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  作者: ひじきとコロッケ
ブレナク
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報酬をもらったら逃げる

 ヘルマンの資料を基に再精査するように指示をした王妃がやれやれと肩をすくめながら戻ってきた。


「まったく……ヘルマンが調査していなかったらどうなっていたことやら」

「調査していなくても一覧の見直しはさせたのでは?」

「指示を出してから動き出すまでの間に逃げられるのが落ちよ。相手も馬鹿ではないのだから」


 なるほど。国王が調査を指示すれば、必ずそれなりの立場の者が動くことになる。動き出すのに無駄に時間がかかることにもなるだろうし、こっそりやるのも難しいから必ず首謀者を始めとした貴族連中にバレる。

 その一方で、ヘルマンたち冒険者の動きを気にとめる貴族はほぼいない。

 ヘルマンはSランク冒険者だから、目立った動きをしたら貴族にも気付かれるだろう。だが、冒険者としての活動以外に目立った動きを見せていない上に、実際に動いているのはランクこそ低いが、実力は充分な者ばかりという。しかも、ランクが低いと言ってもCランク以上がゴロゴロしているのだから調査能力は充分で、結果の信憑性も高い。

 貴族たちが冒険者の動きを捉えていない理由はとてもシンプル。連中はAランクとかSランクの冒険者の動きはそれなりに把握しているが、それより下の冒険者は軽く見ている傾向が強い。おまけに該当する冒険者の人数も多い。

 王都周辺だけでもB、Cランクの冒険者は三桁に届きそうな人数がいるから、全員の動きを把握などとてもできないというのが実情。だからヘルマンは表向きは何もしていないふうを装っているだけで良く、王妃が完璧と太鼓判を押すような精度の調査ができていたのである。


「はあ……こんなことならブレナクに嫁がずにこちらで王位に就けば良かったかしら」


 とんでもないひと言が出てしまった。


「えーと」

「冗談よ。あんないい男、逃がしてなるものですかと押しかけて嫁いだんですし」


 薄々感じていたけど結構な肉食系だった。


「それに、当時の情勢的には……つまり政略結婚としての意義も大きかったしね」

「はっはっは。俺はお前が国を出てから随分気楽に過ごせるようになっ痛えっ」


 王妃のハリセンがヘルマンの頭に振り下ろされるが、色々大丈夫なのか、この状況。


「リョータは青い血、という表現を知っていますか?」

「確か……貴族のことを指す言葉だったかと」

「その意味も知っていますか?」


 確か、地球では実際には外に出ずに不健康な生活をしているから、血管が浮き出て見えたのを言っているという説もあるが、こちらでは特にそういうことはないらしい。実際、これまでに見てきた貴族は白人系とは限らず、血管が透けて見えづらい肌の色のものも多かった。


「貴族は平民と違う、ってことですよね」

「ええ」


 王妃が続けた説明は、これまで何となく貴族に抱いていたイメージと、これまでに接してきた貴族のイメージの穴を埋め、今の王妃の立ち振る舞いの理由を説明するものだった。

 貴族は大陸のほとんどの国にいて、一部の最下級貴族や四男五男とかの成人したら平民になってしまうような立場を除けば基本的には特権階級という位置づけである。

 だが、その特権階級というのは……魔の森に通じる街やその周辺の村を治める領主としての責任とセットとなるもの。国民、領民から税を徴収し、その税を使って安全な生活のために尽力する責任を負う。

 その責任の報酬として、ある程度の贅沢は許されるが、次代、次々代と平穏な世を維持するためにも過分な贅沢は控えるべき。それが貴族なのだというのが王妃の考え方。そして、その次代へと繋いでいく血統、それが青い血であり、平民とは違う重い責任を負う立場だという、実に高貴な考え方だ。

 もちろん、きれい事ばかりではないことをしっかり認識しているし、王妃自身も反対勢力の貴族に対し、色々やったことは両手の指で足りないくらいにあるし、その内容もとても口に出来ないようなものだらけだ。だが、それらは全て国のため、民のため、未来のためというつもりであり、奪った命の重さは背負い続ける覚悟を持って手を下した。

