これが真相?
そしてこうやって全体を眺めて受け取るイメージは……
「高さはだいたいおよそ千九百メートルってところか?そこにある……何かよくわからんものへ転移する……うーん」
この真上二千メートル弱辺りにあるよくわからない何かの元へ転移するというイメージ。だが、その何かがよくわからない。そして、その何かが本来あるべき場所にないため、何もない場所へ転移するというふうに機能が置き換わってしまっている。そんな感じだな。
「あの!」
「ん?どうしました?」
「ここ、これ見て下さい」
調査団の護衛が本来の仕事だが、それはそれ。冒険者行方不明事件の原因がこの魔法陣だとして、こんな人工物が自然に出来るはずがないというのは調査団も冒険者ギルドも意見が一致している。そこで、真相を探るのも大事となっているのだが、調査団の連中は研究者肌の者ばかりが来ているせいか、魔法陣を作っているインク?の成分を解析したくて仕方ないようでそっちにかかりきりになってしまっているので、ちょっとだけ現実に引き戻して呼び寄せる。
「なんだ?ん?これは?」
「多分、ここって、誰か……多分これを作った人がこの魔法陣を破棄するために削ったんだと思います」
「そうだな……削り落としたような跡がある。うーん、こんな堅い物をどうやって削り落としたんだ?」
俺たちが苦労しているのに全然削れないんだよなと、議論を始めようとしたので、慌てて引き留める。
「ああ!あの!どうやって、よりも大事なことが!」
「え?」
「この削り落としたようなところに、何かが」
「そうだな。なんだろう?」
「色は似てますね」
魔法陣本体は深い青色をした樹脂のようだが、削り落とされた間を偶然繋いだような線は少しだけ緑がかって見えるがほぼ同じ色。
「多分、この辺の草の汁とか、魔物の血、体液とか、そう言うんじゃないかな、と」
「ふむ……そう言われてみると……この色はトカゲっぽいか?あとはこの辺の草の汁……ふーむ」
その様子を見ていたユーフィがポンと手を打った。
「そうか、ここを通りがかった冒険者が担いでいた戦利品から滴る血とか、踏み潰した草の汁なんかが偶然ここに落ちて、この削り取られた間をつないでしまった。結果、魔法陣が再び効力を発揮するようになった。それがホンの二、三年前くらい」
「そう。だからそれより前は冒険者が行方不明になることはなかったんだけど、魔法陣が機能するようになったせいで行方不明……つまり、上空に放り投げられて人知れず墜落死する事故が起こるようになった……というのが冒険者行方不明事件の真相だと思うんですが、どうです?」
ユーフィに続けて見解を述べると、調査団の面々がうーん、と唸る。
「そう……だな」
「辻褄は合う」
「だが、一つの問題が残る」
「なんでしょう?」
「これ、誰がなんのために作ったんだ?」
それはさすがにわかりません。
「さて、この魔法陣、無力化できそうですけど……どうします?」
「まずはここをぶった切っておこう。調査も安全に出来るようになるし」
そう言ってそれぞれが道具を手に地面を掘っていき、偶然つなげられた辺りを掘り返してやると、魔法陣全体から受ける、空高くへ移動させるというイメージが霧散した。これで安全かな。
「うーん、これはこれで貴重なサンプルだが、やはり魔法陣本体のコレ、コレを何とかして持ち帰りたい」
コンコンと叩いて聞こえるそれは、樹脂が固まったような音。
それをどうにかして持ち帰ろうとしているのだが、固くて傷をつけることもままならないし、全体が繋がっているので掘り返して持ち上げようにも大きすぎる。さすがに三百メートルの魔法陣を持って帰るのは無理だよな。
そんなわけで朝からトンカントンカン、ノミを打ち付けているのだが、固すぎてノミが割れてしまい、既に五本目。まだ十本近くあるから頑張ると言っているが、よくもまあそんなに持ってきたものだ。
変なところで感心してしまったが、このままだと一体どれだけ付き合わなければならないのかとうんざりしてくる。仕方ない、ワクワクした感じでキラキラした目を向けているユーフィが何を言い出すか恐いが、少しだけ手伝おう。
「破片が飛ぶかも知れないので離れていて下さいね」
「わかった」
充分、いや充分すぎるほどに距離を取ってもらってからラビットナイフでスパッと。相変わらずの切れ味でサクッと魔法陣を構成していた樹枝状の固い物を三十センチほどの長さで切り出し、切り出し、切り出し……とやって二メートルほどを掘り出して渡したら、色々とおかしくなった。
「これで研究が捗るぞ!」
「どう?これが私の夫、リョータよ」
「すごい!すごいぞ!」
「私の見る目に狂いはないって事よ!」
誰が誰の夫だって?
とりあえずおかしな事を口走るユーフィはあとでキッチリ絞めるとして、魔法陣を掘り返したあとを丁寧に埋めておく。少し盛り上がるくらいにしてしっかり踏み固めてやれば、雨なんかで草の汁が流れ込んだりする可能性も低くなるだろうし、なによりも二メートルという長さ。これが再び何かの拍子で繋がってしまうとしたらそれはもう神の采配だろうな。
おかしなテンションになった調査団の面々を「そろそろ日が沈みますから」となんとか引っ張って街に帰り、これでようやく終了。かなりの額面をもらいつつ、
「ではこの受領証にサインを」
「最近の受領証は「婚姻届」って書いてあるんですか?」
「そ、そこは見ずにサインしてくれたっていいじゃない!」
という、だいたい予想できたやりとりを経てようやく解放された。
「疲れたな」
「ええ」
「でもこれでこの国にも冒険者が戻ってくるでしょうし」
「そうだな。なんていうか……ドラゴン倒すよりも役に立った気がする」
ドラゴンが街を襲うような場合、被害は大きく、場合によっては復旧が出来なくなることもあるが、それでも被害は短期的。ドラゴンさえいなくなればあとはどうにでもなる。だが、今回このプスウィのリワースで起きていたのは原因不明の冒険者行方不明だ。
リョータが前世で――もうほとんど覚えちゃいないが――読んだ異世界ラノベでは、冒険者というのは誰でもなれる、つまり、他に働く術を持たない者の受け皿兼、成り上がる最後のチャンスという言わばセーフティネット的なものも多かった。しかし、この世界では街と呼ばれるのは全て魔の森に面しており、規模の大小こそあれ魔の森を探索する冒険者からもたらされる様々な物資によって経済が成り立っているため、冒険者が立ち寄らないとか、魔の森に入りたがらないというのは街にとって死活問題。もちろんすぐに町が衰退して廃墟になってしまうようなことはないが、じわじわと真綿で首を絞められるように町が衰退していくというのは、どの国も望まない状況。
「リョータ、気付いてますよね?」
「ああ」
ポーレットが皆まで言わずともわかる。これ、絶対ランクを上げようという話になる。Bランクになると色々と優遇される部分があり、普通の冒険者なら断ることはないだろう。リョータも、旅をしているのでないなら二つ返事でランクを上げる。だが、今はダメだ。あと少しで、目的地と思われるヴィエールという街のある国、ドルズ。諸々解決したあと、あるいは目処がついたあとならともかく、今はまだ自由に動けるようにしておきたい。
「何かいい断り方、あるかな?」
「ありません」
「うーん、無理ですね」
エリスはもとより、冒険者歴の長いポーレットも、今までランクが上がる機会を全部先送りにしてきただけという状況を覆す方法は、すぐには思いつかない。




