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  作者: ひじきとコロッケ
プスウィ
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森のエルフたち

 そんなふうにして過ごした翌日、転移魔法陣で戻ってみると雨はすっかり上がっていて、地面が少々ぬかるんでいるほかは旅をするには良い日和となっていた。


「さて、いよいよプスウィだ」

「すごい森ですね」

「うん」

「エリス、どう?」

「これはダメかなと思います」

「そうか」


 普段旅をしているときはエリスが周囲を警戒しながら歩いているのだが、ここまで鬱蒼(うっそう)と生い茂る森の中ではその能力が発揮できない。普段なら気にならないレベルの風で枝葉が揺れて音を立てるし、匂いも木々の香りで遮られてしまうからだ。

 と言っても、猪なんかの野生動物が飛び出してくるのさえ気をつけていれば問題ないだろう。盗賊などが茂みに隠れ潜んでいたとしても、エルフが捕まえてどこかへ連れ去るらしいので、ある意味安心だし。




「静かすぎて気味が悪い」


 そういうリョータの意見に二人がブンブンと頷く。

 大陸西部からここまでずいぶん長いこと旅をしてきたが、ここは異様な道だとしか言いようがない。

 通常、何もない道でも風が吹けば草木が揺れ、時折鳥がさえずったり、小動物が茂みを駆ける音がしたりするものだ。そう、エリスのような超人的な聴力でなくても、それなりにザワザワと耳に聞こえてくるのが普通。それが全く聞こえず、三人が歩くときに踏みしめる土の音と、それぞれが背負う荷物が揺れるかすかな音がするだけ。


「静かすぎて耳が痛いです」

「私もです」


 まだ社畜になる前、大学時代に別の学部の友人に実験用の無響室というのに入らせてもらったことがあるが、あれと同じ。音がしなさすぎて耳の血管の音がうるさいという状況に近いと言える。


「歌でも歌いながら行くか」

「そうしましょう」

「じゃ、ポーレット、よろしく」

「え?」


 そこは言い出しっぺのリョータでは?と言う視線を向けてくるが、残念なことにリョータはこの世界で一般的な歌を知らない。前世の歌は全部日本語で歌うことになるので二人には伝わらない。エリスはと言うと、獣人の間では歌を歌うという文化はあまりないとのこと。一応、村の祭りで打楽器を打ち鳴らすことはするらしいが、歌という形になっているものは無いらしい。


「ええ……」

「いいだろ、減るモンじゃなし」

「わかりました。では……コホン」


 あー、あー、と喉の調子を確かめるようにした後、スーッと息を吸い、


「∇wトぁ∴υの∞αサ⊂ほkを□い∴ギ※へ/¥ゴ∫ガ~♪」


 左右でドサッと何かが落ちて、リョータが目眩を感じると同時に、バタリとエリスが倒れた。


「エリス!エリース!」

「ちょ、なんでそうなるんですか?!」

「それはこっちの台詞だ!」


 エルフが歌がうまいかどうかは知らないが、これはいくらなんでも酷い。青狸アニメのガキ大将よりいくらかマシだろうが。


「ま、まあ……久しぶりに歌いましたし」

「そうか。俺たちのそばでは二度と歌うなよ」


 どうにかエリスを抱え起こすと、その尻尾で二回ペシと叩かれた。

 そして左右の茂みがガサリと動き、合わせて五人が這い出すと、エリスをポーレットに任せて剣の柄に手をやりながらそちらを見る。


「く……わ、我々に気付いていたというのが」

「えーと……そ、そうだ。手っ取り早くあぶり出そうと思ってな!」

「いつから気付いていた?」

「答えるわけが無いだろう?」


 エリスすら気付かなかったものをリョータが気付いているわけがないが、あちらが勘違いしているならそれに乗っかっておこう。


「で、何者だ?」

「それはこちらの台詞だ。そこにいるのは我らの同胞……む、違う?!」

「ん?なんの話だ?」


 全員そろってギリースーツのような物をまとってその姿は(よう)として知れないというのに、そこにいる同胞?違う?エリス?ポーレット?どっちだ?


