やっぱりこうなる
翌朝、商業ギルドへポーレットの日当諸々を申告し、冒険者ギルドでの依頼も確認。
ここからの出発は早朝から昼頃までと、時間的には幅があるが、護衛依頼は程々に人気があり、リョータたちが冒険者ギルドを訪れたときには既に護衛依頼は全てはけていた。
「ま、予想していたから別にいいけどな」
「いいんですか?護衛でも無しに行くのって、勿体ない気もしますけど」
「別に困らないんだよな」
「はいっ。むしろ私たちだけで行きたいです」
「だよなー」
「ん?どういうことですか?」
「相変わらずすごい物を気軽に作りますねえ」
「気軽じゃないぞ」
「作るの、結構大変でした」
「そーですか」
改良型自走式荷車は順調に街道を進んでいく。
速度を出しすぎて他の馬車を追い抜いていくと色々問題を引き起こしそうなので、程々に。
「これ、ヘルマンに見せたアレの応用ですよね?紙がスイッと動いた、アレ」
「と言うか、見せたアレがこれの完全劣化版だな」
「と言うことは」
「色々補強は入れているけど、ただの荷車の車輪をアレの要領で回してる。わかると思うけど改造費はほぼタダだな」
「これを本格的に売り出したらエピナント商会があっという間に霞むくらい稼げますよ」
「知ってる」
「え?」
「そのくらいは理解した上で作ってる」
「なら……まあ、売るつもりもないんでしょうね」
「今のとこは。遠い未来で、年食って楽して生きたいと思い始めたら売るかもな」
「人生設計、しっかりしてるんだか適当なんだかよくわかりませんが、好きにすればいいと思います」
「お前、奴隷の身分で結構辛辣だな」
「そうですよ。リョータに口答えなんて」
「私に味方がいないんですけど……」
そんなことを話している間に、いよいよドラゴン営巣地の山道に差し掛かってきた。
馬車が二台、余裕ですれ違える程度の幅の道。両側はかなり勾配のきつい斜面になっており、十メートルも登ったらほぼ垂直の崖となっている。下から見る限り、その上に登っていくのは難しそうで、わざわざここを登っていく物好きもいないだろう事は明らかだが、それでもチャレンジした者がいたのは間違いないらしく、所々にロープを引っ掛けるために打ち込んだ杭の残骸が見える。
「もう少し行くと休憩出来る広場があります」
「よし、速度上げるぞ」
「え?」
「ん?何かおかしな事言ったっけ?」
「いえ、休憩……」
「休憩、いるか?」
「私は平気です」
「俺も平気だが、ポーレットは?」
「えーと」
「一応聞くけど、乗ってるだけのポーレットさんは休憩が必要ですか?」
「あ、あはははは……大丈夫です」
そもそも休憩出来るような広場だと、他の馬車が停まっている可能性が高い。そんなところに自走式荷車で乗り込んでいったら騒ぎになるのは間違いない。そう言っていたのはポーレットだろうに。
しばらく進むと、なるほどそれっぽい広場のようなものが見えたので少し加速する。
「おお~すごいです!」
「わわわっ!わっ!わわっ!」
少々揺れがきついが、このくらいなら問題なしと広場の前を駆け抜ける。何かが通ったと後ろの方で騒いでいる声が聞こえたような気がするが……気のせいだ。
「リョータ」
「ん?」
「前の方で音がする」
「どんな音?」
「んーと、いろんな音がする。えーと、なんか叫んでる?馬が怯えてるような声……それから」
「それ、ドラゴンじゃね?」
「かもです」
ドラゴンってそんなに遭遇しないって話だったよねとポーレットの方をジト目で見たが、
「いえ、私に言われても」
「ま、そりゃそうだけどさ」
さてどうするか。
「エリス、何か変化があったら教えて」
「はい」
「ポーレット、ドラゴンに馬車が襲われているとしたらどうなる?」
「一応、護衛として選ばれる冒険者はドラゴン撃退に充分な戦力になるように選ばれているはずです」
「Aランクとか?」
「いえ。地形的に大型のドラゴンが降りてくることはまずないですから、Cランクの中でも腕利きが数名いれば追い払うくらいはできる、というのが基準になります」
「なら、しばらく待てば片付くか」
「私が知ってる限り、ドラゴンの撃退に失敗するのって滅多に無かったと思います」
「リョータ!」
「どうした?」
「何か壊れたような音がした」
「壊れた?」
「あと、すごい悲鳴」
「ダメだったっぽいな……見える位置まで進もう」
急ぐつもりならエリスだけ先行させてもいいが、それなりの準備をしていたはずの護衛がやられるレベルのドラゴンとなると、エリスだけ行かせるのは危険すぎる。大して速度が出せるわけではないが、このまま自走式荷車で進んでいこう。
ちょっとした坂を登り切ると、道は大きく右へカーブしており、エリスの聞いた音はそのカーブを抜けた先からだという。
「……!」
エリスが耳を塞いでしゃがみ込んでしまったが、どうやらダメっぽいなと、ポーレットと顔を見合わせる。
「覚悟はいいな」
「今さら逃げ場もないですし」
そしてカーブを抜けて見えてきたのは、横転した馬車二台と、倒れた衝撃で深刻な事態になったのか動かなくなった馬。
そして周囲に倒れている武装した者たちと、向こうを向いたまま首だけが動いて見える……ドラゴン。
「いたな」
「リョータ、あのサイズはラージ一歩手前です」
「解説どうも。で、あんなでかいのは滅多にいないんじゃなかったか?」
「時々はこう言うことも起きるという一例と言うことで」
あまり想像したくないが、こちらに背を向けているドラゴンは食事中らしい。
荷車をゆっくり道ばたに寄せて木の陰に隠し、二人に確認する。
「エリス……馬車の中はわかるか?」
「わかる……よ。多分まだみんな生きてる」
「了解。ポーレット」
「私を餌にするのはやめてください」
「誰がそんなことするか」
だいたいお前、肉らしい肉がないからドラゴンも食い出がなくてそっぽ向くと思うぞ。
「この状況、助けに入ったとして……面倒事になるよな」
「私たちが関わって面倒事にならなかったこと、ありましたっけ?痛っ」
余計なことを言うので、デコピンをしておいた。
「あの馬車、倒れてるのに壊れてないな」
「多分、鋼材で補強が入ってるんだと思います」
「へえ」
「さすがのドラゴンも鋼鉄をかみ砕くのは少し骨が折れるらしいので」
牙が折れるんじゃないんだな。まあいいか。
「鋼材が入っていると……電撃は使いづらいな」
「え?そうなんですか?」
「うん、まあ……そういうものだ」
説明がしづらいな。
「さてと……ここで待っていてもしょうがない。出来ることをしよう」
「「はい」」
「エリス、倒れている人は……その……生きているか?」
「多分、ダメです」
「了解」
「ポーレット」
「はい」
「あのドラゴンを追っ払うが、馬車に乗っている乗客は絶対に俺たちについてこようとする」
「でしょうねえ」
「うまい断り方を考えておけ」
「えー」
「そのくらいの役には立て」
「難易度高いです」
「ボーナスははずむぞ」
「お任せ下さい」
ドラゴンとまだ乗客が中で生きているだろう馬車との距離が近すぎるので、お手軽に高い効果の出る電撃系は使えない。
では火炎系は?ドラゴンって火に強そうだよな、と言うことで却下する。やろうと思えばドラゴンも焼き尽くす火力は出せるだろうが、それをやると馬車の中が蒸し焼きになるし。
「さてと……こんな感じかな……」




