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  作者: ひじきとコロッケ
プスウィ
262/347

期待の新人現る

「ホーンラビット狩ろうと魔の森に行って、ちょっと奥まで行ったら偶然他の依頼にあった物を見つけて採取してきた……って流れはダメですか?」

「うっ……確かに魔の森のどこに行こうと自由ですが」


 そう、依頼のために魔の森に向かうときは、冒険者ギルドからの指示で特定の場所へ向かうということになる。この場合、その場所や魔物の危険度をギルドが見極めて依頼の推奨ランクを定め、ランクに満たない、つまり実力が足りていない者が要らない危険を冒さないようにして冒険者の安全を守っているというわけだ。

 一方で、常設依頼として出されている依頼は駆け出しでもできると判断しているもので、冒険者が魔の森のどこで採取してくるかは問わない。つまり、冒険者が魔の森に入り、自分の望むままに移動すること自体はギルドは何も制限できないということ。もちろん、危険な地域に行かないように注意はするが、それを守るかどうかは冒険者自身が決めること。

 そう、充分な実力のある者が登録をして、当人の実力的に心配の無い辺りまで進み、偶然他の依頼にあった物を採取してきたとしても、ギルドはそれを禁止できないのだ。


「という感じでどうだろう?」

「そういう手があったか」

「よし、わかった。早速「ちょっと待て」

「え?」

「そろそろ夜だぞ。行くのは明日でもいいだろ」

「それもそうか」


 冒険者登録直後あるあるはエルフにもあるんだなと思いつつ、冒険者向けの宿を教えてもらうと、これまた裏口から出て魔の森へ向かう道沿いに並んでいるという。なぜこのような構造になっているのかというと、単純に大通りを通らずに冒険者が魔の森を行き来できるように考えたからとのこと。

 昔はプスウィも冒険者の多い街だったので、こういう構造はありがたかったのだが、ここ最近は冒険者行方不明事件(?)のせいで冒険者の数が激減。かつては冒険者でごった返していたという通りも実に閑散として……いや、どの宿も入り口で獲物を待ち構える肉食獣の目をした者たちが立ってるな。

 この状況で宿を選べるのだろうか。多分最初の一軒目で捕まって逃げられないのではないか。そう思いながら歩き始めると、予想通り一番手前の宿の前の者が動いた。


「五人一緒か?」

「いや、こっちの三人と」

「こっちは二人部屋でいい」

「なるほど、予算は?」

「予算?」

「素泊まりから高級宿まで」

「んーと、俺たち三人はCランク相当の宿、そっちの二人は駆け出しにちょっと上乗せくらい」

「なるほど」


 客引きっぽい男が納得し、右手を挙げるとパパパッと指を数本立てたり振ったりした。すると、数軒先の宿の前に立っていた者がこちらへやってくる。


「どうぞ、お三方はこちらへ」

「二名様はこちらへ」


 この状況でぼったくりはないだろうと着いていき、それぞれの宿の前に。看板に書かれている料金は王都にある宿としてはごく普通。チラッと二人の方も見るが、問題なさそうだ。


「いかがですか?」

「うん。ここでいいよ」

「ありがとうございます!三名様ご案内!」


 どうぞ、と促されるまま中に入る後ろで「二名様ご案内!」という声も聞こえた。

 案内された部屋はごく普通。お値段通り。今日は朝夕二食付きにしてゆっくりしようと荷を下ろしたところで、エリスが窓の方を見る。


「どうした?」

「声が聞こえます」

「なんて?」

「えーと「どこへ行った?」「朝までここで待つか?」「交代だ」とか」

「なんだかな……」


 二人でポーレットを見ると、


「え?私、悪くないですよね?」


 確かにポーレットは悪くないが、原因ではあるんだよな。

 しかも、こちらでどうにかできる要因が見当たらないという悪いパターン。ではどう対応するかというと、


「ま、気にしても仕方ない」

「え?」

「無視しよう」

「いいんですか?」

「だってさ……関係ないだろ?」

「確かに」


 ということで一切気にせずに、晩メシにするが、王都のくせに今ひとつだ。

 そもそもの物流が安定的な護衛である冒険者の不足により滞りがちになり、魔の森からの物資の供給も少なくなったためというのもあるのだが、街の外の森をエルフがおさえているせいもあって、普通の森の恵みも街にはあまり入ってこないからだ。


「これなら村の方がずっとよかったかもな」

「ですね」


 畑の取れたて野菜たっぷりというのは意外に贅沢なのかも知れないと思い、さっさと街を出ようと心に決めた三人だった。

 翌朝、一応はあの二人が依頼を受けて魔の森に行くところまでは見送ろうと冒険者ギルドへ向かう。裏通りから入っていくと、既に依頼を貼り出した掲示板の前で二人があれこれ吟味しているところだった。冒険者の絶対数が少なすぎて、他なら依頼の取り合いになっているか、既に閑散としているかのいずれかの時間帯だというのに、依頼は大量に貼られたまま。()り取り見取りだ。


「お、おはよう」

「おはよう。どうです?いいのありました?」

「うん。こんなに色々あると、目移りするな」

「全部受けたいけど、ランクが足りないんだよ」

「はは……ま、採取する物をメモしておいて、無理の無い範囲でやればいいと思いますよ」

「だな。全部一日でやるなんて無理だもんな」


 そう言いながら「これならすぐに見つかるだろ」という物をメモした二人はギルドを出ていった。


「じゃ、行ってくる」

「お気をつけて」


 さて、背後にいる受付嬢の圧がすごいんだけど。


「リョータさん、できればこれを受けて欲しいんです。あと、これとこれも」

「無理です」

「そこを何とか」

「いやです」

「人助けだと思って」

「誰を助けるか具体的に聞いていいですか?」

「主に私ですね。このままだと給料がもらえなくなります」


 結構深刻なことになっていた件。


「俺たち、先を急ぎたいんですよね」

「ええ……」

「それに、あの二人です。さっき出て行ったあの二人がきっと活躍してくれますって」

「……なんか捕まってますけど」

「え?」


 冒険者ギルドの入り口は余程天候が悪いときでもない限り開けっぱなしになっていて、外の様子がよく見える。


「なんだあれ?」

「リョータ、「お前ら何やってるんだ」とか「里の掟が」とか言ってたよ」

「ええ……」


 イケメン風マッチョの集団がギルドから出たばかりの二人――正座させられている――を取り囲んで何やら説教をしているようだが……


「そうか、街に入ったのがバレたんだな」

「みたいですね」

「ま、あれはあれでなんとか自力で切り抜けてもらおう」


 エルフが独自に決めたルールに部外者が口を挟むものではない。が、その様子を見ている野次馬に混ざるような流れで――受付嬢から逃げるために――ギルドを出る。


「貴様ら、掟をなんだと思ってる?」

「そもそもの使命はどうした?」


 なんか色々やってるので邪魔しないように通り抜ける。明日からまた三人の旅。色々と買い足しておかないとね。


「あ!」

「ちょ!ちょっと待て!」

「待てってば!」

「おい!」


 後ろで何か騒いでいるようだが、野次馬のせいで身動きが取れなかったようで追ってくることはなかった。

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