賞金はいりません
それどころか、「護衛らしい冒険者がいるけど子供っぽい、つまり経験の浅そうな三人組しかいない狙いやすそうなカモ」と認識されたらしい。これで襲いかかってこられたら、面倒事が積まれていくだけ。つまりヘルベルがこの先もついてくるだろうという面倒事に加え、盗賊を捕まえ、あるいは討伐したという報告をして、という時間と労力が見合わない面倒事だ。
普通の冒険者であれば盗賊の討伐は賞金ももらえるし、ランクアップの評価にも繋がるおいしい仕事。それはリョータたちも同じであるが、現在は先を急ぐ旅路の途中。
人数的に捕まえて縛り上げるだけでも日が暮れる。もちろん、全員斬り捨ててもいいが、首領格の首くらいは持っていかなければならず、「だれ……いや、どれがボスだ?」と確認する手間がかかる。
さらに街に着いたら着いたで細かい報告をして、となるとさらに時間がとられていく。
普段ならいくらでも相手をしていいが、今はダメだ。この先、天候などの事情で遅れる可能性は高い。と言うか、絶対に雨やらなんやらで足止めを食うことがあるはずだ。
天候などの避けられない事情は仕方ないとしても、こういう避けられるものは極力避けていきたいのである。
ということで今回は、一番後始末の手がかからない方法を選択する。
「エリス、いい?」
「はい」
エリスのそばに立ち、詳細な場所を教えてもらう。
「右前方茂みの中、あの木のすぐ後ろ」
「ほい」
「続いて右方向、二本の木の間」
「ここか」
「さらに右四十五度方向、二十メートル先」
「ええと……この辺。えい」
「それから……」
ぐるりと時計回りにエリスが探知した場所へかなり強めのスタンガンを撃ち込んでいくと悲鳴すら上げずに気絶する。多少、倒れたときの音がしたとしても彼ら自身がある程度間を開けて待ち構えているので、互いの様子に気付くことはない。
こうして、遭遇(?)からわずか五分、相手の姿すら見ることなく片付いた。
リョータが普段使っているレベルのスタンガンだと、まともに動けるようになるまで半日はかかる。今回撃ち込んだのはかなり強いので復活までそれ以上どころかもしかしたら絶命しているかも知れない。が、確認はしない。確認に行ったら手間が増えるだけなので。
そして、そのまま放っておけば、運良く動けるようになるか、あるいはこの辺りにもいくつか群れがあるらしい狼や熊に襲われるか。いずれにしてもリョータたちを追いかけるという発想には至らないだろう。
「さ、行くぞ」
「「はい」」
「っと、ちょっと?何があったのさ?」
もちろんヘルベルの質問には答えない。
「なあ、ちょっと?」
「「「……」」」
「で、どこまで話したっけ。ああ、そうそう」
そこで話を続けるんかい!と突っ込みたくなるのをぐっと堪えつつ左右に注意しながら歩く。
「リョータ、あったよ」
「お」
エリスが示したのは、ホンのわずか人が行き来したような跡。エリスにはそこを行き来していた者が先ほどリョータたちを囲んでいた連中というのが臭いでわかる。
「どのくらい先まで続いてる?」
「うーん……結構遠い、かな」
エリスは少し考え、少なくとも街道からたどるのは無理、と結論づけた。おそらく茂みを抜けた先数百メートルに見える入り組んだ岩山のどこかに洞窟でもあって、そこをアジトにしているのだろう。
「どうする?」
「放っておこう」
やろうと思えば、おそらくアジトがあるだろうあたりの岩を崩して生き埋めということもできるが、正確な位置がわからないまま崩すと二次災害を引き起こすかもしれないし、うまく生き埋めにできないかもしれない。
そして人数的に三十人弱というのは、アジトに残っている者がいたとしても多くて五人程度だろうか。となると、あえて潰さなくてもこの先盗賊団を維持していけないだろうから放っておいてよいと判断した。
「それで、俺はどうしたと思う?」
ヘルベルの問いかけに「どうでもいいと思う」と答えかけたのを堪えつつ、歩みを進めていく。
「どういうことですの?!」
「姫様、もう少しお声を」
「うう……だってだって!」
ヴェネットが不満を全く隠すことなく声を荒らげるのを侍女が窘めるが、それで収まるわけもなく。
一行はルガランとの国境に差し掛かろうとしていたが、さすがに護衛の隊長が「これ以上はちょっと」と率直な意見を述べ、強制的に休憩という形で止めつつ、改めて説得した結果がこれである。
どういうことも何もない。仮にも王女であるヴェネットの護衛騎士は人数で言えば小隊規模。そして近衛扱いになるため、小隊長は通常の大隊長くらいの地位がある。そんな騎士を引き連れて、なんの前触れもなしに国境を越えるなど、いくら「姫様の我が儘です」とは言え、小規模な軍事行動と受け取られる可能性は大。今からでも親書を携えた使者を先行させなければ、一応は友好関係にある両国に要らぬ緊張が走ってしまう。
では、使者を送ればいいではないかというと、これまた簡単ではない。
王女が私的な旅行を希望し、その護衛のために騎士がつくので、軍事的な意図は全くない旨を記し、国王がサインした親書でないと、意味をなさない。そして、そんな物の持ち合わせはない。というか、王女が国外に出かける許可自体下りていないのだから、仮に国王にそうした書面へのサインを求めても受理されないだろう。
そう、つまりここが彼らにとっての終着点。ここで「さあ姫様、諦めて帰りましょう」「仕方ないわね」という流れのために全員が一致団結しているのだが、肝心の王女が首を縦に振らない。
この先、一キロにも満たないところにある国境警備の検問所。手前側、つまりドルズ側は自国の範疇であり、警備隊の隊長と護衛の騎士たちは面識があるから「そうか、大変だな」という声がけくらいはしてもらえるだろうが、国境線を越えた向こう側はルガランの領土。
全く知らない間柄ではないが、「ちょっと通してくれ」「仕方ないな、今回だけだぞ」とは行かない。
という話をしても、ヴェネットが納得してくれないのだ。「そんな話、聞いてないわ」と。
そりゃそうだ。国同士の取り決め事の大まかなところは王族としての教育として知っていても、こうした国境の行き来、それも貴族や王族、付随する騎士についての細かなところは王族である彼女が知るところにない。彼ら王族が他国へ出向くと言うときには、既に先方に連絡を入れていて、むしろ向こうから出迎えをしてくるというのが基本的な流れ。ヴェネットが知らないのも無理はない。
それでも全員が「細かいところはともかく、そう言えばそんなことがあったわね」くらいの返事をして欲しいとは思ってもバチは当たらないはずだ。
「とりあえず親書が必要ってのはわかったわ」
「ええ、ええ。ですから」
「で、その親書はいつ届くのかしら?」
「「「え?」」」
「だから、親書はいつ届くのかしら?」
説得にかかっていた護衛隊長と侍女は「少々お待ちを」と一旦引き下がり、ヴェネットに聞こえないようにやりとりする。
「親書が届く前提になってますけど?」
「そんなこと言われたって、そんな手配はしてないだろ?!」
「じゃあどうするのです?」
「それ、一介の護衛騎士隊長の範疇じゃないんだが」
「ええ、侍女の範疇でもありません」
ここにいる侍女や騎士は一応は貴族の家柄であるが、あとを継ぐことのない、そのままであればいずれは平民になることが決まっているような者ばかり。国王のサインの入った親書の用意なんて、どうやったら準備できるのか知っている者はいない。




