データセンター?
取っ手に手を伸ばし、グッと引っ張ると、ギシギシと軋んだ音がするものの、思ったよりも軽く扉が開いていく。開いた先には、また通路が延びていた。ここまで辿ってきていた魔法陣から延びていた線もそのまま天井の中程を通っていたので、行き先はこれで間違いないだろう。
「よし、このまま奥へ……と行きたいところだけど、念のため、扉を押さえておこうか」
「はい」
扉を全開にしたところで、地面に杭を打ち、固定する。扉はスムーズに開いたが結構な重さ。何かあったときにすぐに逃げられるようにという、念のための用心だ。
そしてまた歩くこと一分ほどで同じような扉に到着。
周囲を確認するが、一枚目の扉よりも砂埃が少ないという以外に違いがなく、警戒し続けても意味はないと判断して扉を開けると、向こう側はさらに通路が続いていた。
「エリス?」
「何もいないようです」
「わかった。進もう」
同じように扉を固定したら通路を進む。先程までと違い、僅かに湾曲していて先の様子が見えないのが不安といえば不安か。
「って、また扉か」
緩やかなカーブがちょうど半円を描いたかというくらいのところにまた扉。そして、近づこうとするリョータの肩をエリスがつかんで止めた。
「どうした?」
「何か聞こえるんだけど、何の音なのか……」
「音?」
「うん……なんだろう……よくわかんないけど」
「何かの足音?」
「違う……かな。こんな感じ」
「ブーンって、なんか低い音が」
「ブーン?」
「うん……そんな感じ……聞いたことない音、かな」
低い音……機械的な振動音っぽいのか?だが、この世界には機械と呼べるものって、と今まで見聞きしたものを思い返す。川の流れに水車をつけて粉ひきをするのがあったかな、と言うくらいしか思い当たるものがなかった。
それでも中を確認しようと扉に手を伸ばすと、エリスが剣を抜き、ドアが開き次第中を確認できる位置へ立つ。
「よし、開けるぞ」
「はい」
ギシッと軽く軋みながらドアが開き、中を見たエリスが目を丸くしてる。とりあえず危険はなさそうなので、そのまま開ききると……なんとも表現しづらい部屋だった。
広さは学校の教室四つ分ほどだが、広いとは全く感じない。なにしろそこら中に一メートルほどの箱が置かれていて、歩くスペースがようやく確保されているかどうかという状況。
そして、それらの箱には天井を伝ってきた魔法陣から延びる線が壁、床を伝って伸びて繋がっており、複雑な模様を描き、チカチカと瞬いている。オマケに少し暖かい。
その様子はまるで……
「コンピュータールーム?」
「こん……?」
「あ、いや、なんでもない」
この世界にコンピューターというものは存在しないので、そのまま日本での発音になってしまったか。
とりあえず、いきなり殺意のある何かが起こることはなさそうなので手近な一つへ寄り、よく見てみる。表面には魔法陣を作るときのインクが樹脂状に固まって複雑な模様を作っていて、時々チカチカと光っている。が、その模様が何をしようとしているのかというイメージは断片的すぎてよくわからない。
薄暗い中で見づらいが、一枚ごとに違う模様が刻まれた板を何枚も重ね合わせて作っているらしく、全体で一つの意味をなすように作られているようだ。つまり、これが何をしているものかを理解するためには、分解して並べないとわからないということ。もちろん何が起こるかわからないので、手は出さない。
そして壁の方を見ると、エリスの言っていた「ブーン」の正体が並んでいた。
ひと言で言えば換気扇。直径一メートルほどのプロペラと言うにはちょっと、という形状の羽根が左右の壁に並べて取り付けられていて、その中心辺りからブーンと音がしている。モーター……を作るには電気を安定供給できる仕組みが必要なはずだから、モーターっぽい何かが入っているのだろうか。まあ、この世界でも電気が流れたら磁界が発生するという法則は生きているだろうから、しっかりイメージしてやれば魔素を消費して動くモーターはリョータにも作れるだろう。
