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  作者: ひじきとコロッケ
ヴァルツ
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荷車の魔改造

「ユーフィ・ステープルさん」

「フルネームを覚えていただけているのはとてもうれしいですが、そんな他人行儀なんて。気軽にユーフィ、もしくはユーちゃんと呼んで」

「無理です」

「そんなあ」

「呼び方は横に置いといて、とりあえず黒炎蛇討伐に協力いただけるってことでいいんですよね?」

「もちろん。そのあとの人生をともに歩む伴侶としても「それはお断りします」

「ぶう」


 いい歳した大人が「ぶう」はないだろうと思いつつも、リョータは続ける。


「今から、俺たちの秘密をお教えします。絶対に他言しないと誓ってください」

「二人だけの秘密じゃないのね……」

「エリスとポーレットも他人には漏らしてませんので」


 ユーフィは瞬時に考えた。

 エリスは……どうやら訳あり。リョータ自身が冒険者ギルドの支部長どころか各国のギルドマスターレベルにも内容が知らされない、特殊な依頼を受けて動いているらしく、その関連で同行しているというくらいしか知らされていない。依頼内容が気になるところだが、逆に言うとそれだけのこと。

 もしかしたら依頼者がエリスかもしれないが、そうだとしても二人の関係はいわゆるビジネスライクなものだと思う。

 そしてポーレットに関してはもっとシンプルだ。詳細は調べていないが、借金奴隷。それもかなりの額で、かなり大きな――それこそ国で一番大きいと呼ばれるくらいの――商会をまるごと買い上げられるくらいの金額らしい。ポーレットが何をどうしてそんな借金を背負っているのかは気になるが、それよりもそんな額をポンと貸し出せるリョータの財力のすごさだろう。

 さすが私の夫だと感心するよりほかない。

 ということで、この二人がユーフィとリョータの関係に口を出さないはずで、秘密を知っていると言ってもそれは旅をしていく上で知っていた方が都合がいいからという程度。秘密を共有し合える間柄というよりも共有した方が便利という実利をとっただけのものと、愛するユーフィに打ち明けるのとでは、秘密を打ち明ける意味合いも重さも違う。

 ということで、こう答えた。


「もう、仕方ないですね。本当は二人だけの秘密なのに……」


 リョータは思った。何をどうしたらそんな台詞がでるんだろうかと。そして、ユーフィがどう考えたのか推測し、なんとなく納得した。その推測が正しいか問いただす勇気は無い。あっていればあっていたで「やはり私たちの心は通じ合っているんですね」となるし、間違っていたら間違っていたで「もう本当はわかってるんでしょ?」となるだろう。つまりロクなことにならないので、そのままとしておく。触らぬ神になんとやら、だ。ユーフィが神かって?神だろう。疫病神に分類されるタイプの。そして、こういう相手にこう言えばだいたい大丈夫という台詞はあるんだよな。


「秘密を守れないなら僕たちの関係はここで終わ「守りますわっ!」


 関係も何も、通りすがった街の冒険者ギルドの支部長と冒険者というだけ。それ以上は何もない。それ以下?うーん、通りすがっただけであの街には行かない、という感じなら自然消滅とかがあるのだろうか?


「まあいいや、こっちへ」


 ガラガラと荷車を引っ張りながら転移魔方陣の方へ向かう。

 引っ張っているエリスと乗せているユーフィの様子から見ると、どうやら本当に揺れが車輪に巻いてある樹脂と車軸のバネっぽい構造で吸収できているらしく、ガタガタ揺れたりしていない。

 そして転移魔方陣の上で荷車を止める。


「では……転移」




「な、何ですのここは!!」


 工房前に転移した瞬間、ユーフィが叫んで荷車から飛び降りた。

 同時にいやな予感がして飛び退いて正解だったと思う。

 ユーフィは誰もいないところに飛びつこうとして空振りし、自分で自分を抱きしめるような姿勢でそのままポーレットに頭らから突っ込んでいった。


「ぐえっ!」

「おぶっ!」


 ポーレットはみぞおちに頭突きをまともに食らって悶絶。ユーフィはそのまま地面に突っ込んでいった結果、地面――ちょびっと尖った岩盤――に額を打ち付けて悶絶。

 二人ともしばらく復活しないだろうから放置すると決め、エリスとともにさっさと作業にかかることにする。

 まずは解体からだ。

 少なくとも荷車を引っ張る棒は必要なくなるので釘抜きを使いながら外していく。そのあとは車輪を外す。この世界の馬車や荷車の車輪は独特な金具ではめ殺しになっているので外すのは少し苦労する。

 はめ殺しになっていると言っても、金具の方が再利用できなくなるだけなので、慎重に作業すれば、車輪も車軸も傷つけることなく、また使えるようになる。地球で言えばリベットのようなものと言えばわかりやすいだろうか。

 そうして車輪を四つ外す頃にはポーレットも復活して作業の手伝いに入っていて、頭から地面に突っ込んだユーフィもなんとか起き出してきた。


「あの、ここは一体どこですか?」

「ええと、話すと長くなるのですが」

「ふむ……私たちの愛の巣ですね」

「違います」


 おかしいな。エリスの周囲の気温が下がった気がする。気のせいだよな?


「むう……って、海?海がすぐそばに?」

「ええ」

「しかも海がこちらの方角……え?ちょっと待って?ここってもしかして大陸西部、ですか?」

「当たりです」

「大陸西部……え、嘘でしょ?だってさっきまで……えええええ!」


 見えている海が本物かどうか確かめに走って行ってしまった。崖から落ちないように気をつけて欲しいとごく普通に思うのと同時に、崖から落ちてもらった方が色々片付きそうだと思う自分がいる。これからの人生を考えるとどっちが正解なんだろうね?

 そんなことを考えてるうちに荷車の解体は完了した。ここからは魔方陣を車体と車輪、車軸に描いていく作業だ。


「まず車体は……この辺に座るから、この辺?」

「もうちょっと中央に寄せた方がよくない?」

「この辺?どうかな?」


 交代で運転席になるのはどこがいいか話し合いって椅子を固定すると、つかまりやすい場所に取っ手をつけ、そこへ向けて魔方陣の線を延ばしていく。魔方陣の本体は椅子の下に描き、荷物の邪魔にもならないようにしてさらに車軸の方へ線を延ばしていく。軸受けまで伸ばしたところで車軸の加工にかかる。この世界の荷車で想定しうる最高速よりも速く走らせるためには車軸の強度も重要。それもただ堅くすればいいというわけではない。ある程度曲がる柔軟性もないといきなりポキッと折れてしまう。もっとも、車軸の素材自体が何かの魔物の骨をベースにしているので、その辺りの強靱さは大丈夫だろう。ただ、軸受けとの間の摩擦をへらしつつ、摩耗しにくいようにいろいろな素材をこねて作った塗料を塗って補強しつつ、車輪へと魔方陣の線を延ばしていく。車輪の魔方陣はとにかくシンプルに仕上げる。運転手の意志に従って回る、止まるができれば良い。だが、単純だからこそ難しいのは、ぱっと見で魔方陣が描かれていると気づかれないようにする加工。できるだけ人目につかないように気をつけるつもりではあるが、それでもどこで誰が見ているかわかったものではない。止まっているときに、


「おや、この車輪の模様は何ですか?」


 なんて聞かれたりしたら面倒だからな。

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