王様だって苦労した
「全く……せっかく隠し通せそうだったのに、ばらす羽目になるとはな」
ドカッと椅子に座り足を組んでニヤリと王様が笑う。
「改めて自己紹介だ。俺がルルメドの王であり、ルルメドの冒険者ギルドのギルドマスターであるダニエル・ルルメドだ」
チラッと横にいるマシューさんの方を見ると、うんうんと頷き返してきたので本当なんだろうな。ロレッタは固まっちゃってるな。エリスは特に変化はなし。ポーレットは口から魂が抜け出てるな。放っておいても自然に戻ってくるだろうからそのままでいいか。
「あの、一つ質問があります」
「仕方ない、答えてやるが、どうせアレだろ。冒険者ギルドは国とは独立した組織のハズとかそう言うことだろ?」
「ええ、まあ」
「確かに独立して動いている組織だが、国と完全に切り離せるもんでもないというのはわかるか?」
当たり前の話だ。
ほとんどの国で同じ事が言えるのだが、魔の森に面した街を整備、維持しているのは国であり、基本的に街の中の土地は全て国のもの。どんな大きな商会の店舗も、庶民が暮らす集合住宅も全て国の所有する土地を借りているという体で、税という形で賃料を払っている。
そしてそれは冒険者ギルドも同様。街の一等地を広々使っているのは組織の運営上必要と認められている一方で、広さに応じた税を支払っている。国と切り離せない要因の一つだ。
そして、国としても何か面倒なことがあったときは依頼という形で冒険者ギルドに仕事を出して、片付けるのはよくあること。つまり国側も冒険者ギルドを切り離すことは出来ない。
そういう意味では持ちつ持たれつ……と言うわけでもないか。ちょっと特殊な仕事をしている商会があるだけ、と考えるのが自然な感じだろうな。
「さて、俺は……もともとはこの国の第五王子として生まれた。その時点で王位を継げる見込みはなかったんでな、王族として受ける教育は最低限だった。一方で、腕っ節は騎士相手に互角以上だったんで、十六か十七の頃に冒険者登録をしたんだ。自分の食い扶持は自分で稼げるようになりたいってな」
まれに貴族でそういう人がいるが、王族、それも王子でそう言うことをする人は結構珍しいはずだ。
「楽しかったぜ。色々な街に行って、魔の森で魔物ぶちのめして、仲間たちと騒いで、とかな」
「わかります」
「だろ?だが、俺が二十を少し過ぎた頃、ルルメドは滅亡しかけた」
「へ?」
「ちょうど俺がプスウィ、ルルメドの南にある国にいた頃、ルルメドで疫病が蔓延した。わかる限りで、王都の住人の半分が命を落とした」
幸い王都以外に広まることはなかったのだが、それでも人口が半分になるというのは壊滅的と言える事態だ。
「俺に出来ることはないかと国に戻ろうとしたが、「落ち着くまで戻ってくるな」という連絡が入った。そして一年経って王都に戻ったら、四人の兄と二人の弟の他、姉も妹も全員死んだと告げられ、当時の王、つまり俺の父も程なくして死んだ」
つまり、いきなり王位継承権が一位になり、王にならざるを得ない状況になったと言う訳か。
「そして……ひでえ状況は王宮だけじゃなかった。冒険者ギルドを始めとする、色々な組織も大打撃でな。当時、冒険者としては燻っていたが、そろそろ引退してギルド職員に転職しようとしていた奴が強固に推してな……仕方なく、他の色々なギルドのギルドマスターまで兼任だ。王位に就いて早々責任重大。どんだけ大変だったかわかるか?」
「わかりませんし、知りたくもないです」
「お前、少しは隠せよ」
「っと、つい本音が」
言葉では咎められているように聞こえるが、実際には嬉しそうに笑みを浮かべている。
「フフン……王を前に言葉を選ぶこともせず、萎縮もせず。なかなかいいな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「話がそれたな。とにかくそんな状況だったんでな、国内にある色々なギルドの大半のギルドマスターに担ぎ上げられたんだよ」
