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  作者: ひじきとコロッケ
ノマルド
67/347

定期馬車を探しに

「俺たちCランクだけど」


 背後から声がして振り向くと四人の男女が手を上げていた。


「む……お前たちは……」

「ケヴィンだ」

「バグ」

「コリンよ」

「ニコルです」

「聞いたことがあるな」

「ま、そこそこ名は売れてると思うぜ」

「頼む。これがギルドの依頼票だ」

「どれ……って、俺、字は読めないんだよね」

「馬鹿、こっちによこしなさい」


 何だかな、と思って見ていたら男がこちらに視線を向けた。


「お前たちは?」

「リョータです、Cランク。こっちは」

「エリスです。Dランクです」

「聞かぬ名だな」

「チェルダムに来たことはありません。この村に着いたのも昨日です」

「そうか。これが依頼票だ。受けるかどうかは自由だが、見てくれ」


 そう言って依頼票を手渡してくる。


「えーと……」


 内容は、ノマルドとチェルダムの国境を結ぶ定期馬車の捜索だった。


「定期馬車の捜索?」

「ああ。ノマルドを出た定期馬車がまだ到着していないんだ」

「え?まだ到着してない?」

「ああ」

「俺たちがノマルドの村に着いたとき、七日前に定期馬車は出たって言ってたんだ。その翌日に村を出て八日かけて来たから馬車が出てから十六日経ってるって事だよね」

「そうなる。馬車は天候にもよるが通常九日か十日で到着する。相当な悪天候でも十四日もかかることは無い。そこで、何かあったのではと捜索に行くことになったんだ」

「なるほど」


 定期馬車は主要な交通インフラの一つだから、こういうときの対応スピードも速いようだ。


「えっと、ブラッドさんは何が起こったと思ってます?」

「天候的に考えづらいが、どこかで崖崩れなどがあって立ち往生しているか、最近この辺りで活動しているという盗賊団に襲われたか……おそらく後者だろう」

「盗賊団?」

「北の方から流れてきたらしい。結構な規模の盗賊団と言うくらいしかわかっていない」

「物騒な話ですね」

「全くだ」

「で、リョータだったか。どうする?」

「エリス……は聞くまでも無いな。受けます」


 心情的にエリスが盗賊団なるものを許すはずが無い。リョータもそれは同じだ。


「そうか。準備が出来たら外の馬車へ」

「もう出掛けようとしていたところなので、すぐにでも」

「わかった。そっち、ケヴィンたちはどうする?」

「俺たちも受けるぜ」

「そうか、頼む」

「何か用意するものはあるか?」

「戦闘装備だな。食い物は干した肉、野菜、果物を馬車に積んであるから要らないぞ」

「ならそのまま行けるな。食費が浮いたぜ」


 ケヴィンがそばに置いていた背嚢をブラブラとさせながら答える。


「他にこの村にいる冒険者はいないか?」

「いや、今いるのはこれで全部だな」

「よし、すぐに出発しよう。外へ」


 宿の前に大型の幌付き馬車が止まっていて、ブラッドと共に来ていた四人の男女が荷物の確認をしていた。


「荷物はどうだ?」

「よっと……これで全部だ」

「そうか。こいつら六人追加だ。あぁ、自己紹介は互いに馬車の中で。出発しよう」


 その言葉を合図に全員が乗り込む。やや狭いが、荷物をうまく積み替えると丁度ぴったり座れた。


「よし、出せ」


 ブラッドの言葉と共に馬車が走り出した。




 馬車の中で簡単に自己紹介を済ませる。ブラッドと共に来ていたのは男がオリヴァーとトニー、女がパメラ、アメリだと名乗り、全員がCランクだという。五人とも、冒険者歴が長く、リョータ達のランクを聞くと驚いて、どうやってそんなに速くランクを上げたのか聞いてきたが詳細は伏せておいた。何となく。




「それにしても……」

「ん?どうした?」


 リョータの呟きにケヴィンが相槌を打つ。


「いえ、山を越えてきたばっかりなのに戻るってのがなんか妙な感じで」

「はははっ、確かにそうだろうな。だが、俺たちもこれから山を越えようかってところでこれだ。しかも、定期馬車を見つけたら引き返すんだぜ?」

「まあ、冒険者稼業なんてそんなモンさ」

「それに、断らなかったんだろ?」

「ええ、まあ」


 ケヴィンたち四人は若く見えたがこれで冒険者として十年以上のベテランだった。今まであまり大きな仕事をしたことが無く、小さな仕事をコツコツ積み上げてきたタイプだそうで、一気に駆け上がってきたリョータとは正反対だ。

