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  作者: ひじきとコロッケ
ルガラン
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護衛の依頼(依頼人が行商人とは言っていない)

「せめて護衛をして欲しいって話を持ちかけてくれればこんなことはしなかったんですけどね」

「だな」


 意図的なのか偶然なのか、そういう流れで護衛を頼まれるというのは何度も経験があるという。

 そしてポーレットのみならず、俺とエリスの目からもヘルベルは悪人ではない。どうにか護衛費用を浮かせられたらラッキー、という程度の考えで動いているケチな行商人。

 せめてこの経験を活かして、今後はキチンと護衛を雇うように更生して欲しい。年齢的に更生は厳しいかな?まあ、いいや。


「さて、ちょっと急ぐぞ」

「「はい」」


 ここからしばらく勾配が急になるので、馬車はあまり速度が出せなくなる。一方、歩いている場合、地面の凹凸が足を引っかけるにちょうど良くなるので、意外に歩きやすく、速度を出しやすい。少し頑張れば、ヘルベルが急いで追いかけてきても追いつかれないくらいに引き離せるだろう。




「……ちょっと?全然進んでないみたいなんだけど?」

「姫様、実は……坂が結構急でして、馬が進めないんです」

「そう」


 ヴェネットの不満げな声に、内心「よし!これで諦めるはず!」とガッツポーズをしながら隊長が答える。いや、実際にガッツポーズをしてしまっているが、幸いなことに小窓越しの会話であるため、ガッツポーズは見えていない。


「つまり、馬車が重いのね?」

「え?あ、はい。そういうことに……なります」

「そっか。まあ、仕方ないわね」


 少々荒れた道でも問題なく走れるような頑丈な馬車は一台しか用意できなかった。だから荷物は全部その一台にまとめるしかなかった。結果、馬車の重量は増え、二頭立てになったとしてもちょっとした段差に引っかかると止まってしまう。


「この先も道はこのようになっていまして」

「そう。なら仕方ないわね……諦めて帰りましょう」

「はっ」


 実にわかりやすい未来を予想していた彼らに対し、ヴェネットが下した決断は、


「エルヴィナ、降りましょう」

「え?は、はあ……」


 ヴェネットがエルヴィナを伴って馬車を降りる。常にエルヴィナが携えているバッグと共に。そして、二名だけ同行している女性騎士の馬に同乗する。


「これで行けるでしょう?」


 その場にいる全員が「ええ……」となり、馬車を引いている馬も「これ、どうします?」と御者をしている騎士をチラリと見る。


「どうしたの?ずいぶん軽くなったと思いますが?」

「そ、そうですな」


 体格的にはほぼ大人の女性が二人に、いろいろな荷物を詰め込んだ結構な重量のバッグ。全部合わせれば百キロほどになるだろう。それだけの重さがなくなれば、少々の段差も越えられるでしょう、という理屈を前に「無理です」とバッサリ言えるような者はここにはいなかった。


「ぜ、全員周囲の警戒を厳に。進むぞ」

「「「はっ!」」」

「ヒヒン」


 全員――馬も――声だけは威勢よく、それでいて表情は暗く返事をすると、ゆっくりと歩き出した。

 女性騎士の前で鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌なヴェネットを見ながら、隊長は考える。どうやって引き返す口実を作ろうかと。




「ふう……疲れたな」

「はい」

「きゅう……」


 全く疲れた様子のないエリス、少々疲れた感のあるリョータ。

 完全に潰れたポーレット。

 もともと体力のあるエリスと、それなりに鍛えられつつあるリョータ。

 ポーレットが潰れているのは仕方ない。やや小走り気味に一日中進むというのは通常のポーターのキャパシティを越えているからであり、決してポーレットの体力が無いからでは無い。

 そもそも、通常なら二日かけて到着する村に一日で到着しているのだから、仕方ないのである。そう自分を正当化させつつポーレットはなんとかベッドに倒れ込んでいた姿勢から起き上がる。


