お届け物完了
森エルフとプスウィの街――この場合はプスウィ政府になるのだろうか?――の間で取り決めがあって、許可証の有無で街への出入りの許可や通行料の支払い有無が変わるのかと思ったらどうやら関係ないらしい。
「もしかして、許可証がないまま街の出入りをするのを他の森エルフに見られると問題になる?」
「ああ。だからもしも見られた場合には」
「場合には?」
「飯や酒をおごったりして族長に報告しないように頼み込むんだ」
何だかとってもいい加減だな。
とりあえず、二人は隠れてこそこそついてくる必要性がないと言うことで、堂々と一緒に王都へ向かうこととなった。リョータとしてはこの二人を王都に連れて行く必要性は感じないが、二人にとっては、見張り、追跡を続けている、と言う体裁が必要とのこと。体裁で良いのかという意見は飲み込むことにした。
「おお、見えてきたな」
「あれが王都か」
今までに立ち寄ってきた各国の王都とそれほど違いはない。せいぜい周囲の森が近く、深いことくらいか。いや、行き来する人の数が明らかに少なく、街の出入りの行列が短いかな。
「一応聞くけど、自分たちの通行料は?」
「持ってるよ」
通行料をたかってきたら遠慮なく衛兵に突き出そうと思ったが、その心配は無くなった。
何ごとも無く王都に入り、中央大通りをそのまま進んでいく。
「えーと、ルズベル商会の支店は……と」
「まずはこのまま真っ直ぐですね」
エリスが地図を見ながらスイスイと進んでいく。やはり冒険者の数が少ないせいか、街の活気もあまりないように感じる。歩きやすくていいけどな。
しばらく進むと街の中央で大通りの交差するところが見えてきた。なんというか、定番というか、大きめの広場になっていて中央には噴水があり、周囲には軽食を出す露店も並んでいる。夕方という時間帯のせいもあってかあまり人はいない。夕食を露店の串焼きで済ませる人はあまりいないのはどの街でも似たようなものか。
冒険者ギルドはこの広場の右手奥側。他の国では冒険者が一番出入りする時間帯のハズだが、閑散としているのがここからでもわかるほど。大丈夫なのかね、と他人事ながら心配になる。
そしてその先に二十名ほどがずらりと並び、中央に一人大柄な男性が腕を組み、目を閉じて立っている。誰かを待っているのだろうか?人通りが少ないからいいが、ちょっと通行の邪魔だよな。
「リョータ、どっちに行きます?」
「冒険者ギルドには達成報告と一緒でいいだろ。先にルズベル商会だ」
「わかりました。なら、ここを右です」
エリスに続いてゾロゾロと右へ曲がっていく一行。
「ようやく来たか!待ちかねたぞ!」
後ろで声がする。誰かを待っていたんだろう。待ち人来たらずとならなくて良かったなと思いながら進んでいく。どうやらこちら側の通りというか街を左右に突っ切るこの通りはルズベル商会のような商会が店を並べている通りらしく、両側に色々な店が建ち並んでいる。もっとも時間帯的に店じまいの時間なのであまり人通りはないが。
そのまま歩いて行くと、後ろからバタバタと走ってくる大勢の足音が近づいてきて、そのまま追い越して行った。先ほど見かけたあの団体様だ。どうやら用事が済んだのでどこかへ行くのだろうか。そんなに走るほどの急ぎの用でもあるのだろうかと思っていたら、二十メートルほど先で止まり、先ほどのようにずらりと並んだ。あまり道を塞ぐなよと言いたいが……ま、いいか。
そしてその手前、左側の店の前でエリスが立ち止まる。見上げた看板にはルズベル商会の名前が書かれていた。
「ここですね」
「無事に到着だな。中に入ろう」
「あれ?俺たちも一緒でいいんです?」
「中で盗みや暴行をする予定がある?」
「ないよ」
「なら別に問題ないさ。運んできた荷物を納品して終わりだし」
そんなことを言いながら、エリスに続いてドアをくぐっていく。全員が入り、扉が閉じた頃、外から馬鹿でかい声が聞こえてきた。
「ようやく来たか!待ちかねたぞ!」
うるさい連中だな。誰を待っていたんだ?
無事に納品を終え、依頼票に完了のサインをもらい店を出ようとしたところで呼び止められた。確認に少し時間がかかったせいで店の閉店時間を過ぎてしまったので裏口からどうぞ、と。こちら側から行くと大通りの雑踏を避けて冒険者ギルドまで行けるんだってさ。
程々に広い割に大きな店の裏口だけが並んでいるので王都に住む者もあまり通らないとのことで、すぐに冒険者ギルドへ到着。なんでも、冒険者がギルドに納品した者をここから求めている商会へ運ぶための通路として使われる通路なので、人通りが少ないのも当然かと思いながらギルドへ入り、依頼の完了と街への到着報告を兼ねて受付に向かう。
「はい、確かに承りました」
「ま、二、三日したら出るんだけどね」
「え?」
「いや、特に用はないし」
「その……お時間があるのでしたらコレとかコレとか「いやです」
もう何日も塩漬けになっているような依頼票を持ってきたので即座に断る。
「そこを何とか」
「そう言われても……」
内容は採取依頼。魔の森の魔物の素材だったり薬草だったりとごく普通なんだけど、見た感じ魔の森の奥の方まで行かなければならないらしく、相当な腕前の冒険者でないと難しそうだ。
そして受付嬢の様子から察すると、どうやら、今王都にいる冒険者は駆け出しにちょっと毛が生えた程度のようで、このレベルの依頼をこなすのはちょっと難しそうと言う状況らしい。
つまり、実力的にはリョータたちにうってつけの依頼なんだろう。だが、とても重要な問題がある。リョータたちはここの魔の森を知らない。「○○が生えているところ」「△△がよく現れる地点」そういった情報を一切知らないので、時間がかかりすぎて効率が悪い。もちろん、ギルドで訊ねれば教えてくれるだろう。ただ、内容は「だいたいこの辺りと聞いてます」というレベルだろうから、結局探し回ることになりそうだ。
三人の旅は急ぎの旅ではない。だが、これらの依頼を受けたら「ではこれも」「これもお願いしたい」となりかねない。この街に根を下ろすつもりのない三人にとって望ましい流れではないと言えるので、お断り一択だ。
「なあ」
「ん?」
「それ、俺たちが受けること、できるの?」
レオボルとニキアスがそろって食いついてきた。
「採取できる場所に心当たりがあるのか?」
「何度も採取したことがあるぜ」
「なら任せるよ」
そう言って二人に受付前を譲る。
「ええと……冒険者ギルドへの登録からでよろしいでしょうか?」
「「よろしいです」」
「ではこちらに記入を」
これで解決だなと胸をなで下ろし、記入し終えるのを待つ間に近くの宿の情報をもらっておく。
「これで登録は完了です」
「よし、じゃあその依頼を受け「無理です」
「「は?」」
だろうな。冒険者としての経験を積んでないから依頼を受けるためのランクが足りないんだよ。
「と言うことでリョータさん、こちらの依頼を「お断りします」
元の流れに戻ってしまい、冒険者登録できたとはしゃいでいた二人がしゅんとなる。異世界に来た日本人かよと突っ込みたいのをグッとこらえる。
が、抜け道はいくらでもある。
「依頼の内容はどちらも採取。採取する物はこれとこれ……二人ともいいか?」
「え?あ、ああ……うん」
落ち込んでいた二人に改めて確認する。採取できるかと。答えはイエス。なら問題は無い。




