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  作者: ひじきとコロッケ
ルルメド
234/347

報酬をもらおう

「うん……ぷはあっ……この一杯のために頑張った……って、これジュースじゃないか?!」


 チッ、バレたか。


「むむ……仕方ない、作戦変更」

「へ?」

「よ」

「よ?」

「酔わせずにどうするつもりだったの?」

「意味がわからないんですが」

「くっ」

「支部長、こんなところに紛れ込んでいたのですか」


 ユーフィの背後にいきなりロールが現れて襟首をむんずと掴んで引きずっていく。


「え?あの?え?」

「さ、行きますよ」

「ちょっと?ロールさん?」

「まだ後始末が山ほどあるんですから」

「そんなの私じゃなくたって」

「ええ。ですが、決済のサインはあなたで無ければならないのです」

「ちょっ……待て!私は今、将来有望な冒険者との親交を深めようと」

「っと、リョータさん、支部長はまだ仕事が残っていますので失礼します」

「はは……はい」

「そんなあ」

「支部……いえ、ユーフィさん」

「!」

「仕事、頑張って下さい」

「任せておけ!」


 扱いやすい人種だったなと見送ったところにエリスが戻ってきた。


「今のは?」

「お、エリス、それウマそう」

「あ、うん。おいしいよ、はい」

「ありがと」

「支部長さん、なんだって?」

「まだ仕事が残ってるから頑張ってくるってさ」

「そっか」


 絶対聞こえていたはずだけど、意味がわからなかったんだろうな。


「リョータ、ポーレットは?」

「あの辺、かな?」

「あ、いた」


 声はすれども姿は見え……チラッと見えたが、すぐに消えたな。


「放っておいても問題ないだろ」

「うん。あ、これおいしい」

「一口いいかな?」

「ハイ」

「ありがと」


 ……周囲から爆発しろと言わんばかりの視線が集まるが、気にしないことにする。

 死線をくぐり抜けたパーティメンバーが互いを(ねぎら)っている、実に健全な場面であって、それ以上の何かはない。

 ポーレット?あっちの方で大勢に労われてるよ。土嚢運びで親睦を深めたんだろうな。

 やがて日が傾き始め、腹一杯になったが酔い潰れてはいない者は自力で街へ戻り、酔い潰れた者はそのまま放置される。普通なら魔物に襲われてしまう事態だが、樽を開ける勢いで飲んでいても素面(しらふ)同然の者がいて、時折武器を振るっているのが見える。

 どうせこの辺りで襲ってくる魔物なんて、ホーンラビット程度だから簡単に斬り捨てられ、追加の肉として焼かれているようだ。

 篝火(かがりび)って肉を(あぶ)るのに使えるんだな……って、そんなわけあるかい!と高揚した空気で少し酔った頭で思いながら「そろそろ戻ろうか」と腰を上げる。


「ポーレット、回収してくるね」

「頼んだ」


 こうして巨大アキュートボア討伐祝宴の夜は更けていく。




「うーっす。昨日の報酬を」

「えーと……はい、こちらを」

「どもっす」


 討伐はどうにか終えた。その後の解体もなんとかなった。討伐を祝した宴も開かれた。だが、討伐に参加した冒険者に報酬は支払われるべきだ。例え土嚢を運んだだけでも、あの巨体が壁を破壊して来たら逃げようがない距離にいたという意味では命がけだったのだから。

 そんなわけで冒険者ギルドは珍しく朝早くから報酬の受け取りに来た冒険者たちが行列を作っていた。そして、それぞれが思ったよりも多い報酬に「よし今から飲みに行くぞ!」とはならなかった。


「あ゛あ゛……頭痛え」

「戻って寝るか」

「だな」


 単なる二日酔いである。

 そして並んでいる大半が、宴会のあとそのまま魔の森で寝っ転がり、日の出と共に起き出してそのままここに来ているので、


「酒くせえ」

「他にもなんかひどい臭いです」

「と言うことで、ポーレット。代表してもらってきてくれ」

「はは……はい」


 酒以外にも色々臭いがきつく、エリスが早々にギブアップ。そもそも一人が行けば事足りる話なので、ポーレットに行かせることにした。何、昨夜の宴会でも人波にもまれて動き回っていたから、このくらいの混雑、どうと言うこともないだろう。

 流されていただけかも知れないが。

 そんなことを思いながらギルドの外で待っていたら、ポーレットがその人波からスポンとはじき出されてきた。


「リョータ」

「よし、じゃあ」

「ま、待って」

「ん?」

「支部長が話があるから、奥に来るようにって」


 嫌な予感しかしないんだけど?




