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  作者: ひじきとコロッケ
ルガラン
322/348

姫様の護衛騎士はブラック職場です

「一通りの捜索を終え、三十近くの死体を確認。生き残っていたのは二名だけでした」

「二名だけですか」


 相手はなかなかの実力者だったのか、それとも三十という盗賊をさらに上回る人数だったのか。


「死因は戦闘によるものではなく、この辺りを縄張りにしているらしい狼の群れに襲われたようです」

「狼の群れ?」

「はい。生き残っていた者の一人からなんとか聞き出せたのですが、なんでも男女三人組を襲おうとしたらいきなりからだがしびれて動けなくなったと」

「はあ……」

「三人はそのまま先へ進み、倒れたまま日が沈み、夜闇に紛れて狼が襲ってきたと。生き残っていたのは本当に偶然、運良く生き残ったという程度のようです」

「待ってくれ、ということは死体は」

「見ない方がいいです。女性にはかなりキツいでしょうから……ある程度慣れている我々でもかなりキツいです」

「な、なるほど」


 狼に襲われたということは食い殺されたということ。もしかしたら人数も足りないかも知れない。


「明日の夜明けと共に我々は聞き出したアジトへ向かいます。残っているのは僅かなようですが、潰せるときに潰しておかないとマズいですからな」


 騎士隊長が引き上げていった後、ヴェネットは思わず呟いた。


「間違いありません。リョータ様たちです」

「え?」

「まずは男女三人という人数」

「しかし、ドラゴン殺しの異名を持つ者たちですぞ。盗賊だって狙う相手は選ぶでしょう」

「ルガランまでその名は聞こえていないでしょうから、見た目で侮ったのでしょう」

「なるほど」

「それに体がしびれて動かなくなったというのも、いくつかの報告の中にありました」

「そう言えば、不思議な魔法を使うとか」

「ええ。さて……明日からまた頑張りましょう!」

「え?」

「一日も早くリョータ様たちに追いつかないと!」


 なお、現時点で五~六日程度の遅れになっている上、どんどん開いていることを指摘できる者はここにはいない。




「次」

「はい。これを」

「冒険者……名前はリョータ。それと……エリス、ポーレットか」

「はい」

「ええと……ちょっと待てよ……うん、問題な……ああ、ちょっと待て」

「え?」

「ちょっとそこで待っていてくれ」

「はあ……」


 いつものように街道を少しそれたところに転移魔方陣を設置してから街に入るための行列に並び、衛兵のチェックを受ける。いつもと変わらない流れを経ていよいよ王都へ入ろうと、入り口の衛兵に冒険者証を見せたら「待て」と言われた。


「何かしたっけ?」

「いえ、何もしてませんね」

ごく普通(・・・・)に旅をしてきただけですよね」


 少々盗賊を懲らしめた程度は俺たち三人にとって普通(・・)の範囲内ですね、わかります。なんてことを考えていたら、なかなかの早さで馬車が走り込んできて急停止。馬の足が心配だなと思っていたら中から冒険者ギルドの制服を着た職員が数名飛び降りてきた。そして先頭を走ってきた女性がリョータの前までやってきた。


「リョータさんですね!」

「違います……って言いたいけど、はい」

「冗談はいいので。どうぞこちらへ」

「ええ……俺たち、何かマズいことありましたっけ?」

「いえ何も。ただ、色々とお話し(・・・)したいことがあります」


 この流れ、マズくない?

 逃げるわけにもいかず、そのまま馬車へ。そして馬車は冒険者ギルド本部の裏手に到着し、そのままギルドマスターの部屋へ。


「改めまして冒険者ギルドのタリアと申します。以後お見知りおきを」

「ご丁寧にどうも」

「生憎、ギルドマスターが出かけておりまして」

「そうですか」


 なら、なんでここに通した?