「大半?」
「おう。冒険者ギルドだけじゃない、商業系のギルドに職人系のギルドがざっと五十。どこもかしこも疫病でトップがバタバタ死んだんだ。で、生き残ったのは自分の身の回りで手一杯の若手ばかり。組織全体を見て指示を出せる者がいないところが一斉に泣きついてきたんだよ」
「それで引き受けたんですね」
「国の危機だからな。ロクに王としての教育を受けていない上に、王族としての経験もほとんどない、荒事だらけの冒険者上がりだが、彼らにしてみれば庶民の目線で物事を判断してくれるんじゃないかと期待しての陳情だったらしい」
なるほど、冒険者として稼いで飲み食いしていたのなら、少々普通の庶民とはズレているかも知れないが、純粋な王族よりは庶民感覚が身についているだろう。
「もちろん、俺の感覚が、プロの連中、つまり本来のギルドマスターの持っている感覚とズレているのは承知の上で来ていたと思うぞ」
「先頭で旗を振る人物が欲しかったって事ですか?」
「そんなところだろう。それに都合がいいところもあった」
「都合がいい?」
「グチャグチャになった王都、ひいては国内あちこちのギルド支部とそこと付き合いのある連中をどう使ってどうやって立て直すか。普通ならギルドマスターを始めとした幹部が集まって、ああでもないこうでもないって話を繰り返して落としどころを見つけてようやく動かせるでかい組織を、俺が「こうしろ」「ああしろ」で動かせるからな」
完全に独裁者の意見だな。
「もちろん、それがいいことじゃないってのは承知していたさ。だが非常時だ。とあるギルドが損を被ってもそれで復興が進むなら一時的に税を減免してやるとかすれば、どうにかなる。そうやって七転八倒しながら復旧させて徐々にギルドマスターの座を明け渡してきたんだが、冒険者ギルドだけ「こいつ」というのがなかなか出なくてな。未だに俺がギルドマスターだ」
軽いノリで話しているが、かなりの苦労人だ。だが、それをそうと感じさせず、むしろ「俺がここまで立て直した。どうだ、すごいだろ」という風に誇っている。
「さて、そんな今までロクに話して聞かせたこともない俺の苦労話を聞いて、お前はどう思った?」
ロレッタが「うっ」と言葉に詰まる。
「これが特にコレと言った問題のないような時期で、リョータたちの事情も握りつぶせるような状況なら、俺も「是非ともロレッタと婚姻を」と命じただろうが、まだ色々と混乱は残っている」
「え?だいたい復興が終えたのでは……」
「お前の教育、失敗したかな」
「え?」
「復興したと言ってもまだ表面的だ。違う言い方をすると、庶民の生活はどうにか立て直したが、国内の貴族連中は一連の流れを面白く思ってないのが多い」
ギルドによっては貴族とズブズブの所もあったのだろう。そしてそれが一斉に粛正されてしまったとしたら?
「つまり、俺にとってお前は利用価値がある娘だ。リョータの事情を考えてみると、嫁がせても価値はないだろ?」
言葉を選べよと言いたい。
「そ、それでは……なんのために呼ばれたのでしょうか?」
「なんのためって、そりゃあ……賑やかし?」「は?」
「お前も含めてアリシラも見ての通り呼び戻しているが、この二人がこの場にいなかったらと想像してみろ。ちょっと寂しいだろ」
なるほど、こちらはリョータたち三人に、冒険者ギルドから三人の計六人。対してあちら側は王様に王妃三名と末っ子の王子一名だと五名。人数バランス的に王様側が多い方が格好がつくから二人の王女をここに呼んだのか?
「お前、まさか……リョータに惚れたのか?」
「え?ち、違っ!そんなことはっ!」
その反応は絶対ダメな奴ぅ!




