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  作者: ひじきとコロッケ
チェルダム
72/345

冒険者たちの熱い友情

「ギュスとブロウ、お前たち二人の事情はわかった。だが、あんなデカいのを街まで引き連れてきたというのはさすがに許しがたい。幸い被害がなかったから良かったようなものの、街まで突っ込んできたら取り返しが付かないことになっていた。それはいいな?」

「はい」

「わかってます」

「本来なら冒険者資格剥奪、下手すると犯罪奴隷落ちになってもおかしくないが、今回は被害ゼロだったと言うことで厳しい処分は無しとする。ただし、Dランクになってからの実績は抹消する」

「わかりました」

「寛大な措置、ありがとうございます」


 深々とお辞儀をして、二人が出ていく。


「で、お前たち二人だが」

「はい」

「どうすればいい?」

「それを聞かれても」


 ハア、とため息をつく。十メートル以上の岩喰いは決して珍しい魔物ではないが、街の近くまで来ることはほとんど無い。小型の岩食いを狩るポイントになる岩山からさらに奥へ進んでいけば、それこそ群れで現れる。体内で生成される鉱石がふた回り以上大きくなることもあって、Aランク以上の依頼としてギルドが扱うこともある。だが、それもAランクの六人ほどのパーティがアレコレ作戦を立てて、連携してようやく一匹仕留めるレベルであって、Cランク冒険者が一人で同時に三匹仕留めるなど聞いたことが無い。そう言うのが出来るのはSランクの領域だ。


 すぐにでもSランクにしてしまえば、今回の件も簡単に片が付くのだが、エルネットの一存では決められない。ギルドが記録している実績は難易度という点では申し分ないが、Bランク以上に求められるものを満たしているかというと、全く足りない。扱いに困る冒険者だ。


「二人に何かペナルティを科すと言うことは無い。何ら手落ちはないからな」

「はい」

「岩喰いだが、素材として受け取りたいか?」

「んー、鉱石を一ついただければ」

「わかった。処理しておこう。後の素材については買い取りとするが、解体、運搬の手数料を差し引く」

「それは構いません」

「わかった。明日の朝までに用意しておくから後で受け取ってくれ」

「はい」

「ただ、今回の件は……どうにも扱いが難しい。ランクアップの評価に加味するかどうかはこちらで勝手に判断するが、いいか?」

「問題ありません」

「よし。話は以上だ」


「失礼します」と二人が出ていったあと、机に突っ伏して考える。

 チェルダムとノマルド、ラウアールの冒険者ギルドは遠距離連絡用魔道具でギルドマスター同士が連絡を取り合っており、数日前、ギルドマスターから連絡があった。「色々面白い奴が旅をしているらしいぞ」と。

 冒険者なんて多かれ少なかれ面白人間の集まりだと思っているので特に気にもせず、「周りに迷惑をばらまくような人でなければ平気」と軽く思っていた。軽く考えていた過去の自分をぶん殴りたい。周りの大勢には迷惑をかけていないが、自分には色々面倒事がてんこ盛りになってしまった。


 まずは、定期馬車捜索の後始末。

 緊急性が高いと判断して、ギルドとして依頼を発行したが、結果は散々。あの二人がいなかったら今頃どうなっていたかと思うと、胃が痛い。


 そして、今日の騒動。

 十メートルを超える岩喰いが街を襲ったという話は決して珍しい話では無く、冒険者ギルドの記録を見ると、数年に一度はどこかの街で起きているらしいが、ルーシャーでは記録に無い。勿論、今までに無かったからこれからも無いはずだ、なんてことは思っていなかったが、何の前触れも無しに起こるとは思ってもいなかった。

 そして街の半壊も覚悟していた、まさに天災級の事態――勿論、彼女自身の責任が問われ、進退問題に発展するレベル――だが、あの二人が何事も無く終わらせた。あの二人がいなければ、この部屋にも聞こえてくる酒場の賑やかな声も、窓から見える街の人々の笑顔も無かっただろうに、それだけのことをして見せたという雰囲気も無い。


「はあ」


 盗賊団についての報告書も途中だというのに、さらに追加の報告書を書かねばならないとは。どうにかして「詳細はあの二人に直接聞いてくれ」と書き添えて提出したい。それで無くても、ここ数年の不景気で色々頭の痛いところなのだから、少しくらい面倒ごとを押しつけてもバチは当たるまい。


