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  作者: ひじきとコロッケ
プスウィ
265/347

魔の森には行きたくないのだが

「ちゃんと誰かが見ていれば良いのでは?」

「そう言うわけにはいかないのだ。例えば、そこらの店で食事をしたとしよう。そしてそこでこう言われたらどうする?「トイレに行きたい」と」

「あっちにある、とか言えば普通に行って戻ってくるだろ?」

「普通はな。だが、そのままドアを開けて入った後、出てこないんだ」

「ええ……」

「数日後、いいか、数日経ってようやく見つけて問いただしてみると、「右に行けと言われて入ったから、出たときも右に出た」と意味不明な証言をするんだぞ」

「まず、族長をやめさせろ」

「それができたら苦労はしていない!」


 そう言えば、族長は先代が指名するとかして選ばれたら、まわりがやめさせることはできないんだったか。


「まあ、お前らの苦労はわかるけどさ。この場合、そちらが出向くのが筋じゃないか?」

「……わかった。族長に伝える。できるだけ早く連れてくるから……その、十日ほどここにいてくれないか?」

「約束はできない。今のところこの街に用事は無いからな」

「わかった。できるだけ急ぐから、その……街を出るときには伝言を残しておいて欲しい」

「善処する」


 ニホン人の「善処する」は「やる気だけ見せて、やらない」だけどな。

 エルフたちと別れ、冒険者ギルドへ向かいながらふと疑問を口にする。


「あいつら、十日ほど待って欲しいって言ってたけど、あいつらの里ってかなり北の方だよな」

「そんな感じでしたよね」

「十日で族長をここに連れてくるなんてできるのかな」


 単純に歩いてくるだけでもプスウィの国境からここまで十日ほどかかっている。里へ戻って族長を連れて、となると二十日はかかりそうだ。いや、方向音痴がひどいらしいからさらにかかるかもな。


「エルフの謎技術で伝えたりできるんでしょうか」

「謎技術ねえ……」


 高い木の上に登って、雄叫びを上げて伝え合うイメージがぼんやりと。

 浮かんだので、冗談交じりに話したらエリスが神妙な顔になった。


「あの」

「ん?どうした?」

「雄叫びっぽいのが聞こえます」

「ええ……」


 おかしい。エルフってのはもっとこう、魔法に()けて知的で、弓の名手で……だと思っていたのに、魔法らしい魔法を使っている様子もない脳筋ばかりいるような気がする。

 遠くにいる仲間とのコミュニケーションなんて、風の魔法とか風の精霊の力とかそう言うのを使って声を送る、みたいなのを期待していたのにな。ま、いいや。夢を見るのはこのくらいにしておこう。




「リョータ」

「ん?」

「何か、ちょっと寂しい街だね」

「そうだな」


 ここまで見てきたプスウィの街をさらに上回る寂しさは当然と言えば当然だろう。

 基本的に街というのは地形的に魔の森と通じている谷などを塞ぐように造られていて、構造そのものが魔の森ありきの形をしている。だから、程度の差はあれど、どの街も魔の森から産出される素材を前提としていて、魔の森での活動がメインである冒険者と彼らへの仕事を仲介する冒険者ギルドはどの街でも経済の柱の一つだ。

 当然、冒険者の活動に必要な物資の製造、販売はそれぞれの分野だけでも結構な規模の業界になっているから、冒険者が多く、活発に活動している街ほど活気づいた街になる。

 ではここリワースはどうかというと、いつ頃からかはっきりとしていないが魔の森での行方不明多発によって冒険者の数が激減し、その結果、冒険者に付随する各業界の規模が縮小。連鎖的に他の業界も規模が小さくなり、小さくなった街の経済規模が新たな冒険者を呼び込まなくなりという悪循環に陥っている。

