定期馬車を見つけた
全員を縛り上げて、最初に出てきた盗賊のグループと、一緒に来たグループに分け、盗賊グループの前へ。
「さて、気持ちよく質問に答えて下さいね」
一番偉そうにしている奴の前に座る。
「アジトの場所を教えて下さい。あと残っている人数も」
「断る」
「そうですか」
「テメエみたいなガキ相手に答えるかってんだ」
「わかりました」
「ん?」
「一応、これをお見せしておきます」
そう言って他の冒険者から見えない角度に大きめの石を置く。
「よく見ておいて下さい。素直に答えていただかないと、これを使いますという警告です」
にこやかにストンストンとラビットソードで輪切りにすると、さすがに青ざめる。
「さて、素直に話して下さいね。アジトの場所と残っている人数、教えて下さい」
「「「はいっ!」」」
アジトまではここから歩いて一時間ほど。残っているのは五人。定期馬車の乗客が六人いるということまで確認できた。だいたいの方角を確認すると、エリスがうなずいたので、場所を辿るのは問題無さそうだ。
「さてと……それじゃ行ってこようか」
「はい」
エリスが馬を落ち着かせ、近くの樹に繋ぎ、飼い葉と水を用意する。往復二時間くらいならこれで大丈夫だろう。
「ふ……この程度、簡単に抜けてやるさ」
「そうですね。だから、こうします」
トンと地面を叩くと、ズズズ……と盗賊たちのいる地面が少しずつ沈んでいき、周囲が盛り上がっていく。
「な!」
「何だこれ!」
盗賊たちは十メートルほど下に、周囲の壁は五メートルほど盛り上がる。内側の壁を綺麗に固め、オーバーハングに。さらに追加。
「氷水!」
ドバッと水が入ると同時に中から悲鳴が聞こえてくる。
「申し訳ないですけど、誰が盗賊の仲間かわからないので、全員まとめてあっちとほぼ同じ事をします」
「……」
さすがに氷水はやめておいた。盗賊でない冒険者も混じっているかも知れないので。
途中から馬車が何度も往復したような轍があり、臭いを辿らずともすぐにアジトまでたどり着けた。
「あそこか」
「はい……中に数名、話し声が聞こえます」
森の奥にある洞窟という何ともテンプレ感のあるアジト。洞窟の前に馬車――多分定期馬車だろう――が止められており、横には樽や木の箱が数個積み上げられている。
馬が二頭、のんびりと草を食んでいてなんとものどかな風景だが、ここは盗賊のアジト。さっさと片を付けよう。
「さてと……」
エリスがスッと耳を塞ぐのを確認し、洞窟真正面の地面に集中。
「えいっと」
イメージを固めて発動させる。
ドンッ!
殺傷力などカケラも無い、ただ音がするだけの魔法。
「何だ!何の音だ?!」
「敵か?!」
わらわらと出てきた。人数は五人。いきなり全員出てくるとは考え無しにも程がある。
「スタンガン」
バチン!
「ぐあっ」
「ぎゃっ」
まだ動いてるな……よし、もう一発。
「スタンガン」
バチン!
「ぐあっ」
「ぎゃっ」
よし。
全員を縛り上げて洞窟の中へ入る。中はかなり散らかっていて変な臭いがして、エリスが露骨に顔をしかめている。
「エリス……大丈夫?」
「なんとか……」
さっさと片付けようと奥へ進むと、一番奥に鉄格子をはめた檻があり、女性だけが六人入っていて、リョータ達の姿を見て「ひっ」と体を強張らせた。
「えっと……助けに来ました。盗賊は全部縛り上げたので安心して下さい」
とりあえずにこやかに笑顔で檻に近づく。
「今開けますね」
キンッと鉄格子を切断する。
「歩けますか?」
「は、はい……」
「では外へ。エリス、念のため外の様子を」
「ハイ!」
食事もろくに摂っていなかったようで、フラついている数名を助けながら外へ出る。
「……ホントに倒れてるし、縛られてる」
最初に出た一人が感心している。
盗賊は袋詰めして馬車に積み込んで、空いているスペースに乗り込むと馬車を走らせる。御者はもちろんエリスだ。
ガラガラと走らせながら、簡単に話を聞いた。
定期馬車は予定通り出発したのだが、六日目の昼頃、いきなり盗賊に囲まれ、御者を含む男性たちがその場で殺され、女性だけが洞窟へ運ばれて檻の中に。幸いなことに拘束された以上のことはなかったが、奴隷として売り飛ばすようなことを話していたと。
奴隷、と言う単語でエリスがピク、と反応したので、そこはあとで慰めておこう。
馬車を走らせて本来の道に戻り、盗賊を拘束している空き地へ向かう。馬車を降りて穴の中を見ると、歯をガチガチさせながらこちらを見上げている。そりゃ寒いよな。
「よしよし、逃げてないな」
出来ればさっさと戻りたいのだが、もうすぐ日が暮れる。時間的にここで野営するしかないので、女性たちにその旨を伝える。
「それじゃ、食事の仕度ですね」
