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  作者: ひじきとコロッケ
ブレナク
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面倒くさい荷物

「じゃ、荷物のことはくれぐれも頼む」

「わかりました」


 商業ギルドの輸送依頼と言うことで正式な書類も受け取ったから持って行くだけ。壊れ物ではないが、急ぎたいらしいので、すぐに行こうとしたら、先ほどの男、デニスがわめいていた。


「待て、待て!」

「なんだよ……さっきも言ったけど連れて行くのは無理だぞ」

「それはわかった。だが、これだけは持って行ってくれないか?」


 そう言って縦横二十センチほどの箱を出してくる。横転した馬車から持ち出した荷物らしい。


「これをザランにあるバルナルの支店に運んでくれ」

「はあ……」

「ちょっと待ってろ、正式な書式は用意出来ないが、キチンとした書面は書いてやる」


 さっきまでわめき散らしていたというのにこの代わり身の速さは一体、と(いぶか)しんでいるうちに書類を書き上げて見せてきた。


「これでどうだ?」

「ああ、俺たちも確認するよ」


 セルジさんの護衛の冒険者、アントが一緒に内容を確認し、問題ないと判断したところでデニスが同じ内容でもう一枚書き上げる。


「俺たちもここに確認のサインを書く、これを冒険者ギルドに提出しておくから、これを持って運んでいけばいい」

「お手数かけます」

「いいって。こう言うのはお互い様だ」


 デニスの荷物も積み込んだところで、セルジさんたちが街へ向けて戻っていくのを見送る。そして、戻っていく馬車が見えなくなるとすぐに荷車を走らせる。


「ポーレット、どうした?」

「さっき、騒いでいたデニスという人について少しだけ補足を」

「この荷物のこと以上は聞きたくないんだけど」

「関わりたくない気持ちはわかります。私も同じです」

「おう」

「アレで一応、ブレナクで三番目くらいの規模の商会バルナルの」

「まさか一番偉いとか」

「いえ、さすがにそれは。ただ、この先の街にある支店の支店長だったかと」

「なかなかの人物だな」


 ああいうのが支店長という時点でそのバルナルとかいう商会も程度が知れるけど。


「対策は一つだな」

「そうですね」

「え?え?」

「ポーレット……アイツがこの営巣地を越えるとしてどの位かかる?」

「えーと……」

「普通に進むとしてもここまで丸一日を潰してるんだぞ。なら、俺たちに追いつける道理はない」

「それはそう、ですが……」

「と言うことで急ごう」


 対策はとてもシンプル。届ける物を届けたらさっさとこの国を出ればいい。

 こうして実に面倒な紆余曲折の後、移動を再開したのだが、


「リョータ……この箱、すごく変な臭いがする」

「そうか……んー、何も臭わないけどな」

「ポーレットは?」

「私も特には」

「むー」


 エリスにはわかるが、リョータにもポーレットにもわからない、独特の臭いがするらしい。

 くさくてたまらないと言うことはないのだが、気になってしょうがないという感じの臭いだそうだ。

 とりあえず、箱は小さいので荷車の後ろの方に置き、エリスを前の方に座らせてどうにか、と言うくらいしか対策はない。




 しばらく走ると少し開けた場所に出た。ついさっきまでは崖の隙間のような道だったのが、広々とした草原の中を道が走り、道から少し離れたところには木々が見える。

 知らずに見たら普通の街道にしか見えないだろう。

 そう、ドラゴンがこちらに向けて飛んできているので無ければ。


「ドラゴン!!」

「なんで?!」

「知るか!よけろ!」

「ひいっ!」


 ただまっすぐ走らせるだけだったので運転を担当していたポーレットが慌てて荷車を右へ向ける。


「ガオオオオッ!」


 ギリギリで回避したがすぐに旋回してこちらに向かってくる。


「目が血走ってるな」

「何が何だか」

「とりあえずまっすぐ走らせろ。エリス、次に来たら電撃を打つからそのあとで攻撃だ」

「はいっ」


