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  作者: ひじきとコロッケ
ラウアール
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採取完了

 翌日からは少し速度を落として進む。休息時に不寝番を立てることが出来ないため、疲労をしっかり抜くことを考えての方針だ。だが、それでも帰りに必要な物資をほとんど持たない分、速度はそれなりに速く、その日のうちに十七層に入っていた。

 そしてリョータとエリスも交代で見張りをする。と言っても、魔物があまり来ないような場所を選んでいるので、時間の経過を待つだけだったが。

 この「魔物があまり来ない場所を知っている」というのがベテランがベテランたる所以(ゆえん)とも言える。


 そして、何度かの休息を挟みつつ……


「いよいよ二十二層だ」


 ファビオが、明日から入る、と告げた。

 ちなみにここまでの間、魔物とは何度も遭遇しているが、ほぼ一撃でファビオが倒しており、リョータとエリスは何もしていない。

 さすがに忍びないとも思ったのだが、ファビオが「それでいい」というのでそれに従っている。

 他のメンバーも思うところはあるのかも知れないが、言わないようにしているという感じだったのだが、さすがに限界だったようだ。


「ファビオ、ここで言うことじゃないかも知れないが……今までこの二人は何もしてないぞ?何のために連れてきたんだ?」


 ファビオと共に先頭を進む斥候、ディーンが口を開く。


「……そうだね。ここまでの事だけ見ると、ただ何となく連れてきただけにしか見えないだろうね」


 ダムドとヒルダはリョータとエリスのことを知っているが、斥候のディーンと剣士のゴードンは今回が初顔合わせの上、名前を名乗る以上の自己紹介も特になく、移動や休憩もギリギリで進めていたために、ほとんど話もしていない。

 お互いにどういう人物なのか、どんなことが出来るのか、そういった情報交換が全く出来ていないのだから、不信感を抱くのも無理は無い。


「二人にはこれから活躍してもらおうと思っていたんだ」

「ほう?」

「明日、最初に鉱石採取にかかる。採取後、すぐに薬草採取。両方とも採取が完了したら、最速で地上に戻る。その時、この二人は必ず役に立つ。この方針に変更は無い」

「この二人……信用していいんだな?」

「ああ。期待外れだった場合には、僕は冒険者を引退してもいい」

「わかった」


 何か、話が大きくなってしまった気がする。それに引退したら引退したで、シェリーへの求婚の頻度が増えるだけのような気がする。

 そんなリョータの心配をよそに、ファビオが二人に食事を済ませてすぐに休むように指示を出す。


「ここまで細かい話を全然聞けてないんですが」

「先入観無しの方が、君たちは実力を発揮しそうな気がするんだ」


 ファビオから過大評価されている気がしてならない。




 一眠りした後に荷物をまとめると、二十二層へ。

 二十一層までは大型の熊や狼といった動物型の魔物が多かったのだが、二十二層では……何も襲ってこない。不気味なほどの静けさが不安をあおる。

 ある通路の手前でファビオが立ち止まり、ディーンは一人で通路へ。ダムドが背負っていた荷物を下ろし、色々と道具を取り出す。


「いつも通りだぜ」


 奥の様子を探ってきたディーンが小声で報告するのに、ファビオが頷く。


「二人とも、声を出さないように、静かに着いてきて」


 そう言って、やや狭い通路を進んでいく。言われるままに着いていくと十メートルほどで広い空間に出た。が、すぐに高さ五メートルほどの崖になっており、下にはリザードマンが数匹うろついていた。

 そして、地面には数カ所、赤い水晶のような結晶が露出しているのが見える。

 そっとその様子を確認したところで、ファビオに促され皆の元へ戻る。


「さて、ちゃんと見えたかい?」

「ええ」

「トカゲが歩いてました」


 うんうん、とファビオが頷く。


「あの赤いのが目的の鉱石ですか?」

「そうだ」

「そして……リザードマン」

「ああ。暗くてよく見えなかったと思うけど奥に穴が続いていて、その先に巣がある」

「え?」

「軽く五十以上いるぞ」

「そんなに?」


 リザードマンは身長一メートル程と小柄だが、その皮膚は硬く、倒すにはそこそこ手間取るらしい。そんなリザードマンの巣の真ん前でツルハシなんかでカンカンやったら……


「まあ、巣からぞろぞろやって来るね」

「えーと……それをなんとかしろ、と?」

「巣から出てきたリザードマンは僕がなんとかする。むしろ、ここでは上り下りが危険なんだ。だから上り下りの前にリザードマンを無力化して欲しいんだ」

「なるほど……アレ(・・)ですか」

「そう、アレ(・・)だよ」


 リザードマンは素材として使える部分はほとんど無い。多少はあるのだが、普通にトカゲを狩った方が狩りやすいし、量も多い。無駄に命を奪う必要も無いというわけで、リョータの魔法は最適と判断したのだ。

