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  作者: ひじきとコロッケ
ドルズ
284/346

少年の心を忘れないオッサン

 支払う褒賞金の用意とか色々手続きをしてくると、支部長と受付嬢が退室すると、ブレアスの表情が厳しいモノに変わった。


「で、ここからはあの二人にも聞かせられない内容だ」

「え?支部長にも?」

「ああ。お前さんたちが正体を暴いたというか、姿をさらした獣人」

「ああ、あの人」

「アレが何かわかるか?」

「何って言われても」

「狼系の獣人、ですね」


 こっちに来てから獣人は何度となく見てきたが、「○の獣人ですか?」なんて聞いて回ったことはないので、何となく犬系の獣人だけどエリスとはちょっと違うよなと思っていたら、エリスはちゃんと見分けていたらしい。


「そうだな。狼の獣人だ」

「それがどうかしたんですか?」


 実は絶滅危惧種?レア種?


「どうやら南の方から連れてきたようだが……違法な奴隷だ」

「違法な奴隷?」

「お前らは……って、そこにとんでもねえ額の借金奴隷がいるから奴隷ってのは何となくわかってるか」

「はい。あとは犯罪奴隷がいるというくらいは」


 街で暮らす犯罪奴隷などいないので、犯罪奴隷を見る機会は皆無と言っていい。かろうじてどこかへ移送する途中の者たちを見かけることがあるかどうかで、ほとんどの者が重罪を犯すと犯罪奴隷になるという以上のことは知らないのが普通だ。


「今から話す事は他言無用、いいな?」

「は、はい」

「わかりました」

「りょ、了解です」


 三人が頷くのを見てゆっくりと告げる。


「あれは種族奴隷という違法な奴隷だ」

「種族奴隷?」

「ああ。詳しいことは省くが、簡単に言えば「アイツが狼の獣人である間はずっと奴隷」という正気かどうか疑いたくなる奴隷だ」


 やはり、か。何となくそうだろうなと思っていたが、こうしてそうだと言われるとなかなか重いな。三人が押し黙ったのを見たブレアスが続ける。


「わかるぜ、そんなモノがあるなんて、ってな。俺もギルドマスターなんてのになったときに「こういう犯罪があるので覚えておけ」という中にあって初めて知ったくらいだからな」


 どうやら人を人とも思わない犯罪にショックを受けて押し黙ったと勘違いしたらしいが、実態は真逆。エリスが種族奴隷だとバレたらどうしようかと内心は穏やかではなく、心拍数が急上昇中だ。


「あまり詳しい話をするつもりはないが、違法奴隷の所持と言うことだけならまだいいんだが、どこかに売りつける予定だったらしくてな。ドルフは重罪だ」

「重罪」

「ああ。ドルフ自身を犯罪奴隷にして……おそらく二十年以上だな」

「うわ」


 犯罪奴隷で二十年って、絶対解放されないだろ。


「で、だ。なんでわかった?」

「え?」

「アイツの馬車に違法な奴隷が乗っているって、なんでわかった?」


 こちらを試すような口調に視線。何か一つでも間違えたら、そこから色々突っ込んで、エリスのことを探られるかも知れない。が、知らぬ存ぜぬは絶対ダメだろう。


「ポーレットのことは知ってますか?」

「噂程度だな。大量の荷物を運べるポーターと言うことくらいしか知らん。ああ、借金抱えて奴隷になって、やっと返済したと思ったらまた借金抱えたってくらいか?」

「え?私、借金の方が有名?」

「そりゃそうだろ。返したと思ったら借金の桁が増えたなんて、そうそう聞かねえ話だぞ」


 それは確かに言えてるな。


「ポーレットが荷物を大量に運べるのはそういうギフトです」

「ほう?」

「ただ、制限がありまして」

「制限?」

「はい。生き物を背負えないんです」

「なるほど」

「それで脱輪した馬車を持ち上げようとしたら上がらなかったので、おかしいな、と」

「なるほど。それで馬車に誰か乗っているはず、か」

「はい」

「だが、それが違法な奴隷だとどうしてわかった?」


 ここだ。ポーレットのギフトで馬車に誰か乗っているとわかった。ここまでは何も問題がない。問題はそれがどうして違法奴隷と気付いたか。これの返答を誤るととんでもないことになるだろう。


