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  作者: ひじきとコロッケ
ノマルド
61/346

エピナント商会からの依頼

「リョータ、いつものビリビリする奴で倒すの?」

「いや。あれ、欠点があって」

「欠点?」

「水に濡れてると伝わってくるんだよ、あれ」

「え?」


 エリスが途端にキョロキョロし出す。そうだよ、雨のおかげでそこら中濡れてますよ。

 精密にコントロールすれば電撃の範囲も自由自在だと思うが、スタンガン以上の威力でそこまでコントロール出来る自信は無い。特に広範囲に放つとなると細かい制御が難しいんだよ。

 じゃあ、スタンガンにすれば良いかというと、そうも行かない。これまた雨のせいでスタンガンの威力が落ちる。細かい理屈まではわからないが、どうも水に濡れて電気が分散してしまうみたい。そんな馬鹿なとも思うが、今までの実験結果だ。実験の犠牲になったホーンラビットたちに黙祷。


「それじゃ、どうするの?」

「こうする」


 エリスにそっと耳打ちする。ああ……さわり心地の良いケモ耳だなぁ……っと、真面目にやろう。と言うか、耳打ちしなくてもエリスなら聞こえると思うけど、それはそれだ。

 作戦を伝えると、少し離れて立って待つ。




「……来ました。数は……多くてよくわからないけど、十以上」


 十分もしないうちにエリスが告げる。リョータの耳には何も聞こえてないのだが。

 とりあえず、両頬をパチンと叩いて気合いだけ入れておく。負けるつもりは無いが、油断大敵。

 慢心ダメ、絶対。


 身構えるのとほぼ同時に雨に煙る街道に走る馬が見えてきた。盗賊のくせに一人一頭の馬とはなかなか豪華じゃ無いか。

 十数メートル手前で止まり、中央にいた男が二人を指さす。


「ほう。この村に逃げ込んだのは予想していたが、用心棒がいたのか?」

「おいおい、あんな小っこいの、何の役に立つんだ?」

「「「はっはっは!」」」


 盛大に笑われた。うん、そうだよね。リョータはあどけなさがまだ残る子供だし、エリスは知らない人から見ればただの犬耳美少女だ。


「あー、えーと……エピナント商会の馬車を襲ったのはお前らか?」

「あ?ああ、そうだよ。商会の名前はいちいち覚えちゃいないが、確かそんなんだったな」


 先頭にいる、一番偉そうな奴が答える。


「そうか……」

「それを聞いてどうするんだ?」

「まあ……なんだ。全員倒す。あまり殺すつもりは無いが、抵抗するなら容赦しない」

「ふ……がっはっはっは!聞いたかおい、俺たちをたった二人でどうにか出来ると思ってるらしいぞ!」

「ぎゃはははは!」

「おもしれえ冗談だ!」

「ひっひっ、腹が痛え!もしかして、俺たちを笑わせ殺す気か?」


 お前ら笑いすぎ。


「まあ良い。やるってんならこっちも容赦しねえ。行くぜ!」


 一斉にこちらへ馬を進めてくる。が、既に手は打ってある。


「馬に罪は無いからかわいそうだけど……スマン」

「え?」


 いきなり馬が崩れる。と言うか、地面が消える。


 リョータの前に横幅数十メートル、幅十メートル、深さ五メートル程の穴がぽっかりと開き、盗賊たちがまとめて吸い込まれていく。あらかじめ土魔法で表面数センチだけ残してくりぬいておいて、こちらへ進んできたらそのまま落下。何の工夫も無く、盗賊の無力化に成功だ。


「馬はかわいそうだけど、あとで墓を作るから許してくれ……アイスウォーター」


 土がぬかるんでいるので登ってくる心配は無いが、拘束するために零度近くまで冷やした水を大量に流し込む。あまりの冷たさに盗賊たちは悲鳴も上げずに震えている。馬はひっくり返ってしまっていて起き上がれない。多分ほとんどが溺死してしまうだろう。かわいそうだが仕方ないと割り切る。


