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  作者: ひじきとコロッケ
プスウィ
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エルフに夢を見るのはやめた

 さすがに日差しの照りつける下で暑苦しい笑顔――本人たちは爽やかだと思っている――を浮かべたマッチョたちと話をするのは心身共にキツいので、木陰にあるベンチへ向かう。わずか数十メートルの距離だがそれでも心配でチラリと振り向いたら自信満々に言われた。


「安心してくれ。私はもう、逃げも隠れもしない」


 安心できる要素がないんだがな。


「で、ポーレットが族長の娘だとわかったわけだが、それでどうするんだ?」

「いや俺は別に「「「是非とも我が里へ!そして今すぐ族長に!」」」


 族長自身は特に用がなかったようだが、まわりが次期族長に推している。かなり強烈に。まあ、コレ(・・)が族長じゃ、さっさと交代して欲しくなるのもわかる。


「だってさ。ポーレットはどうしたい?」

「お断りします」

「「「そんなっ!」」」


 即答アンド即答。


「一応質問。族長って、色々決め方があるって聞いたけど、候補ってどうやって決めるんだ?」

「基本は血縁です。相当に優れた才能を発揮する者がいた場合は違いますが」

「血縁ね……」


 コイツら、ポーレットのことを半端者って言ってたの覚えてないのか?と睨んでみたら、どうやらちゃんと気付いていたらしい。


「その……族長は、普通のエルフではないんです」

「そうだな」


 ギフトはともかくとして変態だな。


「ハイエルフという種族はご存知ですか?」

「名前を聞いたことくらいなら」


 ファンタジーの定番だが、普通のエルフとハイエルフの違いって何だろう?


「エルフとハイエルフの間には越えられない高い壁がありまして」

「ほう」

「その……ハイエルフと人のハーフとなると、エルフよりも……とも言われています」

「へえ……」


 結構な掌返しだこと。


「だがダメだな」

「そんな」

「よく考えろ。初対面でいきなり半端者呼ばわりしておきながら族長にとか、お前らの掌はよく回るな」

「ぐ……」

「それは……そのっ」

「あとさ、もう一つ」

「なんだろうか」

「ポーレット、俺に借金があるんだが」

「な、なんとかしよう」

「いくらだ?」


 いわれて渋々ポーレットが手に刻まれた奴隷紋を見せる。


「え?」

「は?」

「何をどうしたら」

「こんな金額……」


 そうだよな。大金貨三桁に届きそうとか、何をどうしたらそうなるんだよって話だよな。


「す、少し相談させて下さい」

「どうぞ」


 エルフたちがあーでもない、こーでもないと話をし始めたのを見ながら思う。国王が大きな功績を挙げた者に与える褒賞が大金貨数枚からだったかな。その十倍以上の借金、エルフだってどうにもならんだろう、と。


「リョータ」

「ん?エリス、どうした?」

「ちょっと……」


 エリスが何か気付いたらしく、確認してきたいというので任せる。軽く聞いた限り、このあと役に立ちそうだし。

 それからたっぷり十分程、エルフたちは話し合いをしていたが、普通そういうのって族長を交えるというか、族長中心に話すものじゃないか?肝心の族長はポーレットをチラッと見てはハイライトの消えた目で睨まれて視線を逸らすというのを繰り返しているぞ。少しは族長っぽく扱ってやれ。あとポーレットは……いいぞ、もっとやれ、と言えない。どう見てもこの扱いを喜んでるようにしか見えん。

 やがてエリスが戻ってくる頃、エルフたちも話がまとまったようだ。


「さすがにその額は手持ちにありませんし、里に帰ってかき集めても全く足りないでしょう、というのが……まあ、結論です」

「そうでしょうね」

「ですが!」

「ん?」

「それに相当する価値あるものをお渡しします」

「ほう」


 エルフの言う、価値ある品か。


「よし、じゃあそれをどこかの商会に売って換金しようか」

「ええ。いくつか持ってきていますので、大丈夫だと思います」

「エリス、いいかな?」

「はい、こちらです」


 いきなり歩き出した俺たちを、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら慌ててエルフたちが追い始める。数メートルも進むと後ろの方でジャラジャラズルズルと音がして「ちょ!待て!自分で歩くから!あっ!このっ!はっ!」という声が聞こえたがスルーしておく。