「エリスです」

「ん?そっちの嬢ちゃんか?」

「はい。馬車から降ろされた人に布をかぶせられていたんですが」

「おう。それは聞いてる」

「エリスが、ひどい怪我をしている、と気付いたんです」

「は?なんで?」

「エリスの感覚は鋭くて。まともな処置もされていなくて汚れていたり傷が化膿していたりというのを臭いで気付いたんです」

「ほう」

「もちろん、旅の途中で怪我をして応急処置しか出来てないという可能性はありましたが」

「そうだな。そういうケースはある」

「それなら隠す必要はないのでは?」

「む?」

「あと、怪我がひどいなら寝かせたまま、担架で運び出してくるとかするでしょう?」

「なるほど」

「それで何か後ろめたいことがあるのかな、と。それを白日の下にさらしたら切り抜けるきっかけになるかな、と」

「随分と分の悪そうな賭けだな」

「ええ。ですが、これ以上悪くなることはないかなと思って」


 あの場面、馬車を引き上げたのに金を要求される以上に悪くなることなんてあるか?無いよな?


「よし、わかった」


 ブレアスが両手をパンと打ち鳴らす。


「もしかしたらお前たちが違法な奴隷の取引に関わっていて、ドルフを罠にはめようとしていたとかだったらマズかったが、そういう可能性はないな」

「え?俺たちってそういう犯罪に関わりそうに見えます?」

「見えない。聖人君子ではないだろうが、善良で真面目な連中だってのはひと目でわかってたさ。これでも人を見る目はあるつもりだし、他の冒険者ギルドから届いている情報と照らし合わせても、な」

「そうですか」

「だが、一応は確認しておきたかったし、色々面白いことも聞けた」

「色々?」

「面白い?」

「ああ。ポーレットが大量の荷物を運べる理由とか、そっちのエリスがとんでもなく鼻が利く、とかな」

「えーと」

「心配するな。誰にも言わねえよ。知ってるか?口が固くなきゃギルドマスターなんてなれないんだぜ?」

「はあ……」

「ところで」

「なんでしょう?」

「ここからは個人的興味だ」

「え?」

「ドラゴン討伐とか、アキュートボア討伐とか、色々聞かせてくれ」


 キラキラした少年の目をしたオッサンはやめてくれ。かなり心に来る。




「ちょっと待て、ということは?」

「え、ええ……」

「マジかぁ」


 ホルツたちが戻ってきたとき、ブレアスは打ち解けているというレベルを超えて、笑ったり、驚いたりと、どこからどう見てもギルドマスターと冒険者には見えない雰囲気になっていた。


「あー、えーと」

「っと、スマンスマン。話が盛り上がってな」

「まあ、ギスギスするよりマシですが。もう少し声を抑えて下さい。階下(した)にも聞こえてましたよ」

「そ、そうか。スマンな」


 反省してるように見えないブレアスを横目に、ホルツはリョータたちの前に一枚の紙を滑らせる。


「褒賞金です。確認してサインを」

「はい」


 賞金は二千万ギル。使いやすいようにと小金貨二十枚となっていた。


「しかし……ドルフは確かに色々問題があったが、ここまで賞金が跳ね上がるものなんですかね?」

「ホルツ、あまり詮索しない方がいいこともあるぞ」

「え?」


 ブレアスが鋭い視線を支部長たちに向ける。


「ドルフ自身は小物、小悪党だ。だが、その積み荷に違法なものがあった。そういうことだろうと俺は睨んでいる」

「違法な……なるほど」


 ブレアスは具体的に違法なナニ(・・)かを明言しなかったが、通常行商人が運んでいそうな違法なものと言えば、定番は薬物。それも、依存性と危険度の両方が高いものになると、罪の重さが跳ね上がるのは良くあること。つまりそういうことで、これ以上突っ込んで聞くと、色々戻れなくなるなとホルツは理解し、引き下がった。

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