王都到着&定番イベント消化
この妙な空気感にジェロルドとドリアルも苦笑いで、助けてくれる気配はない。エリス?般若になってるよ?
断ろうかと思ったが、かなりこじれそうなので、エリスをなだめながら仕方なく従うことにする。
「よし、じゃあ御者は俺たちが」
「え?」
「まあ、後は若いもんに任せよう」
「そうだな」
と言うことで、御者台にジェロルドとドリアルが座り、馬車の中にリョータたちと王女様たち。居心地が悪いったらありゃしない。
「さて、色々聞かせてもらいますわ」
「何も話す事なんてないですけどねえ……」
「まずは……好きな食べ物は?」
え?そこ?聞くとこそこなの?
「えーと……ラーメン、カレー、カツ丼」
「え?ら、らー何?」
日本語の発音のままで伝えたら当然うまく伝わらず。エリスもキョトンとしている。
「俺の故郷の伝統料理です。村でしか食えない料理みたいですね」
「それはどんな食べ物ですの?!」
「説明しづらいですね」
「作り方はわかりますの?」
「わかりません」
「え?」
「死んだ爺ちゃんがよく作ってくれたんですが、作り方は聞いてないんですよ」
「作ってるところをみていたりとかは?」
「爺ちゃんに「いいか、見るなよ」と言われましたので」
「うう……」
口から出任せとはいえ、そんなことを口走ってしまったら思い出してしまった。ラーメン……カレー……食いたいな。米も醤油もこの世界では無理と言われていたし、実際無理っぽいから諦めてるけど。
もちろん、米や醤油、味噌がなくたって、塩ラーメンとか、カレーのルーだけ作ってとかあるじゃないかと言われそうだが、無理だよ。前世で俺が作ったことがあるのって、インスタントラーメンにインスタントのカレーだから。
こっちの世界にも小麦粉をこねて麺にした料理はあるし、各種スパイスを使ったカレーっぽいスープみたいな料理はある。だが、ラーメンっぽい麺と言うよりスパゲティ、カレールーと言うよりもトムヤムクン、といった感じで全くの別物。
エリスのことが落ち着いたら、こっちの世界にある物でそれっぽい物を作るってのも面白そうだけど、こっちの料理はこっちの料理でどれもこれもウマく、それを越えられるものを作れる自信はない。
「うう……リョータ!」
「はい?」
「リョータは私のことが嫌いなんですか?」
「なんでそういう話になるんです?」
「質問しているのはこちらです!答えなさい!」
これ、どう考えても国王からの緊急の呼び出しの真の目的が「王都までの旅に便乗し、リョータをおとせ」だよね。そういう指示が出てるよね。
「好きか嫌いかで言えば」
「はい」
「どちらでもない、ですかねえ」
「はあ?」
「今のところ護衛対象ですから、そういう好き嫌いの感情以前の問題です。あと」
「あと?」
「それほど王女様のことを知りませんから」
「なら、これからもっと詳しく知れば」
「知る必要を感じないんですが」
「どうしてですの?」
「だって、あと少しで王都に着くでしょう?」
「ええ」
「そしたらそこでお別れです。王様に呼ばれているので、その時に顔を合わせるかも知れませんが、それまででしょう?」
「うう……」
出来るだけ角の立たないようにしたつもり。だけどこれ、まだ一悶着ありそうだな。
日が暮れるまでに王都に着きたいというはやる気持ちはあるが、二時間程度走らせたら馬を休ませる必要があるので少し休憩。
とても機嫌の悪そうな王女様のそばにいるのは精神衛生上よろしく無さそうなので残りは御者台にと思ったら、ダメ出しが出た。
「お前……あの空気に俺たちを放り込むのか?」
「ええ……」
そこは経験豊富な大人としてうまくやって欲しいところなのだけれど。
とは言え、馬車内に入らない方法はいくらでもある。
「もうすぐ王都です。念のため監視体制を強化するので外にいますね」
「え……」
屋根の上と馬車の後ろに見張りが座れるような場所があるので、それぞれにリョータとエリスが陣取る。ポーレット?胃が痛そうにしてるけど、馬車に放り込んだよ。