「だが、なんて書けばいいんだ?」


 答える者はいなかった。




「飲め!」

「「「おお!」」」


「食え!」

「「「おお!」」」


「歌え!」

「「「おお!」」」


「騒げ!」

「「「おお!」」」


 ジェイクの音頭でジョッキがぶつかり合い、宴会が始まった。

「何だかよくわからないけど大型岩喰い討伐祝勝会」だそうだ。


「リョータ!飲んでるか?」

「お酒はちょっと……」

「食ってるか?」

「目の前の山を片付けるのに精一杯です!」

「今日は俺のおごりだ!じゃんじゃん食え!」

「よっ!ジェイク太っ腹!」

「ごちそうさん!」

「お前らはちゃんと払え!」

「細かいことは言いっこなしだぜ!」

「そうだそうだ!」


 岩喰いを倒したリョータたち以外の方が騒がしい。

 だが、冒険者たちのこういう空気も慣れてきた。おごりだというなら、少しくらい高いメニューでもいいよね?




 結局ルーシャーの街を出たのは四日後だった。

 衛兵隊長によると、調査の結果、宿の主人だけで無く、村人にも盗賊団の関係者がいたらしく、洗い出しに時間がかかったらしい。

 この先、あの村はどうなってしまうんだろうかと心配になるが、このまま北へ向かえば当分の間――それこそ年単位で――訪れることの無い村だろうからあまり考えても意味は無いか。


 そして、この街にもそれほど思い入れがあるわけでも無い。目的地はまだはるか遠くだし、さっさと出ようとしたのだが……


「おいおい、俺たちに挨拶も無しか?」

「水くせえじゃねえか」


 何か、集団で見送りに来られた。


「まあ、その……うん、そういうことで!」

「それだけ?!それだけなのか?!」

「俺たちとの熱い友情は?」

「苦楽を共にした日々……あの頃はまだ俺たちも若かった……」


 いつの誰の話をしてるんだ……

 いつまでも付き合っていられないので暑苦しい集団は放置して逃げるように街を出た。




「なんであんなに懐かれたのかな……」

「でも、いい人たちでしたね」

「それはそうだけど」




 チェルダムの王都までは歩いて行くと二十日。途中、二つの街を経由する。

 どちらもヘルメスよりも大きく、冒険者ギルドもかなり大きかったのだが、滞在している冒険者の数は少なく、あまり活気が無かった。

 普通にチートスキルをもらって転生していたら、色々と助けて回るんだろうが、何をどうすれば解決できるか見当もつかないので何も出来ないまま通過していく。

 最優先すべきはエリスの奴隷紋解除。そのためにできるだけ早く移動。それしか無い。

 だから王都も物資の補給のためにしばらく滞在したら出発する予定だったが、到着するまでの間に予定を変更した。


 ヘルメスを出てからそろそろ四ヶ月。さすがに着ているものがへたってきていたので、二人とも新調しておこうと。


 この世界での衣服は大きく四種類。一つ目は全て手作りで、庶民の多くがこれ。

 二つ目はそれほど種類は無いのだが、量産品。ただし、サイズ選択の余地はほとんど無い。SMLレベルでも期待するだけ無駄。

 三つ目が古着で、手作り品と量産品の古着を扱う店は結構多く、いちいち服を手作りしていられない冒険者の多くがこれ。

 4つ目がオーダーメイド。貴族や金持ち向けがメインで言うまでも無く高額だ。


 まず、古着屋に向かったのだが、数軒回ってもリョータのサイズに合う物が無い。両親の元で暮らしているのが普通の年齢なので、子供の服はだいたい母親など家族親類が作るのが普通なのだ。エリスのサイズは一応あったのだが、今来ているものと同じくらいのヘタリ感だったのでやめた。

 続いて量産品の店。二人とも下着はここで何とかなったが、やはり服はなし。

 仕方が無いので、オーダーメイドの店で一番安いところを教えてもらって向かった。一番安いと言ってもそこそこ高額。だが、丈夫な布地を選べたりするので冒険者もよく利用しているらしいので、問題ないはずと思ったのだが……店に入ってそうそうに「一番安くても金貨が必要になりますがよろしいですか?」と言われた。


 問題なく支払えると答えたら……疑われた。


 オーダーメイドで厄介なのが、作るだけ作ったが代金が支払えないというケース。

 その客向けにサイズ合わせしてしまっているので、他に売り先が無いという面倒くさい事態になるので、店側もこんな少年少女相手だと警戒すると言うわけだ。

 仕方が無いので、採寸したあとに全額前払いにしたのだが、よく考えたらCランク冒険者証を見せれば良かったのかもな。

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