 馬車は途中何回かの休憩を挟み、日が暮れる頃に定期馬車もよく利用する野営地で止まった。


「メシだ!メシ!」

「はいはい」


 食事は各自で、となったので、早速ケヴィンたちが火をおこし、馬車の荷物を解いて食材を吟味している。干した物しか無いのに吟味も何もないと思うのだが。


「エリス……ちょっと良いか?」

「はい」

「他の皆の料理、よく見て今後の参考に……いやむしろ、教えてもらいにいこう!」

「ハイ!」


 色々と聞いた結果、街の食堂でスープの素とでも呼べそうな粉末を売っているところもあるという。


「それは盲点だったな」

「ちょっとお高いけど、ほぼ店の味が再現できるわ」

「リョータ、これおいしいです!」

「エリスちゃん、おかわりあるわよ?」

「え……と……」


 何だかんだで互いが作った物を食べ比べる感じになり、モグモグ食べる様子が可愛いとエリスが大人気に。おかわりという単語でエリスがチラ見してくるのでうなずく。


「お願いします!」

「あ、俺も俺も」

「俺も!」

「ちょっとちょっと、順番よ!」


 食事とは楽しくあるべし。




 夜は交代で見張りをするのだが、人数も多いので見張りの時間も短めだった。それにエリスがいれば野ウサギが近づいてきただけでも教えてくれる。




 馬車を走らせること三日目、ブラッドが「そろそろ休憩にしよう」と少し開けた場所に馬車を止めて、皆が降り始めたとき、パタンとエリスの尻尾がリョータの背を叩く。


「……数は?」

「十以上……囲まれてます」

「ん?どうした?」

「ブラッドさん、周囲を囲まれています」

「何?」

「数は十以上」

「人間です」

「……わかった。おい」


 ブラッドが合図し、先に馬車を降りていたケヴィンたち以外がうなずき、それぞれの武器に手をかける。


「おらおら!降りてこい!あと五、六人いるのはわかってんだ。さっさと降りてこい!無駄な抵抗するんじゃねえぞ!」


 頭の悪そうな声が聞こえる。




 仕方が無いので、幌をまくり上げて後ろから降りる。


「武器を置け」

「はいよ」


 ラビットソードを鞘ごと外し、ゆっくりと置く。コレが無くても戦えるから問題無い。ついでに言うとリョータ達以外がこれを手にしても(なまくら)以下だからこれまた問題は無い。


 ゆっくりと周りを見ると、ほぼ等間隔に十四人が馬車を取り囲んでいる。


「よしよし、素直な奴は長生きできるぜ」

「少しだけどな」

「ぎゃはははは」


 ちょいとマズいなと、リョータはどうやって切り抜けるかを考え始めた。

 今まで盗賊の類いを片っ端から無力化してきた電撃魔法「スタンガン」だが、自分の見える範囲しか効果を及ぼせないという欠点というか制限(・・)がある。ただ単に見えないところに影響を及ぼすのが危険すぎるのであえて使えない、使わないようにしているだけなのだが。


 背後は攻撃できない。馬車の陰になって見えない部分も。


「エリス……」


 ぼそっと呟く。この声量なら盗賊には聞こえず、エリスには聞こえているはずだ。


「真後ろを警戒」


 了解したと、尻尾が二度揺れる。


「さてと、そこの二人は良い値で売れそうだな……」

「ふへへ」


 囲んでいるうちの三人が一歩踏み出そうとした瞬間、


「スタンガン」


 バチン、と見える範囲全員を巻き込み、すぐに振り向く。


「スタンガン」


 魔法に巻き込まれなかった残り全員の動きが止まったところで馬車の向こうを覗き込み、


「スタンガン」


 まわりを取り囲んでいた盗賊全員と、馬車に乗ってきた全員(・・・・・・・・・・)を麻痺させたところでホッと一息。


「さてと……」

「じゃ、私はこっちから」

「じゃ、俺はこっちを」


 ロープを取り出すと全員を縛っていく。


「お、お前……何をしやがるん……だ……」


 ブラッドがなんとか体を起こして問いかける。


「まわりを囲んでいたのが盗賊団だというのは確定なんですが、ここまで一緒に来た中にも盗賊の仲間がいるようです。見分けがつかないので全員まとめて捕縛します」

「な……」

「誰が盗賊団なのかを判別するのは衛兵にでも任せますよ」

「俺……たちの中に……盗賊……?」

「信じたくありませんけど、いくつかの怪しいところがありましたからね」

「そうか……」


 ブラッドが口をつぐんだのは、どういう意味だろうか。

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