 もちろん、された側の思いは真逆かも知れない。だから葛藤し続ける。そして道を誤らぬようにと努め、こうして身内がやらしかけたのをどつき回すのも、決して趣味ではなく、責任を果たしているだけなのである。

 と言われても、国王にハリセンを振り下ろすときの恍惚とした表情を見ると、説得力がないのだが。


「リョータ、一つ忠告しておきます」


 他言無用ですね、わかります。


「この先、リョータがどこへ向かい、何をなそうとしているのか、興味がないと言えば嘘になりますが、聞きません」

「はい」

「その代わり……恐らくこれから向かう国々、これまで通ってきた国々で色々と誘いがあるでしょう。我が国でもあったように」

「貴族へのお誘いですか」

「ええ」

「言われるまでもなくお断りします」


 面倒臭そうだし。


「どういう返事をしてもリョータの自由ですから、どのような決断をしても私は何も言いませんが、一つだけ覚えておきなさい」

「はい」

「今、あなたが見ているものが……貴族、王族の責任であり、責任ある立場になるという覚悟です」


 できれば高笑いと共にハリセンで国王をどつきながら言わないで欲しいんですが。


「これ、使い勝手が良いですね。構造も単純ですし。量産して城内各所に隠しておこうかしら」


 大阪の人でもそんなことはしないようなことを口にしてるんだが、大丈夫か?




 その後、王妃が「さっさとやれ」と命令し、その日のうちに全員が捕らえられ、関わっていた家族に使用人までも芋づる式に。そして三日後には全員の処刑が実行された。完全に内政干渉ではないかという気もするのだが、手続き上も問題ないし、そもそも問題だらけの貴族が一掃出来たのでイーリッジとしても助かる流れだとヘルマンが教えてくれた。


「ま、お前さんたちには関係の無い話か?」

「全く関係ないとは言い切れないんですけどね」

「そうなのか?」


 あと一日かけて片付けたら戻るのでそれまで好きに過ごしていいと言われ、ヘルマンたちと夕食を共にしたのだが、どう考えてもブレナクに戻ってから色々とありそうだと懸念を告げると、なるほどと頷かれた。


「それもそうか。だが、ものは考えようだ」

「え?」

「ブレナクはそれなりに強い国だ。その王族が後ろ盾についたようなもんだろう?」

「首に縄を繋がれたようにしか思えないんですが」

「心配するな……俺も似たようなもんだ」


 そうか、さっきからヘルマンがゴキゲンな笑顔なのは仲間が出来て嬉しいからか。




 ブレナクに戻る日、ここに来るときについてきた宰相の息子とか近衛騎士が数名、こちらに残ると言うことで見送る側にいた。一通り片付いたが、そのあとのゴタゴタがまだ続くので、そのあたりのフォローと監視なんだそうな。

 リョータたちも見送りに来ていたヘルマンたちに挨拶をして馬車に乗り込み、そのまま転移魔法陣へ。朝、普通に人々が仕事を始めるくらいの時間帯にイーリッジを出て、昼前にはブレナクに到着。実にお手軽な移動なので、王妃がチラチラとこちらを見てきたが、スルーした。今後の足は自分で用意して下さい。

 ちなみに子供たちはそのままブレナクで引き取ることになったが、いずれはイーリッジに戻り……と言うことも考えているらしい。そんな話をされたが、好きにすればいいと思うと答えておいた。

 さっさと逃げたい。




「これが今回の報酬だ」


 国王の言葉と共にパンパンに膨れた袋が山と積まれた。大金貨では使いにくいだろうと言うことで小金貨で用意してもらったというのもあるが、相当な額なのは間違いない。ポーレットが気を失いかけたが、頭をはたいてなんとか持ち直させた。


「それで「貴族の地位とかはお断りします」

「どうしてもか?」

「どうしてもというか、どうして俺たちを貴族にしたいのかと」


 問い詰めたいのだが、


「じっくり説明しようか?」

「いいえ」


 小一時間ではすまなそうなので、色々と断り、山積みの袋をポーレットのバッグに押し込んで城を辞した。

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