 使用人の背に叫び、その横に迫る男を斬り、今度は片腕と首を同時に落とす。さらに振り向きざまに一閃(いっせん)して上下に切り離す。これで三人。使用人がようやく馬車にケイティを押し込んだのを確認したところで目に見える範囲の相手の足元へ……


「地槍!」


 そしてすぐに反転。エリスが二人を斬り伏せ、馬と使用人を守っている周囲の賊へ向け、


「地槍!」


 襲いかかってきた男たちが物言わぬ様になったところで、離れた位置をエリスがキッとにらむ。


 少し街道を進んだところに馬車が二両。


「アレは?」

「……例の貴族の家紋です」

「了解」


 使用人の答えを聞くと同時に、土魔法で馬車の周囲を完全に壁で囲み、ちょっとした山にする。内側からは空を見ることは出来るが、オーバーハングになっている壁を登ることは出来ないだろう。


「ふう……ジョディさん、ケイティさん、大丈夫ですか?」

「こちらは大丈夫です」


 使用人が答えるが、どうやらケイティはおびえてしまって馬車から出てこない。そこのフォローはさすがに出来ない。


「馬も無事ですね?」

「ええ。少し興奮してしまっていますが」

「リョータ、多分血の臭いのせい」

「水で洗うしかないな」


 念のために斬り伏せた男たちを確認するが、


「冒険者証持ってるのか……」

「え……」


 一応聞いたことがある。こう言う(・・・・)汚れ仕事のことを。

 ある程度経験を積んだ冒険者は戦闘能力が高い。だが、強いだけの冒険者はどこかで行き詰まり、貴族からの依頼だから(・・・・・・・・・・)と理由を付けて、盗み、人攫(さら)い、暗殺と言った仕事に手を染める者がいる。勿論、発覚すればどうなるかは言うまでも無いが、貴族が握りつぶしてしまえば、そして、当の冒険者たちが口を滑らさなければ事件そのものが闇から闇へ葬られていく。


「全く……そこまでして蜂蜜が食いたいのかね」

「美味しいんでしょうか……」


 エリスさん、ちょっとズレてます、リョータも。




 全員の無事を確認したところで、周囲を再確認。なかなか凄惨な感じになってしまった。


「とりあえず、全部埋めるか」


 土を動かして穴を開け、そのまま死体を埋める。

 あとは、


「あっちの馬車、どうしましょうか?」


 貴族の扱いは貴族に聞くのが一番だ。


「んー、どうしましょうか。中に何人いるかわかりますか?」

「男性三名、女性一名の声が聞こえました」


 ジョディの問いに淀みなく答える。エリスの耳は優秀だな。見た目もいい。


「そうですか……馬車に付いていた紋章は、例の貴族で間違いありませんから、片付けて(・・・・)いいですよ」

「片付ける?」

「はい。街にいるときはさすがに直接的な対応は避けますけど、ここは街の外。不幸な事故(・・・・・)が起こったと言うことで」

「なるほど」

「巻き込まれる馬は可哀想ですけど」

「馬だけ出すことも出来ますが」

「そのあとの扱いが困ります。連れて行くわけにもいきませんし、ここで放しても生きられないでしょうから」

「そうですね」


 方針が決まったのならと馬車を囲んだ土の山へ歩き始めると、ジョディさんも着いてきた。


「どうせなら一芝居打って、誰に手を出したか理解させておきましょう」


 そう言って、「こんな感じで」と台詞をスラスラと伝えてくる。傘を差し掛けている使用人もニコニコしながら頷いているので、言うしか無いんだろうな。


「できるだけわざとらしく言うんですよ」


 演技指導まで入ったよ。

 土の山に近づくと、中から「ここから出せ!」「俺を誰だと思ってるんだ!」という声が聞こえてきた。

 はあ、と一つため息をついてから、声を張り上げる。棒読みだけど。


「思わず馬車を囲んでしまったけど、これは一体誰のだろう?」

「もしかして、襲われているのを見て助けに来てくれたのではないでしょうか?」


 エリスもノリノリで棒読みだ。


「いやあ、それは無いんじゃない?」

「どうしてですか?」

「だって、馬車の外に誰も出ていなかったからね」

「あ、そういえばそうですね」

「つまり、この馬車は僕たちを襲った賊の雇い主だと思う」

「ええ、本当に?」

「怖いわあ」


 ジョディさんも参戦してきたが、一旦ここで止めて中の反応を伺う。


「わ、我々は無関係だ!私は!き、貴族だぞ!わかっているのかっ!」


 焦った声が聞こえてきた。さて、続けるか。


「おかしいことがあるんだよね」

「おかしいこと?」

「馬車は二両もあるのに、護衛がいないんだ」

「ええ!?それはおかしいですね」


 さて、反応はどうだろうか。


「ご、護衛は!その!あれだ!ちょっと離れているんだ!そう!すぐに戻ってくる!」


 戻ってきてないんだが。

 さて、これ以上芝居を続けますか?とジョディさんに視線を送ると、ふうと一息ついて、(りん)とした声を上げた。


「モンティス家に楯突いたと言うことがどういうことか理解していますか?」


 中のざわつきが止まった。


「我々を襲った者たちは全て静かに(・・・)なりました。残るはお前たちだけです」

「ひっ!あ……あのっ……そのっ……」

「見苦しい!己の行動に責任を取れない者が、貴族を名乗るものではありませんっ!」

「あ……あのっ……」

「街まで引っ張っていくほどの価値もありません。ここで始末します」

「わかりました」


 トン、と地面を一度踏み鳴らすと土の山の上部が内側に崩れていく。


「や、やめ!」

「助けてくれ!」


 悲鳴はすぐに聞こえなくなった。

 半分程度まで崩れたところで、もう一度地面を踏みならし、全体を地面の下へ埋め、表面を自然な感じに仕上げる。

 少し雑だが、どうせ雨が降っているので、すぐに目立たなくなるだろう。

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