 何しろ冒険者が行方不明になるのがこの街なんだから、一番冒険者が避けるのも当然だ。


「とりあえず街に到着したことはギルドに伝えておくけど、依頼を受けるかというと」

「いやです」

「私も行方不明になりたくないです」


 意見が一致したところで、ギルドに入りリョータが代表して手続きをする。その間、暇を持て余すことになる二人は依頼を貼り出した掲示板を眺めているが、昼を少し過ぎたこの時間でも大量に残ったまま。

 確認する気はないが、何ヶ月も塩漬けになってる依頼とかありそうだな。


「はい、これで手続きは終わりです。ところで「ありがとうございます」

「えっと、実はここに「ではこれで」


 後ろから聞こえる「ちょ、ちょっと待って!」というのを無視してエリス達のもとへ向か……ん?二人が「こっち来て!早く!」と手招きしているので思わず小走りに駆け寄る。


「どうした?」

「これ、これです!」

「あったんです」

「あったって、何が……あ……ジガソウ!」


 奴隷紋のインクの材料はちょこちょこと集めていたが、どうしてもこのジガソウが見つかっていない。大して珍しくもない薬草だが、繁殖力が極端に強い種類ではないため、生息地を知らないと採取できないというちょっと面倒な奴。今までに調べた限り、冒険者ギルドの依頼に載っていたことはないが、採取できないわけではないはずで、買い取り自体は行われているらしいことまではわかっていた。が、貴重品でもなく、扱いも雑で大丈夫なこの薬草は、買い取られると――価格は二束三文以下――すぐに袋にまとめられてどこかへ売り払われてしまう――買い取り価格にちょっと上乗せした程度――ため、冒険者ギルドの倉庫に残っていることはなく、取り置きしてもらおうとしても職員がいちいち気にするような薬草でもないため頼みづらいという、別な意味でも面倒な薬草だ。

 冒険者ギルドは依頼にないものだって有用なものは買い取る。特に急ぎでもなく、魔の森へ出掛けた行き帰りにちょっと採って帰ってくることができる程度のものは依頼に載ることは無く、こうして右から左へと言うのは珍しくない。長いこと一つの街で活動していればすぐにわかることでも、根無し草で移動を続けるリョータたちにはその違いを見分けるのは難しい。そして、下手に「ジガソウってあります?」なんて聞こうものなら「じゃ、ついでにこの依頼と……あ、この依頼も」となってしまいかねないので聞きづらく、ようやくここで採取の目処がついたというわけだ。


「どの辺に生えてるんだ?」

「さすがにそこまでは……聞いてきましょうか?」

「いや、俺が聞きに行く」


 大したことでも無いからと依頼票を手に受付に向かうと、満面の笑みで迎えられた。


「えっと……これなんですけど」

「ジガソウですね」

「どの辺に生えてるかわかります?」

「もちろんです」


 にこやかに紙を取り出してサラサラと地図を描きだした。


「門から入って北西方向、五分ほど歩くと高さ三メートルほどの大きな岩があるので目印に。さらに進むとちょっとした丘と木立。それを抜けると広い草原になります」

「フムフム」

「そのまま真っ直ぐ……歩いて一時間かかるかどうか位でちょっとした木立がありまして、その少し向こう側でよく採取されているようです」

「なるほど」

「ただ、この草原で……その……」

「行方不明?」

「はい。見晴らしもよいですし、強い魔物が出たなんて話もありませんが、何の痕跡も残さずに消えているんです」

「なるほどわかった。ありが「で、この近くなんですが、実はボヒバミの実とかフリエムート石、あとヒズメハトとかキンエリカマキリとかが」


 実によく滑る口だと思いながら「聞く耳持ちませんよ」という笑みを浮かべながら「ありがとう」と告げてエリスたちのもとへ。後ろからは「カサウサギとか!ヒメジモもあるんですけど!」と聞こえるが、どれも聞いたことの無い名前なのでとりあえずスルーしておく。


「場所はわかった。とりあえず宿を取ろ「部屋なら空いてますよ!」


 ……あまりギルドの宿に泊まる気はなかったんだけどな。

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