 そこへダムドとディーンが道具を抱えて来た。


「準備は出来たぞ」

「よし、やろう」


 音を立てないようにそっと進み、下の様子を伺い、ファビオが合図を出すのに合わせてイメージを固める。


「電撃!」


 瞬時にリザードマンたちの周囲がバリッと光り、声も上げずにリザードマンたちがバタバタと倒れていく。


「よし、行くぞ」


 ファビオとディーンが崖をザザッと滑り降りていく。リョータとエリスもその後を追いかける。先に降りた二人は巣へ続く穴の前で警戒を開始。そして、ダムドがゴードンの持つロープでゆっくりと下に降りてくる。


「よし、始めるぞ」

「ああ」


 と、ツルハシを振り上げたところで、


「ちょっと待って下さい」

「なんじゃい?」

「音でリザードマンが来ちゃうんですよね?」

「ああ」

「なら……音を防ぎます」


 穴全体を塞ぐように空気を固めた壁をつくる。空気の動きを止める、いわば遮音結界だ。


「これで」

「わかった」


 カンッカンッとツルハシが振り下ろされる。エリスもその横でツルハシを振るい始める。


「へえ……」


 いつもならすぐにリザードマンが寄ってくるのだが、その様子が無いことにファビオが感心する。


「すごいもんだな」

「いえ。それほどでも」

「……これなら……ディーン、リョータ、二人も鉱石掘りの手伝いを。見張りは僕一人で十分だ」




 ダムド一人でやるよりも四人でやった方が作業が早い。予想以上に早く掘り出し終えた鉱石を袋に収めると、ゴードンがそれを引き上げていく。そのすぐ下で袋が落ちないようにディーンが支えながら登っていく。


「よし、どんどん上がってくれ。リョータ、これはあとどのくらい持つ?」

「んー、あと二、三分ですかね」

「よし、急いで」

「わかりました。そうだ、エリス」

「はい」

「ダムドさんを抱えて上に上がれる?」

「出来ますよ」

「頼む」


 タタッと駆けていき、ダムドを背負うと軽く助走した後にほぼ垂直の崖をトトトッと駆け上がっていく。


「すごい身体能力だね」

「そうですね」


 上でダムドを降ろすとすぐに飛び降りてきた。これで下にいるのはファビオとリョータ、エリスだけだ。


「行きましょう」

「え?」


 エリスがお姫様抱っこでリョータを抱え上げると崖に向かって走り出す。


「えええええ?!」


 崖の手前でグンッとしゃがみ込み、ダンッと飛び上がる。


「うひゃあああ!」


 浮遊感は一瞬で、あっという間に崖の上に着地した。


「エリス……すごいな」

「えへへ。がんばりました!」


 降ろしてもらうとすぐにファビオも上がってきた。


「よし、行くぞ」


 通路を抜けて、外を警戒していたヒルダと合流。鉱石をしっかり布で包んで袋に詰めると歩き始める。


「次は薬草だ」

「この時期ならこっちだな」


 ディーンの先導でどんどん進んでいくと一時間程で突き当たりに。その地面に小さな草が生えている。


「よし、これなら大丈夫だな」

「採取する」


 ディーンが熊手を取り出して草の根元を掘り始める。


「あの、ファビオさん。質問が」

「ん?」

「あの薬草、やっぱり鮮度が大事ですか?」

「そうだね。出来るだけ新鮮な方がいいから、ここから戻るのも全力だよ」

「そうですか……それじゃ、これを」


 小さな袋を手渡す。


「詳しくは話せませんが……鮮度を保持出来る魔法の袋です」

「助かる」


 ファビオは「これに入れてくれ」とディーンに渡すと、荷物の整理をしているヒルダとダムドの所へ向かう。ゴードンは引き続き周囲の警戒をしている。


「よし、コレだけあれば十分だ」

「どれどれ……うん、そうだね」


 袋を受け取ったファビオが中を確認し、ヒルダに渡す。


「さて、リョータ、エリス」

「何でしょうか?」

「ここからが大変だぞ」


 ファビオがニヤリと笑った。

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