「あ、お願いしてもいいですか?」
「助けてもらったんだし、そのくらいは」
「ではお願いします。俺とエリスは盗賊を処置します」
魔法で沈めておいた地面を戻して、盗賊たちのロープを確認。緩んだ様子も無いし、ほどこうとした痕跡もない。水につかって体温を奪われていた状況では抜け出す気力も無くなるか。
食事を終えると、盗賊たちにも一応パンなどを渡して食べさせると、魔法でまわりを囲んでおく。これで逃げ出したりは出来ないだろう。
女性たちに馬車で休むように伝えると、エリスと交代で見張りをしながら夜を明かす。
朝になると、盗賊たちを乗ってきた馬車に詰め込み、エリスが手綱を握る。定期馬車の方には女性たちを乗せ、馬車を操れるという女性に御者を任せる。村までの道もわかるというので先行してもらい、リョータは馬車の一番後ろに座り、エリスが異変を感じたらすぐに対処できるように備える。
無理のない速度で進み、日が傾いてくると馬車を止めて野営。夜が明けると馬車を走らせる。行きよりも少し時間をかけて進み、五日目の朝、ようやく村まで戻ってきた。
なお、途中から馬車の中が大変な状況になり、エリスが涙目になっていたのでフォローが大変だった。
「お……帰って……来た……のか?」
「はい。あの、村長に色々とお話が」
「村長?ああ、こっちだ」
入り口近くにいた村人に先導されて村長宅へ。村人から呼ばれて出てきた村長が二台の馬車を見て目を丸くする。
「これは一体……」
「盗賊を全員捕らえてきました。衛兵への連絡をお願いします」
「わ、わかった」
慌てて村長が家の中に入る一方、村人たちに手伝ってもらいながら盗賊+冒険者を馬車から降ろす。垂れ流しなのでひどい状態なので、村人たちも心底イヤそうだが、馬車に乗せたままというわけにも行かないので仕方ない。
女性たちは村の女性たちに連れられて村長宅へ。そちらは任せておいていいだろう。
やがて、村長が手紙を村人の一人に渡し、馬を走らせた。これで昼過ぎには衛兵たちが来るだろう。
革鎧などを装備したままの盗賊たちのロープを一旦ほどき、武装解除させて水をぶっかけて簡単に汚れを洗い流して拘束しなおすという面倒くさいことを全員分終えた頃、衛兵たちがやってきたので、引き渡す。
「こいつらは間違いなく盗賊です」
「また、すごい人数だな」
「生け捕りですから」
そして、冒険者の方だが……
「おそらく、このブラッドは盗賊の一員です」
「……そうだよ」
観念したらしく、素直に認めた。
「それと、こっちのケヴィンたち四名も十中八九盗賊です」
「どうしてわかった?」
うつむいたままのケヴィンたちに代わりブラッドが尋ねる。
「最初っから俺たち二人も含めた冒険者数名を奴隷として売り飛ばそうとしていたんでしょう?」
「……まあな」
予想はしていたが、ひどい話だ。
「定期馬車が行方不明という情報、判断が速すぎるんです。そしてそのあとの動きも。おそらくあなたがギルドに働きかけたんじゃないですか?手遅れになる前に手を打つべきだとかなんとか言って」
リョータたちが村に来たときに、街へ向けて出発した者がいたが、おそらくリョータたちをターゲットに追加するという連絡をしていたのだろう、と付け加える。
「だが、ケヴィンたちは?」
「簡単です。これから山を越えるってのに、食料の準備すらしていないなんておかしいでしょう?」
山越えをするならできるだけ早く出発した方がいい。だからリョータたちも山を越える前日の内に準備をしておいて、朝早くに出発していたというのに、リョータたちがのんびりと起きてくるまで宿に残っているなんておかしいのだ。
「そんなところです。だから、最初から怪しいと思ってましたが、定期馬車が襲われたのは事実でしょうから、助けられるなら助けようと思って仕事を請けたんです」
目の前で間違いなく犯罪が行われている。黙って見逃せる性分では無い。
「ハア……全てお見通しか。負けたよ」
そう言ってブラッドは引っ張られていった。
なお、ブラッドと共に村に来た冒険者三名はおそらく盗賊と無関係と思われるが、念のため取り調べるという。
リョータもそこまでは判断できなかったので、それは専門家に任せることにした。ただ、「可能性は低いと思います」と口添えだけしておいた。どの程度効果があるかはわからないが。
やがて、盗賊たちを馬車に積み終え、衛兵たちが街へ向かって出発する。
リョータたちも行き先は同じだから、一緒にどうかと誘われたが丁重にお断りしておいた。
一緒に行ったら面倒ごとが増える気がしたので。
だが、気がかりなことが一つだけ残っていたので、それを伝えると、後日改めて調査すると隊長が約束してくれた。