日が傾きはじめ、そろそろ暗くなってきたかという頃に王都が見えてきた。どこの国も王都というのは栄えている街。ルルメドも例外ではなく、街へ入るための検問待ちの列が出来ていた。どうやらここは夜になると閉めてしまうらしいので駆け込みなんだろうな。
ジェロルドが馬車を操って列の最後尾につこうとしたら、門の方から騎士が数名やってきた。
「止まれ!止まれ!」
「っと、はい。止めました」
「確認する。冒険者ギルドの職員ドリアルは?」
「私です。こっちがジェロルド」
「身分証を」
「はいどうぞ」
いきなり物々しいなと思って見ていたら睨まれた。
「そこにいるのは誰だ?」
「Cランク冒険者のリョータです」
「冒険者証を」
「はい」
「ふむ……なるほど。そっちにいるのは?」
「同じくCランク冒険者のエリスです」
エリスが答えながら差し出した冒険者証を一瞥すると、
「この馬車にロレッタ様は?」
「乗ってますね」
屋根から降りてドアをノックすると、外の様子を窺っていたのだろう、侍女さんが扉を開いた。中でピシッと姿勢を正す王女様に、なんだか少し痩せたように見えるポーレット。
王女の無事を確認すると、騎士たちが整列してビシッと敬礼をする。
「お待ちしておりました。詰め所前に馬車を待たせております」
「わかったわ。そこまではこのまま進みます」
「ハッ」
こうして騎士にエスコートされながら馬車は王都の門をくぐっていった。
門をくぐり抜けた先には立派な馬車が一台。周囲を騎士が固めており、馬車の前には老紳士が一人。多分「爺や」とか呼ばれるタイプの人なんだろうなと勝手に思っておく。
やがてこちらの馬車も止まり、侍女さんたちが降りてきたあとに王女様が降りてくる。
「お帰りなさいませ、ロレッタ姫様」
「……」
「どうかされましたか?」
「いえ、なんでもないわ」
そのまま馬車の方へ進み、馬車に乗ろうとした手前で振り返り、王女は爺やに訪ねる。
「……リョータを連れて行かなくても大丈夫?」
「謁見は予定通り明日となっております。明日の朝、迎えを出しますので」
「そう……ならいいのね?」
「はい」
王女が乗り込むと侍女さんたちが続き、扉が閉められた。が、すぐに扉が開いた。
「リョータ!」
「え?あ、はい。なんでしょうか」
「護衛ご苦労様!」
王族が労いの言葉をかけるなんてと思わず固まっていた間に扉が王女自身の手によって乱暴に閉じられると、騎士たちに囲まれながら馬車が走り出した。
「あー、えーと……とりあえずギルドに行くか」
「そだな」
ドリアルが騎士の一人から依頼完了を示す書類を受け取っていたので、そのままギルドまで向かう。
夕暮れ時を迎えた王都の道は結構な混み具合だったが、馬車が大きい分よく目立つ。人々が道を空けてくれたおかげで、すんなり冒険者ギルドに到着し、ジェロルドが馬車を裏手に動かしている間にドリアルと共に中へ入る。
王都のギルドだけあって冒険者の数も多く、受け付けカウンターはごった返しており、反対側の酒場に至っては既に出来上がっているどころか潰れているものまでいる始末。
「すごいですね」
「ん?そうか?って、今まで他の国でも王都のギルドに行ったことはあるだろう?それとそんなに変わらないと思うんだけど」
「うーん、王都のギルドってもめ事が多そうだからこのくらいの時間帯にはあまり」
「ふーん」
そのままドリアルの後に続いて奥へ行こうとしたところで、いきなり目の前に男が一人立ちはだかった。
「おいおい、ここはいつからお子様の遊び場になっ「スタンガン」
いい加減お約束はお腹いっぱいなので、早々に退場願い、奥へ向かう。後ろでは「なにやってんだよ」「飲み過ぎじゃねえか?」という声が聞こえるが、とりあえず気にしなくていいだろう。
「あとでまた絡まれる流れでは?」
「そのときはさらに実力行使ですよねっ」
心配性なポーレットに対し、妙に好戦的なエリス。ホント、大丈夫なのかね?




