魔術師団+1
とりあえず、実際に現地で確認しなければならないと言うことで話がまとまり、翌日、ギルド職員五名を引き連れて魔の森へ向かう。五名も連れていってギルドの業務は大丈夫かというと、全く問題が無いどころか、支部長以外に二人もいたら多すぎると言うほどらしく、ついてきた全員がちょっと楽しそうにしてた。
「これでも一応、元Bランクなんだよ」
「へえ」
「私はCランクよ」
「ええ、Aランク間違い無しとか言われてなかったっけ?」
「結婚しようと思って引退したのよ。そしたら逃げられて」
「え?マジで」
「うん。あとで知ったけど、有名な結婚詐欺師だった」
「うわあ」
冒険者の間で結婚詐欺とかいう生々しい話を聞きながら現場に到着し、地面を確認。
「ええと……あった、これです」
「なんだこれ?」
「なんかの樹脂?」
「ま、とりあえず一回やってみますね」
「やってみる?」
「リョータ、これでいい?」
「お、ありがと」
エリスたちが気を利かせて近くの木の枝を数本切ってきたのでポイッと投げ入れてもらう。
「では行きます」
そっと魔法陣に触れて少しだけ魔力を流すと、魔法陣全体が光った。
「今の何?!」
「光るなら先に言って欲しかった……ちとまぶしいぞ」
「すみません」
「で、何が起きたの?」
「さっき投げ入れてもらった木の枝が消えてます」
「え?」
「ホントだ」
「どこに行った?」
「上です」
「上?」
「ええ」
リョータが指さす先を全員が見上げると、点にしか見えない物が風に流されながらだんだんと大きくなり、数本の木の枝とわかるように……ホーンラビットもいるな。
「え?何あれ?」
「気をつけてくださいね。落ちてきたのに当たったら、最悪死にます」
「え?」
「マジかよ……右?もう少し後ろ?」
恐る恐る動き始めたので、ちょっとアドバイスを入れておく。
「こっち。もっと大きく逃げましょう」
「そうだな」
「よし、あっちへ」
全員で近くの大きな木のそばへ待避する。ここなら上から物が落ちてきてもある程度は防げるだろう。
やがて、ズドンと派手な音をさせながらホーンラビットが数羽。しばらく間を置いて木の枝が落ちてきた。
「うわあ……何これ」
「エグいな」
ホーンラビットは落下の衝撃で見るも無惨になっているか、角が地面に突き刺さって首だけ残っているかというスプラッタな状態に。木の枝はある程度葉で勢いが殺されているが、衝撃で折れた破片が飛び散ったりしている。
「もう少し詳しく教えてくれ」
「はい」
魔法陣の外周に沿って歩き、この範囲内で魔法陣を描いている樹脂っぽいのに魔力が流されると、上空に飛ばされること。魔力を流すのは冒険者自身でなく、ホーンラビットが冒険者を襲おうと身構えるだけでも充分らしいことを告げると、全員が頭を抱え始めた。
「大丈夫ですか?」
「なんとか、な」
それぞれがなんとか自分の中で折り合いをつけたところで、一度街へ戻ることにした。
状況はわかったが、これをどうするべきかという判断は上に任せよう、と。上というのがどこまでなのかはわからないが。
「なるほど。一メートルほどの木の枝が小さな点に見えるほどの高さか」
「ええ」
「想像もつかないほどの高さに放り投げられ、そのまま落下してくるだけか……」
「不幸にも地面に角が突き刺さったホーンラビットなんか、衝撃で首が千切れてましたからね」
「いちいち細かいことはいわなくていい」
支部長も頭を抱えようとして、一旦職員全員を「元の業務に戻れ」と追い出した。
「さて、リョータ……お前たちについてだが」
「はい」
「しばらく街に滞在してくれ」
「しばらく?」
「ああ。宿泊費用はギルドで持つ」
「それはありがたいですが、どのくらい?」
「すぐに王都に連絡をする。おそらく宮廷魔術師団が派遣されるレベルだろうから……十日はかからないと思うが」
冒険者ギルドは国と切り離された組織だが、それはあくまでもギルドの運営に国が口を出せないという程度のレベルの話。今回リョータたちによってもたらされた魔の森の異常現象はギルドの手に負えるとかそういう以前の話になったと支部長は判断した。
「おお!」
「これは確かにすごい」
「一体どういう魔法なんだ?」
「こっちだ!こっちに続いているぞ」
「気をつけろ。中に入ると飛ばされるぞ」
わずか六日でプスウィの宮廷魔術師団から厳選された調査団が到着し、早速現地調査にかかり、この大騒ぎである。
「ふふん。やはり私の目に狂いはありませんでした」
「……」
「リョータさん、どうしました?」
「いえ」
何でここにルルメド冒険者ギルドの支部長、ユーフィがいるのだろうか。
そもそも隣の国だし、支部長という立場上、ホイホイこんな遠くまで来てもいいのだろうか?
という質問を投げてみた結果はやぶ蛇と言っていい返事だった。
「おそらくプスウィの冒険者行方不明事件をリョータが解決するはずだとギルドマスターに直談判しまして。どうにか有休一ヶ月をもぎ取ったんです」
有休なんてあるんだ。
「そしてプスウィのギルドマスターと情報交換をしていたところに、ちょうど連絡が入りまして。取る物も取り敢えず駆けつけたというわけです」
プスウィのギルドマスターからの手紙というのを見せてもらったが、五日ほど「絶対にリョータさんが解決するはずだから、ここで待たせてもらう」と居座っていて困っていたので、二重の意味で感謝する、と書かれていた。
「そうそう、ギルドマスターからこういう物を受け取ってきましたので確認を」
「ん?なんですか?」
「今回の件に関する報酬の話ですね。何しろ規模の大きな話になりますので、報酬額の算出に時間がかかる旨が書かれています。支払いまでに時間がかかることを了承するという書面です」
「なるほど」
「プスウィとしてもこの件は重視していまして、こっちの書面は国王からの褒賞についてです。リョータさんたちが貴族とかそういうのに興味が無いということはわかっていたので私の方で調整しておきまして、現金という形で支払われます。冒険者ギルドで受け取ってもらうことになりますので、了承した旨のサインをここに。あとこことここにも」
「えーと、ここと……これはこっち。これもこっちか」
「どうして紙を横に……って、どうして破るんです?!」
「そりゃ破るでしょ」
巧妙に婚姻届を混ぜるなよ。しかも丁寧にそれっぽい書類の一部に窓を開けたりとか、詐欺師の手口じゃねえか。
日が傾き始めたところで初日の調査は終了。魔法陣全体の大きさの把握と、どの程度の高さまで転移されるのかという調査まで。調査団の面々は興奮冷めやらぬといった感じではあるが、わざわざ危険度の増す夜に魔の森にいるつもりはないという程度の冷静さは残っていたようだ。
「現時点での調査結果を整理しよう」
「「「はい」」」
「まず……」
好きに調査してくれればいいのにと思ったが、リョータたちは解放されず、街に戻ってからの会議に強制参加。
「まず、魔法陣はほぼ完全な円。直径はおよそ三百メートル。今までにわかっている、何らかの魔法を発動させる魔法陣としては最大規模ですね」
「しかも、その効果が上空へ強制転移。地面に生えている植物は転移しませんが、上に乗っているものは生物、非生物を問わず転移」
「転移する際の高さはほぼ同じようですが、横方向は多少のズレがあるようですね。といっても、転移させる物を引き裂くほどの効果はなく、並べて置いた物がばらける程度のようです」