「い、いやしかし……ん?奴隷?な……貴様!」


 どうにか体勢を立て直した五人の雰囲気がスッと変わると同時にリョータも剣を抜く。


「それ以上近づくな。用があるならそこで言え」

「そうは行くか。どう見ても一対五。こちらが有利だぞ」

「そうか。ドラゴンの腹を切り裂き、サンドワームをスパスパ切り裂く魔剣の切れ味を試したいなら来い」

「「「え?」」」


 スッと姿勢を低くし、剣先をトッと地面に突き立てスイッと滑らせる。


「この地面より固い自信のある物だけ来い」

「ま、待った!待ってくれ」


 待つも何も先に臨戦態勢に入ったのはそちらだろうにと、とりあえず構えは解く。まあ、この距離なら飛び込んできた瞬間に最大威力のスタンガンでも対応できるか。


「いくつか確認がある」

「その前に顔を見せろ。全身隠した者に気を許すつもりはないぞ」

「スマン……」


 そう言って、先ほどから声を発していた先頭にいた者がなんとも怪しげな形の仮面を外し、ギリースーツのようになっている服の頭をバサッと取り払うと、そこから出てきたのは、


「エルフ?」

「そうだ。この辺りの森の守護者だ」

「ふーん。で、その守護者様が何の用だ?」

「それはだな……っと、その前に名乗っておこう。ヴァルター・テシュ、この辺りの族長の元、警備隊の隊長をしている」

「ご丁寧にどうも。冒険者のリョータ。こっちの獣人はエリス。でかい荷物を背負っているのがポーレットだ」

「そうか。そのポーレット、奴隷だな?」

「借金があるんだよ」

「な……借金だと?誰にだ?!」

「書類上は俺だな。額面は聞かない方がいいぞ」

「参考程度に聞きたいが」

「大金貨二桁後半」

「「「は?」」」


 ポカンと間抜けな顔をする一同に、リョータもリョータで色々と失望していた。

 エルフって……こんなマッチョなのかよと。

 リョータのイメージするエルフというのは体格は華奢で顔立ちは男女ともに美形と思っていたのだが、そのイメージは崩壊しつつある。

 そう。上背があるのはわかる。すらっとしたイケメンとかイメージに近いからな。だが、体格がどう見ても……な。

 ギリースーツっぽいのがもこもこしていたのでぱっと見で体格がわからなかったのだが、フードっぽいのを取り払った裾から見える肩周りや、袖口から見える手首はゴリマッチョの分類。ついでに言うなら顔立ちも強面で、戦闘ヘリを弓矢で撃ち落としていたハリウッド俳優のマジ顔が可愛らしく見えそうなほど。

 ポーレットがハーフとは言え、エルフの血を引いていて美少女然とした顔立ちなので純粋なエルフは相当な美形かと思っていたのにこれだ。裏切られた感がハンパない。


「で、何の用だ?」

「我々は森の警護を担当している者でな」

「それはさっきも聞いたような気がする」

「う……うむ。まあ、この辺りの警備を担当しているという関係上、この街道を通る者を常に警戒しているのだが」


 常時監視とかご苦労なことで。


「そうしたら、ヘニングの奴が同胞とおぼしき者がいると」


 ヘニングってここにいるお仲間の中にいるんだよね?顔が全部ゴリマッチョ系で区別がつかんのだが……ま、いいか。


「で、確認しに来たと」

「そうだ。そうしたらなんと、汚らわしい半端もうぐぅおぁっ!」


 ドゴォッと音を立てて吹っ飛びながら二回転して地面に伸びた。殴ったのは……エリスだった。


「エリス、落ち着いて!」

「いいえ!これ以上は我慢できません!」

「いいから落ち着いて!」


 必死に後ろから抱き止めるのだが、ほぼ効果無しでそのままズンズンと進んで行ってしまう。


「エリス……頼むから(・・・・)止まってくれ!」

「で……でも……」

「気持ちはわかる。だけど話を最後まで聞いてからでもいいだろ」

「は……い」


 俺としてはエリスに命令(・・)はしたくない、という意図をわかってくれたようだが、握りしめた拳が、彼女の怒りっぷりが結構ヤバいレベルにあることを告げている。

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