「リョータの魔法」
昼食もそこそこに呪文の構築に熱中している三人を呆れた目で眺めながら、片付けを終える。昼食の用意、片付けは当番制だったハズなんだがな。ま、いいか。
呪文の構築は未だ難航。毛糸のマフラーでバチバチする現象は、一応知られているものだったが、暗い所だと光るというのは三人とも知らなかったらしい。まして、それが雷の小型版であるという認識は誰もしていなかったため、呪文の中に「毛糸のマフラー」とか「髪をワシャワシャ」というしょうもない単語が見え隠れする。
もちろん、魔法によって引き起こす現象を説明するという意味では間違ってはいないのだが、イメージが具体的すぎるせいで、充分な電気が溜まる前に放出されてしまい、思ったような効果を引き出せないようだ。
「リョータ」
「ん?」
「囲まれてる」
「わかった」
一言アドバイスでもしようかと思った矢先、エリスが囲まれていると告げてきた。こんな状況でも周囲の警戒を怠らないエリスは偉いな。
「人数は?」
「わかんない。三十くらいいると思う」
「多いな」
ラノベによっては探知スキルなんて言う縁なものがあって羨ましい限りだが、エリスの索敵は音や臭いで判断するので、大勢がまとまって移動していると正確に判別できない。だが、広がり方から判断して三十くらいと考えているようで、これまでの実績から見ても多分合ってるだろう。
「盛り上がってるところ悪いんですが、囲まれてるそうです」
「げ、マジか」
「全方位?」
「みたいですね」
コクコクと頷くエリスに全員が少し緊張する。何がマズいってこの三人、丸腰だ。では武器はどこかというと馬車の中。全く以て緊張感が足りないというか何というか。
「どうします?」
「逃げる時間はないな。対応するしかないが……任せても良いかな?」
「わかりました」
「申し訳ない」
この緊張感の無さで元Bランクとか、ランク詐欺じゃないですかね?
そんなことを考えていたら、周囲を囲む茂みから一斉に賊が飛び出してきた。
「金目のモンをよこしな!」
「女は殺すな!あとで楽しむんだ!」
「男は殺せ!」
「いや、あの少年は使い道がある、生かしておこうぜ!」
何か不穏な声が聞こえるなと、全員斬り伏せる方向で考えをまとめながら剣に手をかける横で、エリスが両手を前に突き出してブツブツと言い始めた。
「リョータの魔法……リョータの魔法」
「あのー、エリスさん?」
ブワッと髪と尻尾の毛が静電気で逆立つ同時にエリスが正面の数人をキッと睨み付ける。
「リョータの魔法!」
途端にこちらに正面から向かっていた五、六人の目の前に青白く輝く球が生まれ、バチッと一度弾けて一番近くのものに落雷。直後、そのすぐ傍、すぐ傍と次々と電撃が伝播していき、あっという間になぎ倒してしまった。
「出来ました!リョータの魔法!」
「あ、うん。そうだね」
なんだか微妙な名前の魔法が生まれた瞬間だな。
「クソッ!何だ今のは?」
「魔法か?!」
「馬鹿な!獣人が魔法を使えるはずが」
「ひるむな!数はこっちが上だ!」
「「「おう!」」」
あ、引かないんだ。
それじゃ遠慮なく。
「スタンガン連射」
バチバチッと全員のすぐ傍に電撃を放ち、昏倒させた。さて、あとはどうするのがいいのかな?
「申し訳ない。本来なら私たちが迎撃すべきところを」
「いえいえ」
「この分は報酬を出すように手続きしますので」
ギルド的には今のを彼ら二人が対応しなかったのはマズいらしい。もっとも、状況によってそう言うことはありうるので、厳罰とかそう言うのはないらしいけどね。現場放棄していたわけでは……ん?丸腰の時点で現場を放棄してるのか?とりあえず今後は気をつけてもらうようにだけ言っておこう。
「で、こいつらどうします?」
「手配書は回っていなかったと思いますので、新興の盗賊団か、どこかから流れてきたか」
「三十人というのは結構な規模ですから、どこかにアジトがあるでしょうが」
「口を割らせます?」
「それも手間ですね」
多少痛めつければ簡単にアジトの場所は吐くだろう。元Bランクなら場数もこなしているだろうから手際よく済ませるに違いない。だが、アジトの場所がわかったら潰しておかないとマズい。これだけの人数が帰ってこなかったら、いくら何でも怪しむだろう。そして捕まっていることがわかったら、取り返すべく残りの全戦力を投入してくるか、さっさと見捨ててどこかへ行くか。ジェロルドさんの予想では後者。三十人というのは盗賊団のほぼ全員だろうというのが根拠だ。
「ほぼ全員ですか?」
「そうだな。これを上回る人数がアジトにいるとしたら百人近い規模になる。それだけの規模の盗賊団がいるのに巡回の騎士団が気付かないというのはまずないだろう」
「ついでに言うなら、それだけの規模の盗賊団なら、維持するために必要な飯も相当になって派手に動いているはずだが、そういう話も出ていない」
「ということで、アジトに残っているのはせいぜい五人だな」
そして少し話し合った結果、アジトの場所は聞き出すが、潰しに行くのはやめるという方針になった。理由は簡単。それほど離れていないところに岩山が見えるから、彼らのアジトはそこにある洞窟辺りだろう。だが、そこまでの道はおそらく獣道レベルで馬車は通れない。そしてそもそもの目的が王都への速やかな移動であるため、例え誰かを残すとしてもこの馬車を置いて移動することは出来ない。
「さて、それじゃ聞き出してみますかね」
ピクピク痙攣しているのを三人引っ張ってきて水をぶっかけて復活させる。体はスタンガンで麻痺しているので拘束無しで出来るのは楽でいい。
一応、すぐに必要になる物を用意すべくリョータは少し離れた位置へ移動する。尋問が青少年の教育に悪いとかそういうのは今更。むしろ余計な手間を減らすために必要なことをしないとな。
「長ったらしい前置きは無しだ。アジトの場所と残りの人数を吐け」
一人の胸ぐらを掴んでジェロルドが問いかけるが、どうやら脅しは不十分だったようで、返答は今ひとつ。
「答えるわけねーだろ」
「そうか。実に残念だ」
「へ?」
「リョータ」
「はい」
ジェロルドがつきだしてきた男の襟首を掴み、ポーレットと一緒にズリズリと引っ張り、魔法で掘ったばかりの穴の中へ放り投げる。しばらくして下から「ギャッ」という悲鳴が聞こえる。
「「……」」
盗賊二人が呆然とその様子を眺めているのを確認すると、ジェロルドが一人に言う。
「さて、言う気になったかな?」
「な……」
「な?」
「仲間は絶対に売らねえ!」
「そうか。ドリアル」
「ほいさ」
ドリアルが一人を引きずっていき、穴の中へ放り込む。再びむさ苦しい悲鳴が聞こえる。
「さて、話す気になったかな?」
「うるせえ!てめえらなんか「ほい、リョータ」
「はいよ~」
ズリズリポイッとな。
その間にドリアルが三人連れてきて水をぶっかけてたたき起こす。
「見てわかるかもしれんが、素直に答えない三人が既に穴の底だ。あの穴、結構深いからな。さて、質問に答えてもらおう」
「こ、答えてたまるか!」
「ドリアル」
「よっしゃ」
こうしてジェロルドとドリアルにリョータとポーレットが次々男たちを穴の底へ放り投げていく。
そしてその間エリスはと言うと、
「リョータの魔法!リョータの魔法!」
念のため、電撃魔法を追加で撃ち込ませていたけど、そろそろ死んじゃうからやめさせようか。