「ここです」

「ほう」


 エリスに案内されたのは看板どころか建物全体が色々工事中の一軒の建物。トンカントンカンやっている前にゾロゾロと団体が、しかも大多数がエルフというのに数人がギョッとして慌てて一人が奥へ入り、すぐに一人連れて戻ってきた。


「おお!これはこれはリョータさん!」

「お久しぶりです」


 そこにいたのはルルメドで出会い、プスウィまでの荷物運びの依頼をしたルズベル商会の会頭ハヴィンだった。

「こんなところで立ち話というのも」と案内された――エルフ全員は無理と言われ、族長とレオボル、ニアキスだけ連れてきた――先は、開店まであと数日という、ルズベル商会リワース支店の支店長室だった。元々ルルメドだけで収まるつもりのなかったルズベル商会だが、リワースで起きている冒険者行方不明事件はきっとリョータが解決するだろうと読んでいた。そして、それを好機とリワースに支店を出す予定を前倒ししながら会頭自らも現地入り。目論見通り冒険者行方不明事件も解決したが、予想よりも早かったので現在急ピッチで開店準備中とのことだった。


「解決するだろうって、何を根拠に」

「ユーフィさんをご存知でしょう?あの方が教えて下さったんですよ」

「参考までに、何て言ってました?」

「ええと、私の夫になる予定の男だから、きっとすぐ解決するに違いないとかなんとか」

「は?」

「リョータさんも罪な男ですね。こんなお嬢さんたちと旅をしていながら、冒険者ギルドの支部長と婚約なんて」

「してないし!」


 誤解を解くというのはとても難しいと改めて思いつつ、とりあえずこの後冒険者ギルドに行って猛抗議しておこうと思った。




「さて、こちらに入らした御用はなんでしょうか?いえ、ただ顔を見せに来たと言うだけでも問題ないのですが……もしかして、そちらのエルフの方々と関係が?」

「ええ。あまり詳しいことは話せないのですが、彼らがすこしまとまった現金が必要になりまして」

「ほう?」

「ああ、違法な何かというわけではないのですよ。ただ、彼らの手持ちが足りず、というだけでして」

「なるほど。ということは、何かを売りたいと?」

「ええ」


 レオボルたちに「ささ、どうぞ」と促すと、ゴトリ、と重そうな何かをいくつかテーブルの上に置いた。


「こちらです。私たちはいつもこれを売って現金を得ております」

「ダンベル型をした木彫りの何かかよ!」

「木彫りの何かではなく、木彫りのダンベルです」


 ダンベルかダンベルでないかはどうでもいい。どう見ても価値がなさそうなのが問題なんだ。


「ふむ……しかし妙ですな」

「え?」

「いつもこれを売っているのであれば、そちらにお持ちいただいても良かったのでは?」

「ああ、そういうことですか。私たちはどちらかというともっと北の方、ガディナの辺りで暮らしておりまして、持ち込むのはガディナの商会なんです。こちらの方では持ち込んだことのある商会がなくて」

「なるほど、わかりました。拝見します」

「ええ。お願いします」


 某お宝鑑定番組のBGMが流れてきそうな雰囲気でダンベルを手に取ろうとするハヴィン。だが、


「むっ?!」


 持ち上がらない。


「な、なるほど。結構重いのですな」


 見た目に反して重いそれに少し驚きながら、少し力を込めて持ち上げじっくりと見始めた。


「ふむ……なるほど。なるほど」


 真剣に見始めたのでリョータたちも一つ手に取ってみる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 木製なのに一般男性が持ち上げられない重さとかヤバいなぁ(笑) 密度が段違いなのか、そういう付与が施されてるのか?これで鈍器作ったら、下手な金属製打撃武器より強そうww
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