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  作者: ひじきとコロッケ
ルルメド
221/346

真相を知ったブレナク王国

「これが事の真相ね……」

「関係各所が大騒ぎになっておる。落ち着くまでひと月ふた月では済まんな」


 ザランの真ん中にドラゴンが現れて大暴れという時点で国の歴史に残るような大事件。だが、それを最小限の被害に食い止めたのがリョータたちであることは冒険者ギルドの職員をはじめとする目撃者の証言から明らか。

 そこまでは良しとしよう。今までにもドラゴン討伐を果たしてきた彼らが偶然(・・)居合わせたのは運がよかったと言うことだし。

 だが、そのあとが予想の反対だった。

 どういうわけか、リョータたちはドラゴンを倒した後、さっさとザランを出てしまったのだ。普通なら、街を襲ったドラゴンを討伐したなんて最上級の栄誉。国から出せる報酬など天井知らず。金貨の山から貴族の爵位、果ては王族との婚姻まで、国として出来ることならなんだって叶えたっていいほどの成果だ。何しろ、彼らの活躍がなかったら街が一つ消滅していたかも知れないのだから。

 ブレナクの国王としては礼を言う相手がいなくなってしまって、なんとも感情の持って行き先がなくなり、王妃やら側近やらに愚痴り始めたところにとんでもない情報が持ち込まれた。

 リョータたちが街を出るとき、衛兵たちに「これを是非とも偉い人に渡して下さい」と手紙を渡していたのだ。渡された衛兵もリョータたちのことは知っていたので受け取るのはやぶさかでは無かったのだが、扱いに困り、特に罠が仕掛けてあるわけでもなさそうなのでそのまま隊長へ渡され、隊長が「とても私では処理出来ません」と領主に渡し、受け取った領主が「私も処理出来ません」と国王へ送ったのである。ちなみに、ドラゴン討伐からすぐに街を出ていたために衛兵のところに情報が回ってきていなかったため、リョータたちを引き留められず、メチャクチャ叱られたらしいが、国王から「あまり叱るな」という一言と「むしろ手紙をこちらに回したことに褒賞を」となったという。

 たかが冒険者の手紙。普通ならそんなことは起こらないのだが、何しろリョータたちは国王たちの覚えのいい冒険者となっているため、このような流れとなったのだが、届いた手紙を読んだ国王は頭を抱えるしかなかった。

 手紙に書かれていた内容はとてもシンプルで、バルナル商会が運ばせていた物の正体について書かれていた。あまり使われることの無い薬草で、最近、一部の貴族の間では精力剤としての効果があるとされて人気があるということ。営巣地より東側の領域にはあまり見られない薬草のため、ザランより先に住む貴族からの求めに応じてバルナル商会が手配をしていたこと。

 ここまではいい。精力剤を貴族が求める云々(うんぬん)は貴族の世襲制を採っているブレナクの貴族たちにとって死活問題だから。

 だが、その先がマズい。その草の臭いがドラゴンを引き寄せる。しかもかなり遠距離からでも。

 至急、冒険者ギルドに事実確認をさせたところ、魔の森でも営巣地に近いあたりにちょっとした群生地のようなものがあるらしいところまで確認できたが、その先、つまりザランより先では確認出来ていないから、営巣地を抜ける山道を運んでいくのはわかるが、その都度ドラゴンに襲われているどころか、ここ数年の営巣地越えのドラゴンによる襲撃の八割以上がこの薬草運搬中だったと判明した。ちなみに運搬の成功率はゼロ。よくもまあこんなので商売を成り立たせようとしていたものだと感心するより他ない。