「大丈夫か?」

「なんとか……はい」

「じゃ、行くか」


 三人は連れだって、この村にある共同浴場へ向かう。正確に言うと村の温泉だ。


「じゃ、後で」

「はーい」


 このあたりは温泉がでる、とあらかじめ聞いておいたので、少々無理をしても汗を流し、温まって疲れも癒やせると見込んで無理をしたのである。


「ふう」


 屋根のない開放的な露天風呂につかりながら夜空を見上げる。なお、言うまでも無く男女別であり、時間帯で入れ替えるような仕組みもないし、男女の浴槽は結構離れているので、いきなり壁が壊れるとか話し声が聞こえるとかいったありがちなイベントも起こらない。もっとも、こちらの声はエリスには筒抜けだろうが。

 なお、村人たちには毎日入浴するような習慣は無く、男女ともに二、三人しか入っていないので、エリスが奴隷紋を隠して入るのも容易であることは事前に確認済みである。


「なあなあ、兄ちゃん」

「んあ?」

「おいら、バイベルってんだ。兄ちゃんは?」

「……リョータ」

「なあなあ、兄ちゃんって、冒険者なのか?」

「そうだよ」

「やった!」

「?」


 七、八歳くらいの村の子供はリョータが冒険者だと確認すると、「父ちゃん!父ちゃん!」と大はしゃぎで飛び出していった。そのまま(・・・・)家まで走って行ったりしないか、ちょっと心配になるレベルで。


「なんかわからんけど……出るか」


 そう呟いて湯を一度ザバッとかぶって出る。そして予想通り、その音を聞いていたエリスはタイミングをきちんと合わせて外で待っていた。


「いいお湯でしたね」

「そうだな」

「はひ……」


 ポーレットは少々のぼせたようで、ふらふらしている。


「大丈夫か?」

「夜風が気持ちいいです」

「そうか」


 少し涼みながら、謎の子供のテンションについて伝えておく。聞いてたと思うけど。




「失礼、皆さんは冒険者でしょうか?」

「ん?はい。何でしょうか?」


 宿に戻り夕食を摂っていたところに先ほどの子供バイベルと、その父親らしき男性が連れ立ってやってきた。


「実はお願いがありまして」

「はあ……」

「あ、も、もちろん正式な依頼として手続きします」


 なら内容次第ではいいか?


「お願いというのは……私たち親子を王都まで連れて行ってほしいのです」

「王都まで?」

「はい」

「実は「ストップ」

「は、はい」

「王都に行きたい事情とか、特に知らなくてもいいですよ」

「そうなんですか?」

「ええ」


 ありがちな話として、この事情という奴が結構重たい系、というのがある。家を飛び出していった妻や息子が王都にいるとか、病気の家族のために薬を買いに行く、とか。そうやって同情を買って護衛の費用を押さえよう、という……という話をついさっきまでポーレットが話していたので、二人を王都まで連れて行く、以上の情報は不要だ。


「出発は明日の朝でいいですか?」

「はい。大丈夫です」

「道中の食事とか宿代も大丈夫ですか?」

「はい」

「では……ポーレット」

「はいな。では早速。今回の護衛の依頼料ですが……」


 ギルドを介さずに依頼を受ける場合の依頼料は自由に交渉できる。

 さらに言うなら、ギルドを介した場合、依頼する者が冒険者ギルドに支払った額から一定の額が差し引かれた分が冒険者に支払われる。

 それが直接交渉の場合、冒険者の取り分は百%になるので、引き受ける冒険者は収入が増えるし、依頼する側もギルドの取り分をある程度差し引いた額にできるので支出を抑えられる。

 Win-Winの関係ではあるが、冒険者ギルドが一定額差し引くのは両者に対して諸々の補償をするためであって、ただ単に中抜きしているというわけでは無い。

 リョータはその辺の事を良く理解しているし、ポーレットも面倒なことが起きた場合に冒険者ギルドが仲介してくれることのありがたさは知っているので、こうしたところで依頼を引き受ける場合にも少しだけ気を遣った対応をすることにしている。

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