 リョータたちの乗る荷車の速度は最高でも馬車より少し速い程度。空を飛び回るドラゴンはあっという間に距離を詰めてくる。


「来たぞ……食らえ!雷撃!」


 周囲に自分たち以外にいないのを良いことに、特大の電撃を食らわせると、かなり効いたらしく全身をおかしな具合に痙攣させた後に墜落した。


「よし、ポーレット、止めろ!」

「はいっ!」


 荷車が止まるのが早いか、エリスが飛び出していき、続けてリョータも飛び出していく。

 リョータが放った電撃魔法はかなりの威力ではあったが、ラージサイズのドラゴンを仕留めるまでには至っておらず、グルルとうなりながらゆっくりと体を起こし始めていた。


「凍結!」


 ドラゴンの頭はデカく、リョータの魔法では凍らせられないが、その下、首ならば覆うことは出来る。


「ガ!」


 首を十センチ程度でも完全に凍らせればどうなるか。


「グ……ガ……」


 ドラゴンの体の構造には詳しくないが、呼吸は出来ていたとしても、血液が凍り付けば血流が止まる。炎すら噴き出すようなファンタジー生物故か体内の温度は高いらしく、すぐに解けてしまったようだが、一瞬でも動きが止まれば充分。


「たあっ!」


 上から振り下ろしたエリスのラビットソードがかなり深いところまで切り裂き、ドバッと血が噴き出す。


「グガアアアアッ!」


 首を振り回したのでエリスが飛び退いたところにリョータが追撃をする。


「とにかくすごい風で吹き飛ばす!」


 遠くの木々の向こう側へ飛ばしたところで、すぐに道の脇に転移魔法陣を描く。


「戻るぞ!」

「「はいっ」」


 エリスが飛び乗り、ポーレットが荷車を操って魔法陣に乗せたところで工房へ転移した。


「ふう……」

「ちょ……ちょっと寿命が縮んだかもしれないです」


 ハーフエルフの寿命が縮むとどのくらいになるのか問い詰めてみたいところであるが、とりあえず無事に工房に戻ってきた。


「おかしいよな?」

「ええ」

「おかしいです」


 ドラゴンの営巣地が山の上にあると言っても、一日に二度も襲われるというのはさすがにおかしい。


「もしかして、これ……?」


 エリスが顔をしかめながらデニスの荷物を手に取る。


「調べてみるか」

「調べてみると言っても、厳重に封をされた箱を開けたりしたら信用問題になりますよ?」

「箱を開けずに中を確かめれば良いんだろ?」

「どうやるんです?」

「私も気になります」


 二人揃って食いつきが良いな。

 とりあえず工房に入り、紙を広げてアレをイメージしながら図形を描き、箱を乗せる。

 そしてその横にもう一枚紙を置き、インクを入れた皿をその上に置いて準備完了、多分。


「これからやるのは非破壊検査」

「何ですか、それ?」

「違う言い方だと超音波検査とか」

「?」

「ま、やってみるか」


 理屈は何となくわかるし、多分魔法として使えるだろうが、初めての試みなのでうまく行くかどうかわからないと告げながら、魔法を発動させる。


「行くぞ、超音波検査~」


 魔法陣が鈍く光り、エリスが耳を塞いだ。どうやら超音波も聞こえているらしい。

 そして、隣の紙の上ではインクが勝手に動き出し、紙の上に絵を描き出す。


「お、おお!」

「自分でやっておいてなんだけど、結構すごいな」


 そこには鮮明とは言えないが、大まかな特徴を捉えた映像が描かれていた。


「草?」

「薬草か何かか?」

「んー、変わった形の葉っぱですね」

「そうだな」


 先端が鋭く尖ったスペード型といった感じの葉の形をしており、茎の部分にいくつものコブのようなものがある、特徴的な形をした植物……多分、植物。


「んー、どっかで見たような気もしますけど……」

「冒険者ギルドの依頼に出たことはない、という感じか?」

「多分。こんなわかりやすい特徴のある植物、採取依頼があったら絶対覚えてます」

「と言うことは……魔の森で見かけたことはあるけど、気にせず通り過ぎたとかそういう感じか?」

「おそらくは」

「とりあえず魔道書を見てみるか」

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