「薬草自体に違法性は全くない」

「そうね。麻薬の類いでも無いし、毒性があるわけでも無い」


 せいぜい、鼻の良い獣人が臭いに顔をしかめる程度で、これを違法だと言い出したら街にある下水設備は臭いという理由だけで全部違法建築になってしまう。


「リョータたちはどうやって運んでいたのだ?」

「厳重に密封していたようね。実際に使っていた箱をこちらに運ばせているけど、水の中に放り込んでも中身が濡れない程度にガチガチだったみたい」

「なら、今後はそれで運ぶのか?」

「でも、開けたら風向きによってはドラゴンが釣られてくるのでしょう?」

「そうだな」


 使い方は煎じて飲むというものらしいから、臭いは一層強く広まるだろう。そしてそれに釣られたドラゴンが襲ってくるタイミングというのは……だいたい、それを服用した貴族が事を致そうというタイミングだ。


「それは……いたたまれんな」

「ええ」


 とりあえず国王が出来ることは、薬草の扱いに関しての触れを出すことと、他国へも情報を流すことくらい。違法だと取り締まってもいいのだが、一応は傷薬としての効能のある薬草だから取り締まるのも難しい。


「バルナル商会には相応のペナルティね」

「そうだな」


 幸い、街の被害はほぼ無かったとは言え、リョータたちがいなかったらどうなっていたかという事態を招いたのだ。結構な額の罰金を科すことになった。その一方で、ドラゴン自体は全て国が回収。ほぼ完全なドラゴン一頭を手に入れたことで、国庫もかなり潤う。


「で、リョータたちだが……」

「どうも他の街は全部スルーしながらそのまま南下して、ルルメドへ抜けるつもりみたいなのよね」


 手紙の行き来だけで十日弱かかってしまったのだから、その間にさっさと、というのはあり得そうな話だ。


「はあ……ルルメドには連絡を」

「入れておいたわ」


 国王に一言も相談せずにさっさと事を進めている王妃を頼もしく思いながらあれだけの実力者をみすみす逃してしまったことを残念に思い、八つ当たり気味にバルナル商会への罰金額を五倍に増やしておいた。

 なお、当のバルナル商会はザラン支店を即日閉店した。店内の商品全てがひどい臭いになってしまって売り物にならなくなっただけでなく、建物にも臭いが染みついてしまい、周囲からのクレームがひどくなったのが原因である。




「ということになっていると思いますので、このルートです」


 当初、そのまま南下していこうとしたのだが、途中で大雨に見舞われて二日間の足止めを食らってしまったため、ポーレットが「迂回しましょう」と提案したのである。

 ルルメドへ抜けていくルートはただ単に真っ直ぐ南下するだけなのだが、途中で東側、海岸の方へ迂回するルートがあり、そちらへ向かうとルルメドとの国境となっている街を経由せずにルルメドへ抜けられる。なんでもこの近辺は土壌が豊かでかなりの数の開拓村が有り、それぞれが好き勝手に行き交うようになっているため、一番大きな街道以外はほぼノーチェックで抜けられる。

 そして、ルルメドに入ってしまえばブレナクの国王がどんなに騒ごうともスルーされるだろうと。


「もしかしてブレナクとルルメドって仲が悪い?」

「悪くは無いですが、良くも無い、と聞いたことがあります」

「つまり、普通か」

「はい」


 この大陸では基本的に人間が住めるのが大陸の外縁部のみであり、色々な資源を魔の森に頼っている国が大半という地球の感覚からすると随分歪な地理的要因もあり、どの国も国境線というのは両隣にある。そのため、一方の国と険悪な仲になり、戦争を始めるなどとなると反対側から襲われ、結果的に国が滅んだり、妙な具合に分断されて新しい国が出来たりというのが歴史上繰り返されてきている。

 そのため、と言うほどでもないのだが、大半の国がどちらか一方に肩入れするのでは無く両方と上手いこと折り合いをつけて良い感じの関係を築くという方針をとっており、ブレナクとルルメドでも同じような感じと言うことだ。

 つまり、ブレナクとイーリッジの間で起きたゴタゴタが大ごとになる前に何とか片付いたのはブレナクにとっては非常にありがたく、ルルメドにとっては付け入る隙がなくてちょっと残念、と言う結果だとも言える。

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