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  作者: ひじきとコロッケ
ラウアール
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作戦開始

 リョータは三人がダンジョンに入っていくのを見送ると、早速準備に取りかかる。

 ホーンラビットを数羽狩り、血を集めて薬草と混ぜて、入り口から離れたところまで導火線のようにまいていく。これで、離れた位置からダンジョンの入り口までリョータの魔力を伝えることが出来る。

 次にダンジョン入り口の地面を少し掘ると、呪いの魔剣を取り出してそっと立てる。

 柄の部分を地面に埋めて、刃の向きを調整し、固定。

 離れた位置からホーンラビットの血に魔力を流してやると、僅かに刀身が光るのが見えた。これで、ここから出てきたサンドワームを斬ってやろうという算段だ。

 まあ、聞いてる限りではかなりの巨体のようだからこんな短い剣で斬ってもたいしたことは無さそうだが。


 準備が出来た頃にファビオもやってきた。


「お、何か面白そうな仕掛けじゃん」

「気休め程度かも知れませんけどね」

「フフ。でもああいうでかい魔物相手にはそういう少しずつの積み重ねが大事なんだよ」


 そう言えば、ドラゴンと戦った時もリョータ自身はとどめを刺したわけではない。だが、とどめを刺せるように色々と手を尽くし、ダメージを積み重ねていったのは確かだ。


「ところで、ファビオさんはどうやって戦うんですか?」


 見たところ、ギルドで会った時と変わらない格好。

 さすがにここまで手ぶらで来るわけではないので、背中にバッグを背負っているが、その中に秘密兵器のような物があるとは思えない。


「僕の武器はこれさ」


 ファビオは腰の剣を抜くと、明後日の方向を向き「フン!」と気合いと共に振り下ろす。ズドン!という、剣ではあり得ない音と共に、地面が数メートルえぐられた。いや、切り裂かれたと言うべきか。


「とあるダンジョンで手に入れた魔剣。僕の魔力で最大二十メートル先まで届き、あらゆる物を切り裂く魔剣だよ」

「うわあ……」


 これが、この世界のダンジョンで生み出される魔剣か。


「まあ、あらゆる物を切り裂くってのはさすがに言い過ぎだけどね」


 そりゃそうだ。そんなのはあの呪いの魔剣だけで充分だ。


 出来れば、この討伐作戦のどさくさで折れてくれると処分の手間が省けるんだが。




「よし、俺らはここまでだ」


 湖までの道の最後の分岐路でダムドが告げる。


「あとはこのまま真っ直ぐ。どうだ?行けそうか?」

「はい。大丈夫です」


 ドラゴンの血の入った瓶を確認。大丈夫。

 靴を確認。大丈夫

 鉢巻きの要領で(くく)り付けた魔法の明かり――もちろんリョータが作った――を確認。大丈夫。


「じゃあ、頑張って」

「はい、行ってきます」


 二人と別れて歩き始める。

 数歩進んでドラゴンの血を一滴垂らす。数歩進んで垂らす。これをここまで繰り返してきた通りに続けていく。


 少しずつ歩みを進め、四本持ってきていた瓶の二本目が空になる頃、到着。



 改めて中を見るが、真っ暗で何も見えない。泥の臭いはだいぶ薄くなっているが、前回と変わらない、何もない空間だ。


「さて」


 瓶を一本開けて、地面に置き、中の血が壁に沿って流れるようにする。

 そしてもう一本を軽く放り投げる。ついでにここまでの間に空っぽになった瓶も。

 数秒待つと、瓶の割れた音が聞こえた。

 これで、サンドワームがドラゴンの血に釣られて出てくるはず、というのがリョータの作戦。他に使えそうな方法も無いので、即採用された、雑な割にうまくいきそうな予感のする作戦だ。

 うまく釣れることを祈りつつ、早めに元来た道を引き返そうとした時、その音が聞こえた。

 遥か下の方から巨大な何かが、ダンジョン通路の壁である岩石を掘り進む音が。


「こんなに早いの?!」


 慌てて走り出す。

 ドラゴンの血に含まれる魔力は濃厚で、サンドワームはすぐに嗅ぎつけるだろうと予想していたが、まさか瓶を投げ入れてすぐに来るとは。

 額に付けた明かりの魔道具をポンポンと叩き、光を強くして視界を確保すると全力で走り出す。

 通路にポツポツと垂らしたドラゴンの血の臭いを辿りながら、外へ。




「途中の分岐路に入るのはダメだよ」

「どうしてですか?」

「サンドワームが通った時に天井が崩れたりするかも知れない。元の通路に戻れなくなったら、ダンジョンから出られなくなるからね」


 確かに、完全にダムドの案内で歩いているだけでは、どこがどう繋がっているのかさっぱりわからない。元の道に戻れなかったら永遠に迷う羽目になるかも知れない。


「わかりました」

「大変だけど、エリスなら大丈夫だから」

「はい」




 リョータのアドバイスは的確で、わかりやすいが、今は分岐路に逃げ込む選択が出来ないというのがかなりキツい。

 すぐ後ろから轟音と共にサンドワームが追ってくるのが振り返らなくても音でわかる。エリスの全力疾走に負けず劣らずの速度。少しでも気を緩めたら追いつかれて、多分食べられてしまう。何度も分岐路に飛び込みたくなるのを我慢して走り続ける。




「もしも追いかけられることになったとしても、エリスなら逃げ切れる。大丈夫」




 リョータはそう言っていた。だから大丈夫。

 何かに躓いて転んだりしなければ、追いつかれたりしない。外へ逃げ切れる。そう信じている。

 それに……外でリョータが待っている。




「うおっ!こりゃすごいな」

「うん、間違いない。アレだよ、私たちが遭遇したのは」

「逃げ切れることを祈るしかないなあ……っと、天井が崩れそうだ。離れよう」

「わかった」


 ダムドとヒルダも落盤を避けるべく、ダンジョン内を逃げる。

 どこをどう行けば外に出られるかを把握している分、追われながら逃げるしかないエリスよりはいくらかマシである。


「うまく逃げ切ってくれよ」


 ダムドの祈りは轟音にかき消されていった。




「ん?地面が……揺れてる?」

「……揺れてますね」


 ファビオとリョータもその揺れに気づくほど、サンドワームは巨大で、その運動エネルギーは想像を絶する規模のようだ。


「エリス……」

「心配かい?」

「ええ」

「でも、信じて待とう」

「信じてます。絶対に戻ってくると」

「……でも、入り口真正面にいるのはさすがに止めておこうか」

「そうですね」


 さすがにサンドワームの直撃はぞっとしない。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 呼吸は荒くなってきたが、エリスの速度は落ちない。

 まだ行ける。大丈夫と言い聞かせ走り続ける。

 実際の時間はほんの数分だが、ずいぶん長く走ったような気がしてきた頃、外の光が見えてきた。


「あと少しっ」


 あそこまで行けばリョータが待っている。リョータのところまで後ろのこいつを連れて行けば、あとはきっと何とかしてくれる。そう思ったら、もう少しだけ加速出来た。


 あと僅か。


 出口中央に剣が突き立てられているのが見える。魔力を通すと、しゃれにならないくらい何でもスパスパ切ってしまうあの魔剣だ。

 アレがあると言うことはリョータが準備万端で待っていると言うこと。リョータはエリスを信じて待っている。エリスはリョータが大丈夫といった言葉を信じて走ってきた。


 あと少し。



 外へ飛び出す瞬間、エリスは壁に向かって跳び、壁を蹴って外へ飛び出した。正確にリョータのいる方向へ。

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