「小一時間ほどで戻りますので、それまでにこちらの説明を」

「ん?」


 渡されたのは十枚程度の紙束。同じものが手元にあるらしく、ギルド職員も手元の紙を見ながら勝手に話を始めた。


「まず、毎年氾濫するトアイト川。現時点で、氾濫時期は例年通りとの見込みです」

「へえ」

「ですが、おそらく知られていなかっただろう事実を」

「え?何かあんの?」

「はい。おそらく皆さんが到着するのは氾濫が始まる十から十五日ほど前かと思われます」

「んー、まあ、そのくらいになるのか?」

「まあ、経験則ですね。で、ここからがこの件の本題です」


「黒炎蛇に関する情報です」


 ペラとめくっていくといくつかの街の名前と日付、魔の森のどのあたりの位置なのかが記されている。正直なところ、こんなにたくさんあるとは思っていなかったので少し戸惑う。滅多に見つからない魔物じゃなかったっけ?


「これらはすべて冒険者ギルドに寄せられた目撃情報です。とりあえず直近三年程度の情報をかき集めたとのことです」

「なるほど……」


 地名だけではどの辺なのかさっぱりというのが欠点か。だが、たった三年でざっと五十近い目撃情報というのはかなり多い。そして、それだけの目撃情報がありながら討伐情報が見当たらないというのはとにかくヤバい魔物ということの裏付けか。


「ええと……感心されているところ申し訳ないのですが、我々、すなわちルガランの冒険者ギルドとしてはすべてガセだと考えています」

「ガセ……つまり、全部嘘?」

「はい。冒険者から寄せられた情報を捨てるということは出来ませんので記録されていて、それが寄せられているのですが、正直なところまともな情報は一つもない、というのがギルドマスターの考えです」


 何かを黒炎蛇と見間違えたが、報告した冒険者自身は見間違えたと思っていないから、嘘をついているわけではないとか、そういう感じか?


「そのあたりの理由についてはギルドマスターが戻り次第説明するから待つように、と」

「わかりました……で、小一時間で戻る」

「はい」

「その間に宿を探してもいいです?」

「いえいえ、ちょっとお待ちください!」


 こんなところで待っていてもと立ち上がろうとしたらタリアさんに引き留められた。かなり慌てて、強引に。


「いや、あの」

「ここで帰られたりしたら困るんです」

「へ?」

「その……えっと、ほら、宿を探しに行ってる間にギルドマスターが戻ってきたりしたら!」

「いや、すぐに俺たちも戻ってくるし」

「ここは仮にもルガランの王都。宿はなかなか見つけられないと思います。えっと、そう、私たちが」

「私たち?」

「はい。私たちが探しておきますので、ここでどうぞごゆっくり」

「ええ……」


 なんでこんなに食い下がられるの?


「大丈夫です。私たちの口利きがあれば、かなり上等な部屋を格安で、ということも可能ですし」


 職権濫用?いや、権力の横暴か?


「それに皆さん、王都の地理には詳しくないでしょう?私どもは長年王都で暮らしておりますし、冒険者からの評判も聞いております。確実ですよ?」


 いや、宿の当たり外れも旅の醍醐味なんだよな。どうやれば断れるんだろうかと三人は頭を悩ませ始めていた。




 数日時は遡り、ルガラン最北端の街ダラムにようやくヴェネットたちが到着した。護衛を始めとする面々は、残念ながら帰るという選択をしそうにない主にある意味感心しながらこの先へ進むための準備に取りかかり始めていた。


「少々ごちゃごちゃした街ですわね」

「ええ。おそらく王都もこんな感じかと思います。見るところはありませんわ」

「あら、私は観光に来たのではなくてよ?」


 それとない誘導もことごとく失敗している時点で、エルヴィナはヴェネットの覚悟は相当なものであると判断し、次はどうしようかと策を巡らせ始めた。


「ちょっと止めて」

「はっ」

「今、そっちの方で、リョータという声が聞こえました」

「「「は?」」」

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