「すみません、色々とゴタゴタしている中」

「いえ……」


 支部長室に通されると、ロールさんが深々と頭を下げてソファに座るよう促してくるが、三人揃ってその先の光景にドン引きしてしまい、最初の一歩が踏み出せない。


「リョータさん!来てくれたんですね!やっぱり私と「手を動かす!」


 バシッ!


「は、はいぃぃっ!」


 支部長の執務机の上には山のように書類が積み上がっており、すぐ脇にある通用口っぽいところから他の職員が出入りしていて書類の追加を繰り返している。多分、表で冒険者に報酬を支払った手続きの決裁か確認だろう。支部長という立場上、そういった事務手続きが職務としてあるのは理解出来る。そして、今回の件は通常の依頼とは違う。普通なら受付で処理して、少し上の人間が確認すれば終わる手続きも、支部長のチェックが必要になるだろうから、支部長が忙しいのは当然だろう。そして、その忙しさに音を上げかけて投げ出しそうになるのをロールという職員が叱咤しながら処理させるというのも……わからなくもない。

 唯一、執務机の周囲を鉄格子で囲んでいる点が理解しづらいところだ。


「すみません、こうしておかないとリョータさんの安全が確保出来ませんでして」

「意味がわから……いえ、理解しました」


 机を乗り越えてこちらに来ようとするが鉄格子に阻まれる。そしてその鉄格子をつかんでガシャガシャしているところにロールがハリセンをスパーンといい音をさせて叩き込む。


「うう……ロール、少しくらいは」

「ダメです……そのひと山をとりあえず片付けて下さい」

「うがあああ!」


 一応は一枚一枚チェックして不備があると「見直し」と書かれた箱に放り込んでいるようで、仕事はしっかりしているようだ。


「騒がしくて申し訳ありません。なかなか聞き分けがなくて」

「……ハリセン、役に立ってるようで何よりです」

「ええ。コレはいいですね。身体的なダメージが少ない割に音が大きくて、叩かれた相手は萎縮して言うことを聞くようになる。もっと早くこれを手に入れていたらと」

「ははは……」

「つい、こう……音の良さを追求してしまったりなどして」


 手首のスナップにこだわり始めたようである。


「で、話というのは?」

「それほど難しい話ではない」


 支部長が手を止めずに話を始めた。


「私とリョータ「支部長」

「っと、今回の件の報酬についてなんだが」


 ロールさんがパシッとハリセンを軽く鳴らしたら真面目な話になった。条件反射かな。


「実は、金額の算出が出来ない」

「へ?」

「私から補足しますね」


 そう言いながらロールさんが色々書かれた紙をスイッと出してきたので受け取る。


「通常、あのような災害級の魔物が出た場合の報酬の計算方法は大きく二つに分かれます」

「二つ?」

「一つは過去の例に基づく方法です。過去に同様の規模の魔物が現れたときの記録を元に算出するという形になります」

「はあ」

「そしてもう一つが、その魔物の討伐がなされなかった場合の被害規模と素材の売却額からの算出です」

「えーと、その場合は、被害が大きくなると予想されるほど報酬が増えるし、素材の売却額によって増減もする」

「概ねその認識で合っています」

「今回のケースは後者に該当する」


 相変わらず手を止めることなく支部長が続ける。


「記録されている限り、このコルマンドは過去に三度、災害級の魔物の襲撃があったらしい」

「ん?なら過去の例に従うのでは?」

「三回ともドラゴンだったのです」


 ドラゴンとアキュートボア、何が違うのだろう?

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ~…これはアレですか。デカくて強いけど猪は所詮猪だから安い→差し引きマイナスパターンか、今回のデカ猪は初出=素材の値段が決まってないから査定不可…のどちらかかな? 頑張って倒したうまみが…
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