「くくくくそががが……いいいい一体何ににに者だだだだ」

「うるさい黙れ」

「ひぃっ」


 何か言ってる奴に水を浴びせると、ガチガチ歯を鳴らしながらガタガタ震えて大人しくなった。


「よし、エリス、村の人を呼んできて」

「はい」


 村人が来る前に、もう少し。


「スタンガン!」

「うがっ」

「ぎゃっ」

「スタンガン!」

「がっ」

「うっ」

「スタンガン!」


 よし、大人しくなったな。この状況ならスタンガンでも問題なさそうだな。もう少しコントロールの実験台になってもらおう。罪のないホーンラビットより罪深い盗賊だ。




「呼んできたよ!」

「ありがと」

「えっと、呼ばれてきたけど……ってこの穴は?!」

「魔法で開けました。あとで塞ぎます。アイツらを縛り上げるので手伝って下さい」

「わかった。おい」

「おう」


 ぞろぞろやって来た男たちのためにスロープを作り、盗賊が暴れないか見張りながら一人ずつ縛り、引き上げていくのを見守る。


「お見事、としかいいようがありませんな」

「アンセルムさん、もう大丈夫……かどうかはわかりませんけどね。これが全員なのかどうか聞いてないので」

「そうですな。ですが、人数は我々の馬車を襲った人数ですから大丈夫かと」

「そっか」

「ところで」

「待って」

「はい」

「アイツらを全員縛り上げるまでは油断出来ません。細かい話はそのあとで」

「わかりました。では私に出来ることがあれば何なりと」

「はい」


 アンセルムが一礼して戻っていく。礼儀正しい人だな。




 盗賊を全員縛り上げるのは一時間程かかった。数名が回復して暴れたりしたが片っ端から黙らせたので特に問題にもならず……いや、ぶち込んでおく場所が無いという問題が起こったが、それは村長に丸投げした。そこまで面倒は見られない。




「このたびは本当になんとお礼を言えばいいか」

「いえ、居合わせて良かったです」


 村長が平身低頭。何故かというと……


「しかし、その……この村は大して裕福でも無くて……」


 そう。リョータに支払う謝礼が無いのだ。


「近くの街まで連絡を。いくらかは賞金が出るでしょうからそれでいいですよ。それに縛り上げるのを手伝ってもらいましたし」

「しかし……」


 義理堅いというか何というか。


「んー、それじゃ、雨が上がったらまた旅を続けていくのですが……その間の宿代チャラで」

「そ、そんなことで?」

「良いですよ。あの宿、ベッドも寝心地良いし、メシも美味(うま)いから」

「あ、ありがとうございます!」


 宿の主人も「まかせとけ」と応えてくれた。


 それよりも、だ。


「で、アンセルムさんと……そちらは?」

「この度は大変お世話になりました。申し遅れました。私はエピナント商会長の三女カレンです」


 長い金髪を揺らしながら丁寧な礼をして微笑む美女。こっちの世界の年齢はわかりづらいが多分二十代前半か。旅装と言うことでそれほど派手では無いものの上等な服と適度に飾られた装飾品に、貴族と言われても納得してしまいそうな立ち居振る舞い。ま、エピナント商会自体このノマルドでは最大級の商会らしいから貴族と同等とみても良いのかも知れない。


「リョータです。こっちはエリス」

「よ、よろしくです」

「こちらこそ、よろしくお願いします。早速ですが、仕事の話をさせていただきます。よろしいでしょうか?」

「はい」


 では、とアンセルムから書類を受け取りリョータの前に出す。


「盗賊の討伐に関しては賞金も出るでしょうが、私どもの落ち度でもありますから、正式な依頼としてこちらに。それとこちらは王都までの護衛依頼になります」

「……拝見します」


 内容を確認する。不備は無いし、リョータ達が内容を誤解しそうな曖昧な表現も無い。無いどころか、提示されている報酬額は冒険者ギルドの規定よりもはるかに高い。

 そして一番下に彼女のサインと村長のサイン。これは冒険者ギルドを介する時間的な余裕が無いときに暫定的にとられるやり方で、このまま街まで行って冒険者ギルドに提出すればいきなり完了したとして受理される書式だ。あとは、リョータがサインすればそれで完了という所まで埋められている。


「盗賊の討伐に関してはこれで問題ありません」


 そう言ってサインする。これで万が一にも商会が金を出し渋っても、ギルドがある程度は支払ってくれるだろう。


「では護衛の方は?」

「いくつか質問を」

「はい、どうぞ」

「俺とエリス、二人だけで馬車二台の護衛は少し厳しいです」

「私たちの護衛も二名おります」


 重傷者以外にあと二名いたのか。


「次の街、モンブゾンまで行けば護衛の追加も可能です」

「では、モンブゾンまでの護衛でも良いのでは?」

「これは私個人がそうして欲しいと考えての依頼です。私ども商会の護衛も腕は立ちますが、今回はあえて(・・・)お二人にもお願いしたいのです」

「実を言いますと、俺もエリスも護衛をした経験はありません。ランクに関しては特例が認められて昇格しているようなものなのでCランクと言っても駆け出しも良いところなんですよ」

「それでも実力は充分にあると判断いたしました」

「俺たち、今日初めて会ったんですよ?それを信用すると?」

「冒険者ギルドが特例を認める(・・・・・・)ような人材ならば大丈夫でしょう。それに」

「それに?」

「サンドワーム討伐メンバーの一人と言うことは、王ぞ「ゴホン」


 出来ればあまり大きな声では言わないで欲しいんだけどな……


「商売人というのは耳も早いのですよ?」


 なんて人だ。ちょっと垂れ目気味でおっとりした感じなのに、言葉の端々に鋭い物を感じさせる。商人、侮り難し。

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