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  作者: ひじきとコロッケ
ルルメド
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雷の魔法

 雷という現象はもちろん観測されているが、それがどうやって起こっているのか、この世界では解明されていない。エリスたちに雷を作り出す魔法だと説明して試してもらった結果は、小さな雨雲が出来、少しだけ雨が降った。それはそれですごい魔法だとは思うが、肝心の雷には至っていない。


「えーとですね……」


 説明できなかった。

 そもそも雷というのは、ざっくり言えば空気中のチリとか氷の粒がこすれあって生じた静電気がドン、と地面に落ちる現象。

 と説明したところで理解は得にくい。と言うか、既にポーレットに説明して、


「せいでんきとは?」


 と返され、それ以上の説明を断念した。

 静電気の原理を説明しようとすると、原子とか電子とか電荷とかそういう説明が必要になる。となると、「原子とは」という説明が必要になっていってキリがないので、それ以上の説明を断念したのだが、少し視点を変えて説明してみることにする。




 その日の夜、街道沿いの村について宿を取って夕食を終えてから揃って外に出る。暗い方がわかりやすいのでと言う理由をつけて。


「では試してみましょう。ポーレット、これを」

「ん?マフラー?」


 羊ではない何かの魔物の毛をより合わせた毛糸で作られたマフラーをポーレットの頭からポスッと被せる。


「そしてこうしてワシャワシャと」

「ふえっ」


 頭をゴシゴシやってやるとアタフタしているが、途中で手を止めて、自分でゴシゴシやるように指示。

 そして、電撃魔法の調査を頼まれているギルド職員さん――ジェロルドさんだそうな――に手のひらをポーレットに向けてもらう。


「リョータ、このくらいでいいですか?」

「ん?お、いい感じだな」


 だいぶ静電気が溜まったようで、ポーレットの髪の毛が逆立っている。


「よし、そのままジェロルドさんの方へ。そうだな、袖口……肘のあたりに触ってみてくれ」

「この辺ですか?」

「おう」

「わかりまし……ひゃっ!」


 バチッという音と共に火花が散り、衝撃に驚いたポーレットが尻餅をつく。触れられたジェロルドさんの方は服の袖なので特に影響はないが、思ったよりも明るく光ったのに驚いたようだ。


「今のは……?」

「雷の小型版ですね」

「雷……確かに、光ってましたが、音は違いましたね」

「ああ……そうですね。雷はこれの何十倍どころか何千倍もの規模ですから、ズドン、と響くんですよ」

「なるほど」


 ジェロルドさんは何やらメモを書いた後、ポーレットに絶望的な一言を告げた。


「もう一度やってみてください」

「えええ……」




「なんていうか、指が吹き飛ぶんじゃないかと思いました」

「そうだな、こんな感じだよな」


 目の前でポーレットが手をヒラヒラさせているので、指先を軽く弾いてやる。


「そうそう、そんな感じです」

「え?どんな感じなんですか?」

「あー、こんな感じ、な」


 エリスが手を差し出してきたので軽くパチンと弾いてやると、フムフムと頷いた。


「しかし、リョータさん」

「何でしょう?」

「確かに、衝撃はあるようですが、こんなのであの巨大アキュートボアが身動きできなくなるとは思えないのですが」


 そうなるよな。ここからの説明が難しい。

 静電気は電圧だけなら数万ボルトに達するが、電流はごくわずかだったはず。だから、バチッと光っても体内に流れるほどにはならない。だが、雷は電圧もすごいが電流もすごいので体内まで流れていく。当然だが、リョータの電撃魔法は雷を再現しているので、体内まで流れていき、その結果、神経を狂わせて麻痺させるだけでなく、当たり所によっては体内を焼き切るほどの威力となる。

 と言うことで、電圧・電流の説明をしなければならないのだが、どうやって説明するか。そして、説明したとしてどうやって電圧・電流を自在にコントロールするイメージを持たせるか。

 だが、リョータの懸念を余所(よそ)にジェロルドともう一人のギルド職員、ドリアルさんがポーレットと一緒にあーでもない、こーでもないと話を始めた。




「輝け!……ダメですね」

「轟け……ダメか」


 翌日、馬車移動の昼休憩中も三人は色々と試していたが今のところ成果は無し。やはり、何が起きているのかさっぱりわからない現象を言葉にするのは難しいらしい。って、「轟け」って何だよ。

 では、エリスはどうしているのかというと、こちらもこちらで頑張っている。頑張っているのだが、魔法は呪文詠唱ありきの理論派の三人に対し、リョータの呪文詠唱無しの魔法を最初から見ていたエリスはアプローチの仕方が違う。


「リョータの魔法……リョータの魔法……」


 足を肩幅に開き、両手を前に出して目を閉じてリョータリョータと繰り返している様子は、ちょっとサイコパスが入りかけていて恐い。だが、多分四人の中で一番最初にモノにしそうだ。


「んー!はう……」


 気合いを入れている間限定で、髪やら尻尾の毛がわずかに逆立っていて、静電気を帯びている。おそらくポーレットが毛糸のマフラーをゴシゴシやったときの様子をよく観察していて、それを再現しようとイメージしているのだろう。アプローチとしては正解に最も近いだろうな。


「あのー」

「はい?」

「そろそろ出発しません?」


 リョータが声をかけなかったら、日が暮れるまでここでやっていた可能性。夜営の準備はあるけど、村まで行って宿に泊まる予定にしているんだからそれは守ろうよ。




「大丈夫ですか?」

「問題ない」

「……程々にしてくださいね」


 翌朝、明らかに寝不足気味の顔をしたギルド職員に一抹の不安を感じながら、王都までの旅三日目のスタートだ。


「うーん、やはりここが」

「でもこれは」


 馬車の中でもポーレットとジェロルドさんが呪文をどうするべきか議論を交わし、マフラーをゴシゴシやって文字通りバチバチさせている。


「リョータさん」

「はい?」

「どうしてこうやってこすると、バチバチするんでしょうか?」


 その説明をしようとしたら二、三日では終わらないんだが。




「よし、あの馬車はおそらくこの先の休憩所で停まるはずだ」

「護衛らしいのもいるにはいるが、素人同然だな」

「荷物は結構重そうだから期待できるぜ」


 それなりに騎士団が定期巡回しているとは言え、盗賊団というのはいつの間にか発生するのが世の常。そして、出来たて盗賊団の彼らはこれまでに数回、村人の荷馬車を襲ってうまく行ったという成功体験から、リョータたちの馬車を襲うことを計画した。

 村人たちの荷馬車はそれぞれの村一番だろう、屈強な男たちが警護に就いていたが、武器と呼べそうなものは鎌や鍬。剣や槍で武装した盗賊相手には為す術も無く、というか野生の動物くらいは相手にしたことがあるだろうが、人間相手に武器を振るった経験のない者ばかりだから、簡単に片付いて結構な稼ぎになった。

 一方、リョータたちはというと、戦うには少し歳の行っているように見える二人に、武装らしい武装が短剣のみと言う若手三人。では魔法を使うのかというとそういう様子も無いので、楽に襲えるように見えてしまったとしても仕方ない。


「お、予想通りあそこで休憩だな」

「一気に行くぞ」

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