あとあと面倒なことになるから作らないけど。
そして、その換気扇が、少しばかり熱気のこもった室内の空気を外に逃がしているようだ。つまり排熱用のファンということかな。まあ、その辺を口にすると二人の頭の上にでっかい?が浮かびそうなので言わないが。
「ここ、なんなんでしょうね」
ポーレットが全員の頭に浮かんでいる疑問を口にすると同時にエリスの耳がピンと立った。
「誰か来ます!」
「人数は?」
「一人……武装はしていないと思います」
エリスによると服の衣擦れの音と、革の靴の音だけで、刃物や防具類の金属の擦れ合うような音はないという。が、こんな人が来ないように隠しているような場所にいる者だ。
何があってもおかしくないと、入ってきた反対側の壁にあるドアを警戒する。
「ドアのすぐ向こう」
「うん」
ポーレットは数歩下がり、リョータとエリスが短剣に手をかけるのとほぼ同時に、ドアノブがガチャリと回った。
そして、ギィとドアを軋ませて入ってきたのはランタンを片手にぶら下げ、何やら紙の束を持った一人の男だった。男は三人がいることに一瞬驚いたものの、落ち着いた声で訊ねてきた。
「……お客さんかな?」
「……」
「えーと、何か返事をして欲しいんだけどね」
「お客さんかどうかはなんとも言えないのですが」
「あはは、そうだね。じゃあ質問を変えよう」
ランタンと紙束を近くに置いた男はパンと両手を打ち合わせる。
「君たちは私、あるいはこの場所に悪意を持って侵入してきたのかな?」
「今のところそのつもりはないですね」
「今のところ?」
「ここが何なのかわからないので」
「フム……ここが何か知らずに来た、と」
「ええ」
男が腕を組み、何かを考えはじめる。
さて、どうしようかと思っていると、それ程かからずに考えがまとまったのか、ポンと手を打った。
「とりあえず、ここが何か説明するとしよう」
「秘密の場所なのでは?」
「秘密と言えば秘密だね。だけど、秘密を知られた以上は殺す、みたいなことはするつもりはないよ」
「そうですか」
「ただ、一つ頼みたいことが」
「何でしょうか」
無理な願いは聞くつもりはないが、聞くだけは聞こう。
「そっちのドア、一番外側から閉めてきてくれないか?埃が入ると掃除が面倒なんだ」
「へ?」
「鍵なんかはついてないよ。建て付けが古くて軋んでると思うけどね」
「はあ」
とりあえずポーレットがドアを閉めに行った。ついでにここまで迷わないようにするために伸ばしていた紐も回収する。
そしてその間に男はいくつかの箱のチカチカを確認し紙束に何かを書き付けていく。
何をしているか聞きたいが、ポーレットが戻ってきたところでまとめて説明するつもりらしい。おとなしく待っているうちに、ポーレットが戻ってきたところで男が手を止めた。
「じゃあ、ここが何か説明するけど……立ち話もなんだから場所を変えようか。お茶くらい出すよ」
そう言って「こっちだ」と奥のドアへ入っていくので、ついて行くことにした。ここで断る理由もないし。
ドアを抜けた先には短い通路が有り、その両側にも似たようなドアがいくつか並んでおり、男が歩きながら「このドアの向こうも同じような部屋があるよ」と説明していく。
データセンターかな。
そんなものがこの世界にあるとは考えづらいし、何のデータセンターなんだよって話だが。
そして通路の突き当たりの部屋に入ると、ごちゃごちゃとものが置かれたりしていて生活感が溢れていた。
「えーと」
「ああ、その辺適当に座ってくれ。今お茶をいれるから」
応接セットのようなものがあって勧められるままに座ると男がお盆を手に戻ってきた。
「大したもてなしは出来ないけど、勘弁してくれ」
もてなされるようなことをしていないので、なんと返せばいいのやら。
全員の茶を入れると男が反対側に座り、ひとくちすするので、こちらもひとくち。特にこれと言った特徴もない、普通の紅茶だ。
「さてと、ではまず自己紹介から。私は、アレックス・ギルターという」




